
1958年に創立されたケンコーマヨネーズ株式会社。ホテルやカフェ・レストランなどを対象とした業務用サラダや、マヨネーズ・ドレッシング・ソース類などの製造・販売事業で成長してきた食品メーカーだ。
ケンコーマヨネーズグループとしては、サラダショップ事業や量販店向けパック総菜の製造・販売も手掛けている。代表取締役社長の島本国一氏に、入社後の取り組みやグループ全体の強み、今後の展望についてうかがった。
水産学部出身の人材として、外食チェーン向け商品の開発に抜擢
ーー貴社に入社するまでの経歴をお話しいただけますか。
島本国一:
漁師として働く父をサポートするため、長崎大学の水産学部を専攻し、魚の缶詰やかまぼこづくりについて学びました。漁師は危険が伴う仕事にもかかわらず、収入が不安定なので、水産加工業で安定した収入を得られるようにしようと考えたのです。
卒業する頃には父は漁師を引退していたので、私は教授の推薦でケンコーマヨネーズに入社しました。最初に配属されたのは、神奈川県にある厚木工場内の商品開発です。
ーー入社後、印象に残っているエピソードもうかがえますか?
島本国一:
1988年に入社すると同時に、ファミリーレストラン向けの商品開発を任されたことが思い出に残っています。ちょうど、外食チェーンが大きく成長していた時代ですね。
当時の弊社は、マヨネーズ・ドレッシング部門、タマゴ加工品部門、ロングライフサラダ部門の3チームに分かれていました。「ロングライフサラダ」とは、業界で初めて開発した、冷蔵未開封で長期保存ができるサラダシリーズです。街のパン屋さんからはじまり、お惣菜屋さんなどに広がっていきました。
パン用のポテトサラダはペースト状だったり、味が濃いめだったり、パンに合わせることを考えられている商品が中心だったため、外食向けに「そのまま食べておいしいポテトサラダ」をつくることが商品開発のミッションでした。
特に、ディッシャーで取りやすい固形感のあるポテトサラダの開発には、時間を要しました。試作品をつくって終わりではなく、工場できちんと製造できるのか、工場の担当者と打ち合わせしながら、現場テストを何度も重ねて、実際に販売するまでの流れに携わりました。
グループ全体のメーカー機能・総菜機能・ショップ運営&Web機能が持ち味

ーー貴社の事業内容を教えてください。
島本国一:
弊社は食品メーカーとして、マヨネーズ・ドレッシングなどの調味料をはじめ、サラダ・総菜、タマゴ加工品、冷凍商品の開発・製造を行っています。このメーカー機能に加えて、グループ会社のノウハウを生かした総菜機能、ショップの運営&Web機能を持つ『Salad Cafe(サラダカフェ)』で構成されたビジネスモデルが最大の特徴です。
スーパーマーケットやコンビニなどの量販店に向けてお惣菜を販売する事業は、「ダイエットクック」などの連結子会社が担っています。産地や季節の素材を使った商品など、味・鮮度・品質にこだわったサラダや総菜を開発しています。
『Salad Cafe』というフレッシュサラダの販売店は、百貨店やショッピングモールを中心に展開中です。お客様の声を直接聞ける貴重な場であるほか、公式HPでもお客様アンケートを実施し、SNSにレシピ情報を掲載するなど、情報収集・発信のツールとしても役立っています。
『Salad Cafe』の売れ筋を連結子会社で採用したり、連結子会社とケンコーマヨネーズが相互に連携して取り組みをしたりと、3つの機能が協力しながら、サラダに対して多様なアプローチをしています。
ーー企業としての強みもお話しいただけますか。
島本国一:
7つの自社工場と、計9つの工場を持つ7社の連結子会社からなる、生産・販売体制が最大の強みですね。それぞれの生産拠点から、全国各地に商品を供給することが可能です。
