
メールでのやり取りや電話確認が当たり前だった国際物流の世界に、テクノロジーの力で変革を起こす株式会社Shippio。同社は2016年の創業以来、貿易業務のデジタルサービス展開を推進し、2022年には協和海運株式会社をM&A、通関事業にも進出している。貿易DXを通じて日本のサプライチェーン強化に挑む同社代表取締役の佐藤孝徳氏に話を聞いた。
中国駐在から見出した、物流テックの可能性
ーー創業までの経緯を教えてください。
佐藤孝徳:
私は2006年に三井物産株式会社へ入社し、石油部門でエネルギーの売買を担当した後、中国に駐在する機会を得ました。その頃の中国は先進国を目指す転換期にあり、多様な産業が活発的に動き始めていた時期でした。
創業を決意したのは、中国での駐在経験を通じて物流やサプライチェーンの重要性が今後さらに高まると確信したからです。特に国際物流は、人間の社会生活に不可欠でありながら、まだデジタル化が進んでいない領域だと感じたのです。さらにこの領域で事業を展開するスタートアップはなく「であれば自分がやろう」と思いました。
ーー創業時から大切にしている考えをお聞かせください。
佐藤孝徳:
起業家には「未来を見据える力」が必要だと考えています。たとえば、スポーツでも優れた選手は未来を予測して、それに向かうような動きをしますよね。サッカー選手が、他の選手が走り込んでくる場所を予測して、誰もいない場所にスルーパスを出すようなイメージです。経営者も同様に、3年後、5年後に自分が思い描く景色にたどり着けるよう準備していくべきだと思っています。
また、「ユニークネスの追求」も重視しています。特に弊社のようなスタートアップはリスクを負って挑戦するわけですから、唯一無二の価値を生みだすことが大切です。全く新しいものである必要はありませんが、独自性がなければ貴重なチャンスと時間がもったいないと思うのです。
アナログな業界を内側から変えていく

ーー貴社の事業内容について教えてください。
佐藤孝徳:
弊社は、貿易・国際物流という分野でサービスを展開しています。貿易業務はステークホルダーも多く手続きも煩雑でありながら、まだデジタル化が進んでおらず、多くの手続きがアナログで行われているのが現状です。そこで私たちは、自ら第二種貨物利用運送事業者の免許を取得しフォワーディング(輸出入に伴う運送手段の手配や通関などの手続き代行業)事業からスタートし、実際の業務を理解した上でテクノロジーの導入をしています。
日本は海に囲まれた島国であり、貿易は欠かせないものですが、この業界の変化は非常に緩やかです。加えて、日本は少子高齢化と労働人口の減少により、人手不足が起こりつつあります。弊社は、こうした現状でもあたりまえにものが届く状況を持続可能にするべく、重厚長大な産業が抱える課題に挑戦しているのです。
ーー具体的なサービス内容をお聞かせください。
佐藤孝徳:
私たちの事業の軸は大きく3つあり、1つ目は荷主向けです。現在2サービスを展開しています。創業時に取得した免許を活かして私たちがクラウドを使いながら国際物流の手配を行う「Shippio Forwarding」と、クラウドサービスのみをお使いいただける「Shippio Cargo」というSaaSです。
2つ目の軸は、国際物流事業者向けで2024年に「Shippio Works」というSaaSの提供を開始しました。このサービスは、国際物流事業者と荷主やパートナー企業間のコミュニケーション効率化を叶えるものです。
これらのサービスには、船の位置情報の自動取得機能が搭載されており、従来1日に数時間かかっていた船の運行確認作業を大幅に短縮できます。また、社内外の関係者をクラウドに招待し案件ごとにチャットで会話や書類のやりとりができ、その記録も残ります。
業務効率が向上するだけでなく、これまでの実績データを元に将来の戦略を立てるといったデータ活用も可能になります。
さらに、2022年には通関会社の協和海運株式会社をM&Aして通関事業にも進出しています。これが3つ目の軸で、弊社の手がけるフォワーディング案件の通関手続きもカバーし、より包括的なサービスを提供できるようになりました。
日本発のテクノロジーで変える国際物流の未来
ーー貴社が目指す姿とはどういったものでしょうか?
佐藤孝徳:
日本は世界的に見てもサプライチェーンの要となりうる場所であり、弊社のサービスを通じて国際物流の未来を支えていきたいと思っています。日本を拠点に、アジアパシフィック地域での存在感を高めていき、将来的には、「Shippioがあったから、日本の物流が変わった」と言われるような存在になることが目標です。
組織面では、経営層だけでなく、シニアマネージャーやミドルマネージャーの層を厚くすることにも注力しています。社員の成長にフォーカスすることで、組織全体の成長につなげていく方針です。
ーー今後の事業拡大の方向性についてお聞かせください。
佐藤孝徳:
今後は、データを活用した新たな価値創造に取り組んでいくつもりです。船の位置情報や貨物の状況をリアルタイムで把握できる仕組みを発展させ、金融や保険など貿易を取り巻く周辺領域をもカバーする総合貿易プラットフォームの構築を目指します。
たとえば海上貨物保険と連携できれば、データに基づいたより精緻なリスク評価や料率設定が可能になるでしょう。国際物流と異なる業界をつなぎあわせ、新たなビジネスチャンスを見出していきたいと思います。
Shippio Platform構想
編集後記
国際物流を「外から変える」のではなく、業界の一員として「内側から変革する」姿勢を貫いていることが印象的だった。自ら業界へ飛び込み、老舗企業をM&Aし、現場の課題に真正面から向き合うShippioの取り組みは、業界の構造そのものを変えようとする意志を感じさせる。その壮大な挑戦に背筋が伸びる思いがした。

佐藤孝徳/2006年、三井物産株式会社に新卒で入社。2016年、国際物流DXを推進する株式会社Shippioを創業。2018年、スタートアップとしては初めて第二種貨物利用運送事業者の許可を取得し、同年にデジタルフォワーディングサービス「Shippio Forwarding」の提供を開始。2022年、協和海運株式会社をM&Aし通関事業に進出。2023年に荷主向けSaaS「Shippio Cargo」、2024年に国際物流事業者向けSaaS「Shippio Works」をリリースするなど、国際物流領域の事業展開を推進している。