※本ページ内の情報は2025年6月時点のものです。

粘着テープ業界で国内外から高い評価を受け、3年連続で発明大賞も受賞している共同技研化学株式会社。創業者である代表取締役会長の濱野尚吉氏は、数々の苦境を乗り越え、独自技術「分子勾配膜構造」を武器に業界をリードする企業を築き上げた、同社のキーパーソンだ。濱野会長に、創業へ至る経歴や事業成功の秘訣、次世代へ向けたビジョンなどを聞いた。

下請けから起業し、日本発明大賞を受賞する会社にまで成長を遂げる

ーー濱野会長の経歴をお聞かせください。

濱野尚吉:
弊社を創業する前は、粘着テープの製造会社である「昭和テープ」で働いていました。入社したのは1968年で、同社では主に外回りを担当していました。

会社を創業する道へと進み始めたのは、1974年に会社の経営が行き詰まり、会社更生法の対象になったことがきっかけです。私はそのタイミングで同社を退職し、テープやフィルムを製造する事業を興し、徐々に軌道に乗せていきました。

技術開発を積極的に進め、2006年に「分子勾配膜構造(※)」という技術で日本発明大賞を受賞したことをきっかけに、粘着テープ業界での評価が高まり、現在では国内外に多くの取引先を有するまでに成長しました。

(※)分子勾配膜構造:中心から外側にかけて、分子量にグラデーションをかけることで、層間の分子間引力を高め、強力な結合力を生み出す構造。

ーー創業当時の苦労と、それを乗り越えたエピソードをお聞かせください。

濱野尚吉:
会社を立ち上げたとはいっても生産設備は小規模で、事業内容も下請けが中心と、決してスムーズなスタートではなく、創業当時は毎日が苦労の連続でした。資金と設備の両方が不足している中で試行錯誤を重ね、毎日のように、事業を軌道に乗せる方法を模索していたほどです。

この苦しい状況から抜け出せたのは、顧客や仕入元と信頼関係を築けていたことが大きかったと思います。ときには仕入れの代金を待っていただくこともありましたが、嘘をつかない姿勢や有言実行の姿を見せることなど、とにかく細かな点に至るまで誠実な対応を徹底し、信頼につなげていきました。

何よりも信頼を大切にし、小さな努力を積み重ねて会社の基盤を作り上げたからこそ、現在の弊社があると感じています。

幅広い分野で活躍する独自技術「分子勾配膜構造」

ーー貴社の事業内容と、独自の強みを教えてください。

濱野尚吉:
弊社の主な事業は接着テープの製造です。両面接着タイプと片面接着タイプの両方を製造しています。他に、多機能性フィルムも製造しており、住宅の防水シール材や自動車の内装材、家電や医療機器まで、幅広い分野に製品を提供しています。

弊社の強みは高い技術力にあります。代表的なものが、日本発明大賞に選ばれた分子勾配膜構造です。分子勾配膜構造は特許を取得済みで、優れた性能と他社の追随を許さない独自の優位性を両立しています。

また、顧客から製品の品質を高く評価されている点も大きな強みです。多くの顧客が、弊社の製品を一度使うと他社製品に戻れなくなるほどで、おかげで住宅防水市場では国内シェアの70%を獲得することに成功しています。

強みをさらに進化させて、世界に通用するブランドを目指す

ーー今後、注力していきたいテーマは何ですか?

濱野尚吉:
新商品・新技術の開発、経営幹部や後継者の育成、組織全体の強化という3つのテーマに取り組んでいきます。

新商品・新技術の開発については、分子勾配膜構造のさらなる進化により、次世代自動車やエネルギー分野など、これまでにない市場での応用を目指しています。また、環境面への配慮を強め、持続可能な製品開発も推進していきます。

経営幹部や後継者の育成においては、現場での経験を通じて、リーダーシップや戦略的な視野を持った人材を育てることが重要だと考えています。特に必要だと感じているのは、次世代の経営を担うリーダーであり、育成を通じて組織の持続可能性を高めていきます。

組織全体の強化は、分析力や問題解決力を持つ人材を増やすことで、徐々に達成されていくでしょう。会社全体の生産性と競争力の向上によって業界をリードしながら、新たな時代でも活躍できる強固な基盤をつくっていきます。

ーー貴社を成長させていくにあたって、どのようなビジョンを持っていますか?

濱野尚吉:
弊社が発明した、分子勾配膜構造という技術の国際標準化を目指しています。国際標準化をすると特許で守られなくなりますが、社会貢献やブランド力の向上による効果を考えれば、積極的に進めるべきです。

現在、分子勾配膜構造を使った製品は生産設備を増強するほどニーズがあり、この先も需要の増加を見込んでいます。今後も価値のある技術を核に、弊社の存在価値をさらに高め、未来に向けて進んでいきます。

編集後記

共同技研化学が持つ分子勾配膜構造は、同社を世界に知らしめるであろう、可能性の卵のような技術だ。この技術が国際標準に採用されれば、世界が同社の高い技術力を放っておかないのではないだろうか。濱野会長が世界へ挑戦する日が今から待ち遠しい。

濱野尚吉/1947年石川県珠洲市生まれ。高校卒業後、1968年昭和テープに入社。1974年に同社を退社後、同社の受託製造から事業を興し、1979年に共同技研化学株式会社を創業。粘着テープや多機能フィルムの技術を磨いて会社を成長させ、現在に至る。