また、カナダのバンクーバーに設けたリサーチオフィスも強みの一つですね。さまざまな国の人が暮らすバンクーバーは食文化が幅広く、いち早くトレンド情報をキャッチできる街です。
リサーチから得た情報は、自社ブランドの商品開発や特注品としてのお客様のプライベートブランドの開発に活用しています。
強みは「品質・品位」を追求した商品の開発力と提案力

ーー開発体制の強みについて教えてください。
島本国一:
事業別・分野別の対策チームがあり、開発力とメニューの提案力を強みとしています。事業別チームは、弊社のコア事業である、マヨネーズ・ドレッシング事業、サラダ・総菜事業、たまご事業、素材事業で、開発や販売方法を検討しています。分野別チームはホテル・レストラン・カフェといった取引先ごとに、全国の営業担当者が情報交換し、どのような商品を開発すべきか、また販路をどう広げるかを考えています。
新商品のアイデアはさまざまなチャンスの中から生まれるものです。そこで、開発担当者が各種展示会に参加したり、お客様の商談に同行したりして、市場の変化やお客様が求める新しい情報をいち早く取り入れ商品開発に活かしています。
社内にも選考会があり、開発や販売のメンバーがキャッチした市場ニーズに応える商品を形にしやすい環境が整っています。そして何より、「食べることが好きな人が集まっている」という点が、ヒット商品の開発につながっているのだと思います。
ーーメーカーとして大事にしている考えをお聞かせください。
島本国一:
私は商品開発のリーダーを任された日から、「品質と品位を必ず守る」という自身の考えを社内で唱え続けてきました。工場で食品を製造するにあたって、「品質」における一定の基準を守り、皆様においしく・安全に食べていただくのは当然のことです。
「品位」は、ケンコーマヨネーズのブランド力を示します。私たちは料理のプロとお取引する中で、味や品質に関するご要望に応え、厳しい基準をクリアしながら商品のレベルを上げてきました。お客様に育てていただいた会社だからこそ、「ケンコーマヨネーズが提案する商品」は信用と信頼を裏切らないレベルを保つ、という意味で「品位を守る」と謳っています。
ーー品質を守る上での具体的な取り組みをお話しいただけますか。
島本国一:
品質については、最初に「おいしさ」を追求します。商品開発のメンバーは幅広い年代で構成されており、毎日いろいろな課題を持ち寄って、互いの意見を交わしていますね。試作品ができた翌日にはみんなで試食をし、ベストな配合を試行錯誤するなど、動きもスピーディーです。
おいしさの基準をクリアしたら、「分析」のステップに進みます。安全性や日持ちに関わる細菌の数値など、理化学的な検査を終えて、初めて商品を世の中に出せるのです。
ーー近年の売れ筋や、おすすめ商品を教えてください。
島本国一:
2023年に日本食糧新聞社主催の「業務用加工食品ヒット賞」を受賞した、『薫るトリュフ』シリーズが好調ですね。最初に発売した『薫るトリュフのマヨソース』は、希少価値の高い白トリュフのオイルを使用した商品で、パンに絞って焼くと高級感のある味わいを楽しめます。ノンオイルドレッシングは、野菜や肉などいろいろな食材に合うため、ソースのように使えて便利です。
『薫るトリュフのポテト』は、『薫るトリュフのマヨソース』、『ノンオイル薫るトリュフ ~コク旨しょうゆ仕立て〜』の好調を受け、さらにお客様のお役に立ちたい、という思いから誕生しました。高級素材のトリュフは高付加価値がつくアイテムです。パン屋さんをはじめ、原料の値上げで苦しむお客様に喜ばれているほか、「絞り出すだけでOK」という手軽さで人手不足のお店をサポートしています。
企業風土の確立と心身を豊かにする「サラダ料理」のPRに注力

ーー貴社ならではの企業風土はありますか?
