※本ページ内の情報は2025年5月時点のものです。

AIツールは増えているのに、使いこなせる人材が足りない。この課題を解決するのがアローサル・テクノロジー株式会社だ。大手企業から中小企業まで、社内のAI活用人材の育成と内製化をサポートする同社は、研修・コンサルティング・開発・情報発信の4事業を展開している。すでに1万人以上の研修実績を持ち、上場準備も進める同社代表取締役CEOの佐藤拓哉氏に話を聞いた。

経営者と警備員、2足のわらじで歩んだ創業期

ーー貴社を起業するまでの経緯を教えてください。

佐藤拓哉:
私は中学生の頃から、情報技術の分野に興味がありました。その頃、友人たちが次々と携帯電話を持ちだす中、私は持っていなかったのですが、その代わりに家にあったパソコンを使ってP2Pソフトやオンラインゲームなど、さまざまなアプリケーションに触れていたのです。この経験が高校や大学で情報処理の道を選ぶきっかけとなりました。

また、ものづくりにも興味があったので、情報処理の分野と相性が良いと感じていました。大学卒業後に就職したSIer企業では、プログラマーに加えて、ディレクターに近い業務も担当し、営業的な視点も身につけていきました。若手ながら2000万円ほどの仕事を受注するなど、自分には営業センスがあるのではと思い、自分の可能性を広げるために2013年に弊社を起業しました。

ーー起業してからはどのような苦労がありましたか?

佐藤拓哉:
起業当初は非常に大変でした。起業してすぐに詐欺に遭い、約1000万円の負債を負ってしまいました。そのタイミングで子どもも生まれ、さらに銀行からの借入もできない状況に陥ってしまいました。昼間は会社の経営者として働き、夜は交通警備のアルバイトをしていた時期もありましたね。

それを乗り越えられたのは、相談できる仲間や先輩がいたからです。弊社では、ストレングスファインダーのような自己診断テストを活用し、自分の強みと弱みを理解し、お互いに補い合う文化があります。私の特性は、共同代表の久保田と正反対ですが、だからこそ全体的に補い合えているのだと感じています。周りが助けてくれたおかげで、一人で抱え込まず前を向いて進んでこられました。

企業のデジタル変革を加速させる内製化支援サービス

ーー貴社の事業内容について教えてください。

佐藤拓哉:
弊社はオフショア開発から始まり、現在はAIに特化した事業を展開しています。日本のデジタル競争力や生産性が低い理由の一つとして、企業内でのアプリケーション活用の課題があります。グローバルでは1社あたり平均93個、その中で大企業に限定すると231個ものアプリを導入しています。しかし、日本ではアプリの導入数も少なく、導入したアプリも十分に活用できているとはいえない状況です。

こうした課題に対して、弊社は「人材を外から調達するのではなく、社内で育てていく」というアプローチをとっています。

まず教育事業である「AIリスキリング」では、最新のAIツールを活用した業務効率化研修を提供し、社内人材のスキルアップを支援しています。専門家による「AIコンサルティング」では、お客様の課題や目標に合わせたAI導入戦略の策定から実装までをサポート。必要に応じて開発支援を行う「AIインテグレーション」では、業務システムとAIの連携や自動化ソリューションの構築など、テクニカルな実装をワンストップで提供しています。

そして、自社メディアの「WA²(ワッツ)」を始めとした「AIメディア事業」では、AIツールの最新情報や活用事例を定期的に発信し、AI技術を効果的に活用するための情報基盤を構築します。これまでに1万人以上に研修を提供し、多くの企業で高い評価をいただいてきました。

ーー貴社のサービスにはどのような強みがありますか?

佐藤拓哉:
最大の強みは、研修のレパートリーの多さとカスタマイズ性です。社内で多くのAIツールを検証しているため、受講者の業界や職種に合わせたAI研修メニューを提供し、各企業に最適なツールをご提案できます。加えて、開発まで手がけるワンストップのサポート体制も差別化ポイントになっていますね。

また、近年では特に大手企業からの相談が増加しています。社員数が多い企業は、1人当たりの効率化が僅かだったとしても、全体で見ると大きな効果が得られるのです。AIの導入に積極的な大手企業は多いと思っているので、今後も伸びていくのではないかと期待しています。

AIの可能性を広げるビジョンと上場への足固め

ーー今後の展望についてお聞かせください。

佐藤拓哉:
短期的には、「WA²(ワッツ)」をAIツールの学習プラットフォームへ発展させていきたいですね。AIツールの分かりづらさを解決し、AIを身近にすることを目指しており、現在のコンテンツ配信からeラーニング機能の解放へと進化させる計画です。

中期的にはAI技術をベースにハードウェア開発にも挑戦したいと考えています。加えて、長期的には、中学生のころから興味のあった「不老不死」の研究や、生活に必要なコストを限りなくゼロに近づけるような取り組みにもAI技術を活用したいという思いがあります。そのためにも、まずは上場を目指して社内体制を整えているところです。

ーー上場に向けてどのような取り組みをしていますか?

佐藤拓哉:
最も注力しているのは大手企業との連携強化です。大手企業は資金調達の面で出資してくれる可能性があり、同時に弊社のお客様にもなり得ます。彼らの業務効率化やAIリテラシーの向上に貢献すれば、彼らも喜び、弊社も売上が増え、株価にも反映される良い循環が生まれると考えています。

また営業体制の構築も重要な課題であり、上場に向けて、組織として計画通りの売上を立てられる仕組みづくりを整えています。最終的には広報の強化も行いますが、順序としては営業体制の構築が先決と考えています。こうした取り組みを経て、これからも企業のAI活用人材を増やし、内製化を支援することで日本企業全体のデジタル競争力向上に貢献していく所存です。

編集後記

取材を終えて強く感じたのは、同社の「補い合う文化」の強さだ。それはAIツールの選定にも反映されており、一つの解決策に固執せず、企業の特性に応じて最適なツールを柔軟に組み合わせる姿勢につながっている。AI技術を通じた社会貢献への熱意は、これからも多くの企業の成長を支えていくことだろう。

佐藤拓哉/1989年、熊本県生まれ。熊本県立技術短期大学卒業。一部上場企業のSIer企業に入社し、5年弱のシステムエンジニアに従事。2013年、アローサル・テクノロジー株式会社を創業し、代表取締役CEOに就任。現在は、AI関連事業に注力している。