
自社のエンジニアを取引先システム開発会社へ派遣し、取引先の海外プロジェクトをサポートする事業を展開している株式会社アレックスソリューションズ。
代表取締役の大野雅宏氏は自らのエジプト留学を通して「現地に行かなければ得られない経験がある」と強く実感し、海外へ興味を持つ人を増やしたいという思いを持つようになったという。
同社の「留学生を活かす®」事業とはどのようなものなのか、大野氏に詳しい話を聞いた。
IT×英語の領域にニーズとチャンスを見出して起業を決意
ーー今までの経歴や創業の経緯を聞かせてください。
大野雅宏:
2年間のエジプト・アレクサンドリア留学から帰国後、学んだアラビア語を活かせる仕事がしたいと思い、就職活動をしていたときのことです。
IT企業を経営する友人から「うちの会社を手伝ってほしい」と誘われ、就職先がなかなか決まらなかったこともあり、彼の会社への就職を決めました。この会社での出来事をきっかけに、起業を決意することになります。
当時、同社には英語ができる人材が少ないという理由で、海外企業からの仕事依頼を、やむを得ず断るということが多々ありました。
その状況を見て、私は「この領域にはニーズがある」と思ったのです。「留学経験があって語学力が堪能な人材を集めた会社を自分で経営すれば、今取りこぼしている依頼を全て引き受けることができるのでは」と考え、2007年にアレックスソリューションズを設立しました。
実際、当時は留学生を活かしたエンジニア派遣事業を行っている会社はほとんどなく、設立後は多くのお客様から仕事を任せてもらうことができました。
その後、会社の経営理念を「留学生を活かす」と定め、この理念自体を商標登録することにしました。弊社の理念にⓇマークがついているのはそのためです。「留学生を活かす」会社と言えるのは弊社だけです。
留学経験者だからこその、コミュニケーション力の高さと寛容さが強み

ーー事業内容を教えてください。
大野雅宏:
大きな事業は3つあり、売上の8割を占めているのがグローバルIT事業です。これは、弊社のエンジニアを外資系IT企業やグローバルに展開する国内システム会社などに派遣するというもので、国内外でのサーバ・ネットワーク環境の構築・運用や、プロジェクトマネジメントの支援などを行います。
2つ目は、海外研修プログラム事業です。スリランカとシンガポールの拠点のメンバーと英語を用いてオンラインディスカッションを行う「GOAL(Global Online Active Learning、ゴール)」というグローバル人材育成研修を展開しています。また、実際に現地へ訪れての研修も実施しています。
そして3つ目が、自社メディア「With Your Experience(ウィズ・ユア・エクスペリエンス)」の運営事業です。同サイトには、留学から帰国した人たちがどのような生活をしているのかなどをまとめています。
帰国後の生活や就職に不安を抱える渡航前の留学生に向けて、現在活躍している元留学生の経験談を掲載しています。また、サイトには弊社社員の体験談も掲載しているのですが、これは海外経験を活かして会社に貢献できていることを社員たちに実感してもらい、モチベーション維持に役立ててもらいたいからです。
これら3つの事業はどれも「留学生を活かす®」ための事業という点で共通しています。
ーー貴社の強みはどういった点にありますか。
大野雅宏:
異なる背景のメンバー間でのコミュニケーションや異部署間での調整能力が高い人材が多くそろうことが強みです。弊社の社員は異文化での生活経験をもつ留学経験者なので、新しい人と会うのが苦にならない人材が多い傾向にあります。取引先からは、海外企業と日本企業との重要な橋渡し役を担っていると高い評価を得ています。
多くの同業者が「ITができる人に英語を教える」のに対し、弊社は「英語ができる人にITを教える」ので、もともとの能力として留学経験を通したコミュニケーション能力が磨かれた人材が多く、その点で差別化が図れているのが特徴です。実際に現場に溶け込むのが早いなど、これまでのIT業界の人間とはまた違った雰囲気の社員が多いですね。
若者の海外離れが進む今、海外に興味を持つ人を増やしていきたい
ーー今後の注力テーマを聞かせてください。
大野雅宏:
1つは、海外研修プログラムの回数を増やすことです。たとえばこの3月から、オンライン海外研修「GOAL」で学んだことについて、現地に行って実際に見て確かめる実地研修「START(Site-based Training And Research Tour、スタート)」を開始しました。さらに、今後は高校と提携して、校外学習の場で弊社のプログラムを活用してもらう予定です。
「GOAL」は無料なので、高校生や大学生がよく利用してくれています。弊社のプログラムをきっかけに生徒たちが留学に行くことを決意するなど、この海外研修プログラムを「留学生をつくる事業」にしたいと思っています。そして最終的には、留学から帰国した人が弊社で働くことに興味を持ってくれたら、とても嬉しいですね。
もう1つは、マレーシアでの人材採用強化です。現在、拠点があるスリランカとシンガポールでの人材採用を進めており、スリランカに関しては年間10名弱の採用をしています。
弊社は、ムスリムの方がお祈りをするための礼拝所なども社内に用意していますし、今後はマレーシアにも採用活動の場を広げ、日本語を勉強したマレーシア人を積極的に採用したいです。
ーー最後に、読者にメッセージをお願いします。
大野雅宏:
最近は海外に興味を持つ方が減っているという話も聞きますが、私はより多くの人に実際に海外に行ってみてもらいたいと思っています。
英語を学ぶだけならオンラインでもできますが、日本では起こらないトラブルの解決や多様な価値観の受け入れなど、現地に行かなければ得られない経験がたくさんあるからです。そしてその経験は、大人になってからも役立つものだと思います。
弊社のサービスを通じて、語学力や異文化コミュニケーション能力を持つ人材がグローバルに活躍してくれたら嬉しいですね。
編集後記
オンライン英会話などの普及で、留学に意義を感じない人も少なくない今。「海外でしかできない経験の価値」を発信する同社の事業は、より多くの若者の可能性を広げるものだと感じた。これからも同社は事業を通して、語学力だけではない「真のグローバル人材」の輩出を後押ししてくれるだろう。

大野雅宏/1975年、東京都生まれ。大学在学中、エジプト・アレクサンドリアへ語学留学。帰国後、学習塾講師、SI会社を経て、2007年に株式会社アレックスソリューションズを設立。