島本国一:
持続的に成長していける会社を目指して、5つの行動方針を定めています。1つ目は「チームワーク」。人材はお互いに関わり合うことで成長していけると考え、弊社はチームワークを通して「人」を大切に育てることを心がけています。
続いて、未来を見据えて積極的に挑戦する「チャレンジ」の精神。品質・サービスで一番になるための「プロフェッショナル」。日々の変化を楽しみ、成長し続ける「アグレッシブ」。最後に「プライド」と称して、自社の企業価値に誇りを持っています。
成長の過程で困難や課題に直面することがあっても、行動方針を思い出すことで前向きな思考になってほしい。この考えから毎朝唱和し、社内に浸透させています。
私たちが会社としてより成長するためには、新しいことにチャレンジしていかなければいけません。すべての部署・グループが連携し、お客様の要望に応える形で仕事の幅を広げていくことは、大変な取り組みですが、それを楽しめる企業風土が弊社の強みになっていると思います。
ーー経営における現在の注力テーマもうかがえますか。
島本国一:
社会に信用・信頼され、存続し続ける会社となるべく、「心身(こころ・からだ・いのち)と環境」「食を通じて世の中に貢献する。」を企業理念としています。私たちは、食を通じて人々の心を豊かに、体を健やかにできると考えています。命を守り、環境も大切にするというミッションを実践し、社会に貢献することが弊社の使命です。
またビジョンに「サラダ料理で世界一になる」を掲げ、「サラダ料理」で人々が充実した食生活を送ることができるよう努めています。「サラダ料理」とは、「食材」・「調味料」・「食文化」を掛け合わせ、食材のおいしさを十分に引き出した料理のことです。食材は野菜や肉類・魚介類・乳製品などになり、調味料はマヨネーズやドレッシング、ソース、味噌、醤油などがあります。そこに、食文化としての地域の郷土料理や調理法、弊社がこれまでに培ってきた歴史や技術があり、これらを掛け合わせたものが「サラダ料理」と考えています。
「サラダ料理」は実にバリエーションが豊富です。生野菜や温野菜、肉類など具材に制限はなく、彩りも楽しめる料理だといえます。見た目にも楽しく、心を豊かにしてくれて、さらに栄養価の高さから、健康機能面で命を守る役割もあります。サラダ料理を日本国内でもっと広めることも、世の中への貢献の一つだと思い、研究を続けています。
さらなる発展を目指して、2035年を見据えた戦略的ビジョン
ーー今後の展望をお聞かせください。
島本国一:
『KENKO Vision 2035』と称した中長期経営計画を進めていきます。成長戦略・スマート化・人材投資・サステナビリティと社会的責任という4つの基本戦略を実行しています。その中で、ペーパーレス化やロボットの導入による業務のDXと、自然冷媒を活用した省エネ化などを進めています。
また、人材投資面では研修制度の充実度を重視しています。たとえば、新入社員向けの研修をはじめ、新任課長向けの研修、入社3年目向けの研修など、社員一人ひとりが自身のキャリアプランを描けるようにし、そのプランを実現できる研修を多数用意しています。
2027年度には、『KENKO Vision 2035』のフェーズ1として事業構造の改革を完了し、グループの連結売上高が年間1000億円を超えることを目指します。ケンコーマヨネーズは、さらなる発展を目指しているので、ビジョンに共感いただける方とぜひ一緒に仕事ができればと思います。
編集後記
ファミリーレストランやベーカリーをはじめ、さまざまな企業のメニューづくりを支えてきたケンコーマヨネーズ。いち消費者としても感じるネームバリューと安心感は、品質と品位にこだわり、真摯に積み重ねた企業努力の証だ。長年にわたって培った製造ノウハウとグループの力をかけ合わせ、この先も新しい展開を見せてくれることだろう。

島本国一/1965年生まれ。1988年に長崎大学水産学部を卒業後、ケンコーマヨネーズ株式会社へ入社。ロングライフサラダの開発を中心に、総菜分野の開発リーダーとして従事。2011年に取締役(商品開発部門部門長)、購買部門、生産部門などを経て、2021年に取締役商品開発本部担当に就任。2023年、代表取締役社長に就任。