
市場拡大とともに競争が激化し、大手による寡占が進む美容医療業界。そんな中、自由診療の美容クリニックを展開するAND medical groupは、経営と現場を分業する新たなモデルで、急成長を遂げている。代表理事として同社をけん引する草野正臣氏に、現在の事業を始めるまでの経歴やニッチ市場戦略、今後の展望について話を聞いた。
スポーツビジネス業界から医療業界へ!異色のキャリアが生んだ新たな挑戦
ーーまずは、これまでの経歴について教えてください。
草野正臣:
大学では医療ではない分野のビジネスを学び、卒業後はスポーツの放映権や衛星放送などを扱う企業に入社しました。アメリカの大手メディア企業と日本の大手総合商社の合弁会社でした。ここでは、法人営業とIR(機関投資家向け広報)を担当し、ビジネスの基礎を身につけました。漠然とですが新入社員時代から独立志向はあり、新卒から5年以上経過したのち現在の事業へとつながる会社を独立して始めたのです。
ーー医療業界とはどのようなつながりがあったのでしょうか?
草野正臣:
医療業界との関わりは、最初から事業として意識していたわけではありません。しかし、家族や親戚、同級生などの友人に医療従事者が非常に多く、その私自身のコネクションに強みを感じていた一方で、門外漢として外から医療業界の課題を身近に感じていました。たとえば、医療業界のIT化の遅れや経営的な視点、サービス視点でのマネジメントの不足といった問題です。そこに大きなチャンスがあると感じたことが、医療業界参入のきっかけとなりました。
強みは経営と医療の分業による、効率的な運営モデル
ーー貴社の経営と医療を分業した経営体制について、役割分担を教えてください。
草野正臣:
弊グループでは、役割を明確に分けています。医療の現場では、ドクターやナースなどの医療従事者が専門的に管理し、万が一医療事故や副作用が発生した際には内部だけでなく、外部の連携医療機関も含めて迅速に対応できるバックアップ体制を整えています。
一方で、私たち経営陣は事業拡大やマーケティング、システム化に注力する。この分業体制があるからこそ、医療の質を維持しながらもスピーディに事業を拡大でき、3年という短期間で全国30近くのクリニックを展開できたのだと思います。
「男性美容のニッチ分野に着目し、事業のベースを作る」競争を避けた独自の戦略

ーー事業が急成長したきっかけを聞かせてください。
草野正臣:
特に、泌尿器系の治療など、男性美容の分野に着目したのが転機でした。美容医療といえば、二重整形や鼻の整形など、顔周りの治療が王道です。弊グループも、新宿の拠点で女性向け総合美容外科サービスの提供からスタートしましたが、最初はうまくいきませんでした。そこで、私たちはあえて大手があまり参入していないニッチな市場にフォーカスしたのです。
ーーなぜ、ニッチ市場に目をつけたのでしょうか?
草野正臣:
美容業界では、広告戦略や集客が成功のカギを握ります。しかし、大手と同じ土俵で戦うのは新規参入者にとっては非常に難しい。そこで、大手が積極的に取り組んでいない分野でかつ、既存所属ドクターの専門分野にフォーカスし、確実にシェアを獲得する戦略をとりました。ある程度地固めができたところで、現在は王道の女性向けも含めた総合美容診療サービスにシフトしていっており、電車広告やCMで少しずつ認知度を上げているところです。
業界トップを目指し、国内外でさらなる飛躍と持続的成長へ
ーー今後の事業戦略について教えてください。
草野正臣:
まず、国内においては、まだクリニックが存在しない地域がたくさんあり、その展開を進め、全国規模での拡大を目指します。現在、弊社のクリニック数は約30店舗ですが、業界最大手の美容クリニックでは200店舗を展開している企業もあり、まだまだ成長の余地があると考えています。
加えて、日本の美容医療技術には一定のニーズが見込まれるため、アジア市場への進出も検討していく考えです。
ーー規模拡大のほかには、どのような戦略を考えていますか?
草野正臣:
たとえば、韓国で普及している医療機器、薬剤など、まだ日本で導入されていない技術の導入も積極的に逐次検討しています。さらに、外部の創薬ベンチャーと共同で化粧品や医療用製品を開発し、自社の治療に活かすことも考えています。
そして、もうひとつ大事なのは、現在のマネジメントメンバーが将来的にいなくなっても、永続的にクリニックグループとして成長していけるベースを築くことです。5年後、10年後も安定して成長できるよう、教育制度やマネジメント体制の構築にも力を入れていき、単に拠点数を増やすだけでなく、組織として持続可能な形を目指していきます。
編集後記
「常識」にとらわれない柔軟な視点と、圧倒的なスピード感。そして「ドクターがトップ」という美容医療業界の不文律を覆し、ビジネスパーソンならではの戦略眼で事業を急成長させてきた草野代表理事。その背景には、現場での仮説検証と、変化を恐れないマインドがある。組織は今、成長フェーズの真っただ中。「スピード感を楽しめる人、自ら手を動かして組織をつくりたい人にとっては、ここでしか得られない濃密な体験が待っている」と同氏は語る。美容医療の新時代を築く企業として、今後ますます注目されるだろう。

草野正臣/2007年に早稲田大学卒業後、国内大手通信関連企業に入社。2014年に独立し、医療施設マネジメントを主たる事業とするベンチャー企業を設立。2020年に一般社団法人AND medical group設立と同時に代表理事に就任。その他、医療人材DX会社の設立・同社事業譲渡などを経て現在に至る。