※本ページ内の情報は2025年6月時点のものです。

外務省の資料によると、日本の平均寿命は男性が81.09歳、女性が87.14歳と、いずれも80歳を超え、世界でも高い水準にある。その背景には、日本が誇る医療の質の高さがあるといえるだろう。こうした日本の医療の魅力を世界に広げるべく、挑戦を続けるのが株式会社ウェルメディカルグループだ。

代表取締役の山ノ内辰二氏は、医療ではなく原子力技術の分野からキャリアをスタートさせた異色の経歴を持つ人物だ。なぜ山ノ内氏が医療の分野で事業を展開するに至ったのか。創業の背景や、日本の医療に込める思いをうかがった。

座右の銘は「never give up」。決してあきらめない思いで課題を解決

ーーこれまでのキャリアと起業に至るまでの経緯を教えてください。

山ノ内辰二:
私は代々エンジニアの家系に生まれ、東海大学原子力工学科を卒業しました。学生時代には放射線や核物質を扱う資格を取得し、放射性医薬品の技師を目指して国内大手製薬会社に入社しましたが、配属は希望していた技術職ではなく営業部でした。当時は「技術で世の中に貢献したい」という思いが強く、営業に戸惑いを感じましたが、実際には製品が売れる現場を目の当たりにし、営業の重要性を学びました。

しかし、その頃に体調を崩して3ヶ月の入院を経験したのです。入院中に経営の書籍を読み漁り、退院後に国内大手製薬会社を退職し経営コンサルタントに転身しました。コンサルタントとして出向した大手宿泊施設会社では、新規事業を担当し、高齢者向け寮やホテル事業に注力しました。特にホテル事業では「ビジネスホテルに温泉を付ける」「リゾートマンションにホテル機能を加える」といった新しいプロジェクトに参画し、同社のホテル事業は社会的注目を集めました。

さらに老人ホーム事業では、老人ホームにクリニックを併設するという、新しいビジネスモデルを立ち上げ、これらをきっかけに、独立し事業を開始しました。

ーー独立されてからはずっと医療に携わっているのですか?

山ノ内辰二:
はい、その通りです。2016年まではクリニックと在宅医療の運営支援をしていましたが、同年の保険制度改定をきっかけに、その事業から撤退し、新たに立ち上げたのが現在の事業です。当初は、病院のバックヤード業務の経営支援や、不動産をファンドに組み込み運転資金に活用する仕組みづくりなどを手掛けていましたが、その過程で、インバウンド需要をターゲットにしたクリニックの運営にも着手しました。

2018年頃、日本の平均寿命が世界でも高い水準であることが注目され、外国人から日本の医療への期待が急速に高まっていました。特に、外国人がクリニックで支払う医療費は日本人の約4倍にも達し、日本の医療に対する高い信頼感がうかがえました。こうした状況を背景に、海外のVIP向けに特化した医療サービスの展開を本格的に始めたのです。

病気を未然に防ぐため、老化のリスクを抑えるという考え方

ーー貴社の事業内容について聞かせてください。

山ノ内辰二:
弊社は医療施設の運営支援、経営、サポートまで幅広く手掛けています。創業当時、世界では「人間ドック」という概念がまだ浸透しておらず、一般的には体調が悪化してから病院で診察を受けるのが主流でした。しかし、日本では、症状がなくても全身を検査する人間ドックが普及しており、これをインバウンド需要に向けて広げることを目指しました。

特に、海外から富裕層が日本の医療機関で高いレベルの予防医療を受診するメディカルツーリズムが盛んになっています。こうしたインバウンド医療のニーズに対応するため、アジア最高峰の医療施設を構築したいと考えています。日本の優れた医療技術を世界に展開し、必要とされる性能をさらに医療分野に取り入れていくのです。

ーー他社と比較した際の貴社の強みや特徴を教えてください。

山ノ内辰二:
多くのメディカルクラブは人間ドックに特化していますが、弊社は異なります。日本の医療は長年病名主義の風潮がありますが、これは、保険適用のために病名が必要であるという制度の影響が大きいのです。そのため、日本では早期発見・早期治療を重視していますが、弊社が掲げるのは「病気の予測」という新しい視点です。

たとえば、脳を診断する際、多くの病院では血管が正常に機能しているかを確認しますが、弊社ではさらに一歩踏み込み、5年後に発症する可能性の高い細胞の変化やがんの兆候など、脳機能の低下を予測する検査を行っています。仮に病気のリスクが発見されても、日本では病名が診断されない限り、治療に保険が適用されません。そこで弊社では、老化リスクが見つかった場合に幹細胞治療や老化因子の除去といった独自の取り組みをしています。

さらに、弊社の検査ではCTやMRIなどの画像診断に対し、単に目視で確認するだけでなく、AI、ビッグデータ、XR技術を用いた3D画像解析を採用しています。この手法により、より精密な診断が可能になる一方で、1日に対応できる患者数は5、6名が限界です。そのため、会員制を導入し、1枚1枚の画像にしっかりと時間をかけて向き合える体制を整えています。

こうした取り組みを弊社ではアンチエイジング医療と呼んでいます。5年後から10年後に罹患し得る重大な疾患に対して、そのリスクの種類と可能性を評価し、必要な対策を講じることで、病気を未然に防ぐのがエイジングリスクケアです。

何でもそろうクリニックを目指し、挑戦は続く

ーー最後に、これから目指していく方向性について教えてください。

山ノ内辰二:
日本は世界と比較しても長寿国であるという確固たるエビデンスがあり、その医療水準はアジア諸国から高く評価されています。この信頼に応えるため、日本だからこそ実現できる高水準な医療をさらに発展させ、展開していきたいと考えています。

特に、海外のVIPに日本の医療を紹介する「メディカルコーディネーター」の役割を重視しています。たとえば、海外では病気にかかると医療費が非常に高額になるため、保険会社が病気を未然に防ぐための健康クラブを運営しているケースがあります。このような組織と連携し、新規開拓を進めていく計画です。

さらに、営業部門の体制強化も必要としています。具体的には、多国言語対応を徹底し、国際的なニーズに応えられる仕組みを整備します。また、WEB上での営業活動を本格化し、より多くの顧客と接点を持てるようにすることも今後の重要な取り組みとして位置付けているのです。

編集後記

アンチエイジングが美容の枠を超え、医療の分野でも注目される今、株式会社ウェルメディカルグループの挑戦は、まさに未来の医療を切り拓くものだ。病気を治すだけでなく、病気を未然に防ぎ、老化を遅らせるという革新的なアプローチは、これまでの医療の常識を覆す可能性を秘めている。山ノ内氏の「病名主義を超えた医療を実現したい」という熱い思いに触れ、日本が誇る医療の高い水準とその可能性に改めて胸を打たれた。同社の取り組みが日本国内にさらに広がり、やがて世界の医療の新しいスタンダードとなる日が訪れることを強く期待している。

山ノ内辰二/東海大学工学部卒業後、国内大手製薬会社に入社し、MRとして5年間活躍。その後、転職した経営コンサルタントの会社にて大手宿泊施設会社に出向し、事業開発部門で新規事業のリーダーや室長を歴任。2004年に独立し、株式会社ウェルメディカルグループの前身となるダナエコーポレーションを設立、在宅医療クリニックの展開を進め、保険診療や病院経営を支援。2016年から自由診療に注力。現在は美容・再生医療のクリニックや化粧品事業を経営している。