
株式会社リアルグローブは、災害発生時の救助活動や現場の点検作業時に役立つプラットフォームを提供する会社だ。AI技術とリアルタイム地図をかけ合わせ、リアルタイムに地上の情報を更新し、2Dや3Dのデジタル地図で正確に状況を把握できるのが特徴だ。
3D地図作成事業に至るまでの経緯や、地方が抱える課題解決に向けた取り組みなどについて、代表取締役社長の大畑貴弘氏にうかがった。
就職活動を回避するため起業し、経営者の道へ
ーーまず大畑社長のご経歴について教えていただけますか。
大畑貴弘:
大学では情報科学科に進み、人工知能の研究をしていました。当時、AIに会話をさせることは最先端の技術で、「自分も人間の言葉を話せるロボットをつくりたい」と、漠然と思っていました。
その後、大学4年生のときに起業します。ただ、世の中を変えたいなど高い志があったわけではなく、自分にはこれしか選択肢がなかったのです。というのも当時は就職氷河期で、一般企業の就職倍率はとても高いものでした。
こうした競争が厳しい中で、高校・大学時代の留学、さらに大学では2年留年したので、他の人よりもハンデがあったのです。それならば就職を目指すよりも自分で会社を立ち上げてしまおうと。そこでコンピューター関連のアルバイトをきっかけに興味を持っていたプログラミング事業を始めたのがはじまりです。
幾度もの事業転換を経て行き着いた地図xAI事業
ーー創業当時から現在の3D地図の生成事業を行われていたのですか。
大畑貴弘:
実は弊社はこれまで3回ピボット(事業転換)していて、今の事業に行き着くまで10年かかりました。創業当初はシンプルに「研究開発のお手伝い」をし、リーマンショック以降にクラウド関連事業を始めます。
そこで、当時まだ日本で珍しかった、クラウドコンテナ技術(※1)を提供するサービスを始めました。この技術がニフティクラウドさんで採用され、資本業務提携を結ぶことに。ただ、海外のクラウドサービスが日本へ上陸したのを機に、需要が無くなってしまいます。
それから再び事業転換をするのですが、市場が無名の企業を相手にするわけもなく、しばらくは迷走を続けていましたね。
(※1)クラウドコンテナ技術:サーバー内を整理してアプリケーションやWebの開発・管理を効率的に行えるようにするOSレベルの仮想化技術。
ーーそこから今の事業に至った経緯を教えてください。
大畑貴弘:
あるとき、教育のデジタル化を進めていたJAPETさんから声がかかり、小中学校にタブレットを導入する実証実験に参加することに。その後、ITを活用した生涯学習プラットフォームの構築など、教育分野のデジタル活用に関わるようになり、国や地方自治体の方々と仕事をする機会が増えていきます。
その中で私が感じたのが、地方のデジタル化の遅れです。地方では紙ベースで仕事を進めており、みなさんが大量に溜まった資料の処理に追われている状況でした。
私たちはアナログ業務をデジタル化するのが得意なので、この領域なら自分たちが貢献できると希望が見え始めます。
さらに弊社のプログラミング技術を活かし、地方で役立つサービスができないかと考える中で、私が着目したのがドローンです。
ドローンを組み合わせたリアルタイムデジタル地図があれば、現地の状況をリアルタイムで確認でき、よりスムーズな救助活動につながると思いついたことから、「遠隔情報共有システムHec-Eye(ヘックアイ)」を開発しました。
その後、事業を進めていくうちによりリアルタイムデジタル地図やそこでのAI活用に軸足が移っていき、今はドローンに限らず、スマホやタブレットをはじめとした様々なデバイスがリアルタイムデジタル地図につながっています。センシング技術(※2)やAIを活用した解析技術を持つアジア航測株式会社さんとの業務提携も進み、地図xAI事業として立ち上がってきました。
(※2)センシング技術:測定器などを用いて測定対象の定量的な情報を取得する技術。
3D地図生成のトップランナーとしてサービスを展開

ーー貴社の事業内容について教えていただけますか。
大畑貴弘:
弊社の主な事業は、災害発生時の救助作業や点検作業をする際に、地図上にリアルタイムな情報を更新するツールの開発と、収集したデータを解析して地図を更新するサービスの2つです。その中でメインになっているのが、3D地図の作成事業です。
これまで災害時や点検作業では、人が直接出向いて現場の情報を収集する方法でした。災害時は紙の地図に情報を書き込んで本部と無線でやり取りしたり、点検作業では写真を撮ったり手書きでメモを取ったりして、本部に持ち帰り、意思決定に使っていました。
この一連の作業工程をデジタル化し、取得したデータをクラウドに上げ、AIで解析したりして、2Dや3Dの地図を更新します。これにより現場の状況把握や未来予測、被害状況の状況を正確に把握できるのがメリットです。また、調査業務に必要な入力作業や情報管理、報告業務を一括で行える業務効率化ツールの提供も行っています。
ーー社名の由来をお聞かせください。
大畑貴弘:
創業時のメンバーが、「リアルボイス」と「エックスグローブ」という会社を立ち上げようとしていたので、2つをかけ合わせて「リアルグローブ」にしました。こうしてただ社名を合体させてつくっただけなので、深い意味はありませんでした。
しかし、面白いことに今私たちは3D地図事業を行っていて、「リアルな地球」という意味の社名がぴったり合っているんですよ。これまで紆余曲折ありましたが、今の事業に行き着いたことに運命を感じますね。
3D地図の活用で新たな価値を創造し、地方の課題解消にも貢献したい
ーー最後に今後のビジョンをお聞かせください。
大畑貴弘:
3D地図の活用の幅をさらに広めていきたいです。街の情報をデジタル化できる3D地図は、車の自動運転やシミュレーションゲームなど、あらゆる領域での活用が期待できます。事業拡大に伴う資金調達も進んでいるので、これからはさまざまな業界の企業とタッグを組み、新たな可能性を生み出していきたいですね。
また、人口減少による過疎化や人手不足が深刻な地方の貢献活動も引き続き行っていきます。これからは地物ごとにIDが割り振られ、資産のデジタル管理が進むことが予想されます。これにより資産の状態や老朽化などをより正確に把握でき、効率的なメンテナンスができる時代になるでしょう。
弊社のリアルタイムで3D地図を作成する技術を提供することで、人口が減っても過疎地域の暮らしを維持・管理できるよう貢献していきます。
編集後記
「弊社がここまでやってこれたのは、私の無謀な挑戦を面白がってくれ、支えてくださった方たちがいたからこそです」と話す大畑社長。厳しい状況に陥っても諦めず果敢に挑戦し、周囲を動かす力がある彼だからこそ、ドローンを活用した3D地図の作成といった、新しい領域を開拓できたのだと感じた。株式会社リアルグローブは3D地図作成技術の先駆者として、あらゆる場面での活用を推進していくことだろう。

大畑貴弘/1980年山口県生まれ。東京大学で人工知能を専攻。在学中に株式会社リアルグローブを起業。いくつかのピボットやそれに伴う事業売却などを経て、「現場の今を地図に載せよう」をテーマに、地図×AIの領域で「縮小日本への豊かさの継承」にチャレンジ中。