
本田商店は100年以上の歴史を持つ日本酒メーカーである。長い歴史の中でヒットを連発し、昨年の全国新酒鑑評会ではダブル金賞を受賞。6年連続28回目の金賞受賞を果たした。同社の代表取締役社長である本田龍祐氏に、酒造りのこだわりや会社の取り組みについて話をうかがった。
お酒の歴史と文化についての知識が裏打ちする酒造りのオリジナリティ
ーー本田社長の経歴についてお聞かせください。
本田龍祐:
私はこの酒蔵の長男として生まれましたが、すぐに家業を継ぐことは考えていませんでした。そのため、大学を卒業したら他の会社に就職をしようと考えました。しかし就職氷河期時代のため、就職難民になってしまい、親に内緒でフリーターをしていました。結局バレて帰って来いと、その年の7月に弊社に入社することになったのです。
入社後、3年ほど、東京にある酒蔵コンサルタントに出向しました。そこでは、お酒の歴史や酒にまつわる多様な文化、酒にまつわる人々の営みを学びました。その後本社に戻り酒造りを行うのですが、お酒の歴史や文化を学んだことが、お酒を作る上で、今も役立っていると思います。
酒造りのバックボーンについて理解しないままでレシピ通りにただつくっても、誰かの記憶に残るようなお酒はつくれません。出向先で学んだお酒の歴史と文化が、そうしたレシピ以上のセンスやオリジナリティを出す助けになっていると思います。
美味しいお酒を生み出す秘訣はお米へのこだわり

ーーオリジナリティを出すための試行錯誤として、どのようなことをされたのでしょうか。
本田龍祐:
私たちのような酒造業界ではどこもプロダクトアウトでやってきた流れがあったので、まずは一般の消費者目線に立つことから始めました。そのひとつが料理に合うお酒をつくることです。どういった料理に合うかをわかりやすく認識してもらうために、お酒の味やおすすめの飲み方によってボトルやラベルの色分けを行いました。
また、良いお酒をつくるには良いお米が不可欠という考えのもと、酒米をすべて酒造好適米にしました。一般的な食用米でお酒を造ると、甘かったら甘いだけ、辛かったら辛いだけの平面的な味わいになりますが、酒造好適米を使ったお酒は甘さも辛さも両方兼ね備え、立体的な味になるのです。
こうした複雑な味をもたらすお米「山田錦」という酒米をメインで使用しています。山田錦の中でも品質はわかれますが、中でも良いと言われる兵庫県の特A地区のものを使い、酒造りを行っています。素材を徹底することでお酒の味のブレが少なくなり、より良い品質のものを提供できるようになりました。
他には、昔ながらの酒造りを伝承することにも力を入れました。昔の技術を長く残していくために現代の道具を使用もしましたし、何よりも素材にこだわることでより良いお酒をつくるという取り組みをしています。
ーー現在は山田錦を酒米に使用していますが、山田錦はいつ頃から使用されていますか。
本田龍祐:
1982年から使用しています。最高の山田錦を探し求め、1996年に日本初の書面による契約栽培を行いました。最初は一人の農家との契約がどんどん広がり、兵庫県特A地区中から山田錦が入るようになりました。その結果、1985年に金賞受賞して以来の全国新酒鑑評会金賞を受賞し、それ以降常連と言われるようになりました。計28回金賞を受賞しております。
受賞回数の急増により、山田錦の収穫地によって、できるお酒の味わいが違うことに気づきました。その要因を調べるうちに、土壌の成り立ち、成分が違う事実が判明したのです。私たちは、ワインと同じように日本酒でも土地や土壌などの自然環境要因が香りや味わいを左右すると考え土壌特性を活かした酒造りを龍力テロワールと称し、取り組んでいます。
「酒造り」という伝統を現代へとアップデート
ーー現在、会社としてどのようなことに取り組んでいますか。
本田龍祐:
弊社では現在、働き方改革に取り組んでいます。酒造りといえば、早朝から仕込みを行うイメージを持つ方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、このイメージは一昔前のもので、現在では技術の進歩により朝9時に始まり夕方5時に終わるというような働き方が可能です。このように技術の進歩とともに時代に即した働き方に変えていくことで、酒造りという仕事の面白さがより一層伝わればいいなと思っています。
他には、企業としての農業への取り組みを進めています。私たちは土壌特性をテロワールと称し行動しています。その中で、農業従事者の減少が問題となっており、原材料の確保とともに農業の楽しさを伝え、土地を守ることが私たちの使命です。最高品質の山田錦が収穫される兵庫県特A地区で、自分たちが山田錦を栽培し、自分たちで醸す。半農半酒造り。これが酒造り企業としての農業への取り組みだと考えています。
ーー今後の展望についてお聞かせください。
本田龍祐:
若い世代や海外に日本酒の美味しさや酒造り業界の楽しさを広めたいです。昨年、その試みの一つとして、県内の蔵元と共に大型の音楽イベントに出店しました。
また、日本国内にとどまらず、イギリスのワイン品評会やフランスの日本酒コンクールなどにも積極的に参加しており、そこで金賞を頂いています。ほかに、米・ロサンゼルス、ニューヨークやテキサスやフィリピン・マニラでの展示会に出展もしています。
会社のテーマとして「Enjoy Nippon!」を掲げていますが、こうした活動を通じて日本酒からこの国の良さがより伝わってほしいですね。
編集後記
お米という日本酒の素材に徹底的にこだわり、全国新酒鑑評会で金賞を獲得している本田商店。その酒造りの熱意の底には、より多くの人に日本酒の美味しさや楽しさが広まってほしい、という本田社長の願いがあると感じた。伝統を大事にしながらも技術や時代に即したアップデートを忘れない姿勢が生み出す商品に今後も注目だ。

本田龍祐/酒蔵の長男として1979年兵庫県姫路市生まれる。東京農業大学卒業。2002年清酒龍力入社。入社後すぐ酒蔵コンサルタンツ地酒の杜に3年間出向。2021年10月創業100周年を機に代表取締役社長に就任(5代目)。2022年ひょうご観光本部から「テロワールな人」に選定。食、酒、文化、土壌など年間講演数は60回を超す。