※本ページ内の情報は2025年6月時点のものです。

精神疾患を有する患者とクリニックの医師をつなぐ、アトラスト・ヘルス株式会社。同社は、「精神医療に特化したプラットフォームの先駆者」だという。

今回は、友人のうつ病をきっかけに同社を立ち上げたという代表取締役のバローチ ニール氏に、創業の経緯やサービスの詳細などについて話を聞いた。

友人からうつ病を打ち明けられ、精神医療の分野で起業を決意

ーー貴社を設立した経緯について聞かせてください。

バローチ ニール:
もともと起業に興味があり、大学1年のときにスニーカーマーケットサービスを立ち上げています。もともと私はスニーカーが好きで、コレクションとしても需要が高いことを知り、鑑定士をつけ、信頼して売買できるプラットフォームがあれば面白そうだと思ったのが事業を始めた理由です。

ただ、スニーカーの売買ではお客様に与えられる感動の大きさに限界があると感じたため、もっと大きな課題を解決し、ユーザーに感動を与えられるような事業をつくりたいと思うようになりました。

また中学生の頃に、友人からうつ病であることを打ち明けられたのも、今の会社を始めたきっかけとなっています。当時、友人が通院している様子を見て、社会の偏見などから、精神科やクリニックに通う心理的なハードルが非常に高いことを初めて知りました。

その実体験が強く印象に残っていたことに加え、友人だけでなく社会全体として、精神疾患患者は増えているにもかかわらず、精神医療に対する偏見や通院までのハードルがまだ残っていることに疑問を持つようになり、それが徐々に自分の中で解決したい社会課題に変わっていったことから、大学3年のときに弊社を立ち上げることにしました。

ーー創業時の苦労などを教えてください。

バローチ ニール:
仲間集めと資金集めの2つに苦労しました。当時は精神医療の分野に挑戦している企業が少なく、この分野に関する正しい理解が広まっていなかったことが大きな理由です。

そこで、事業を立ち上げる仲間と出資してくれる投資家を見つけるために、実際にプロダクトのデモ版をリリースしてどのくらいの反応があったのかなど、この業界やビジネスの実態を定量的に説明するよう心がけました。

それにより徐々に理解者や仲間が増え、出資をしてもらえるようにもなり、現在に至ります。

サービスの強みは、オンラインと対面の両方から診療方法を選べること

ーーどのようなサービスを手がけていますか。

バローチ ニール:
大きく2つのサービスを提供しており、1つはオンライン✕対面の総合精神医療プラットフォーム「WeMeet(ウィーミート)」です。

患者は同プラットフォーム上で診療を予約できるほか、オンライン上で医師から診察を受け、診察後は配達で薬を受け取ることができます。対面で診察を受けることもでき、オンラインと対面両方の選択肢がある点が他社にはない強みです。

2024年12月時点、同プラットフォーム上での診療回数は10万件を突破し、現在約60人の医師が登録しています。

もう1つのサービスが、クリニックの開業支援・DX支援事業です。開業支援では、弊社がクリニックの物件探しや工事依頼などを代行するだけでなく、キャッシュレス決済システムの導入などを通して、ITを活用したオペレーションができるクリニックづくりを支援しています。

また、開業後のBPO(業務プロセスの一部を外部に委託すること)支援も行っており、たとえば弊社が人材採用を一部代行するといったサポートもしています。

ーー貴社の人材や組織の特徴を教えてください。

バローチ ニール:
医療業界出身者も多いですが、全く別の業種から弊社に来た人も少なくありません。自ら学ぶ姿勢がある素直な人であれば、業界未経験者でも問題なく活躍できます。

スタッフの女性比率は高く、また子育てをしながら仕事をしている女性が多いなど、性別や立場関係なく勤務できる環境が整っている点も特徴です。

組織の特徴としては、スタートアップ企業として、高みを目指して成長できる環境が整っていることが挙げられます。そして、これまで社員全員が当事者意識を持ち、お互い素直になりながらチームで働くことを大切にしてきました。

患者と医師の間の情報格差を埋めることが大切

ーー社長としてどのような考え方を大切にしていますか。

バローチ ニール:
社員のやりたいことと、会社の進むべき方向が一致していることを大切にしています。この2つが一致していれば社員たちは楽しく働くことができますし、せっかく働くなら、楽しさややりがいを見いだしてもらいたいです。

また、医療業界全体の評価を落とさないためにも、弊社のバリューである「覚悟と責任」を意識しながら、社内で連携して結果を出すことを重視してきました。

ーー今後の展望をお願いします。

バローチ ニール:
大きな展望は、患者と医師の情報格差を埋めることです。患者側に精神医療に対する情報が足りておらず、精神疾患を発症してから通院に至るまでに長い期間を要する人は珍しくありません。

そのため弊社は、たとえば早く治療を受ければどのくらい復職率が上がるのかといったデータを公開するなど、精神医療の透明性を高め、患者が早い段階で精神医療にアクセスできるよう手助けしていきたいと思っています。

そして今後は、弊社のサービスを使って病状が良くなった患者が増え、利用者が増加し、その結果として支援する側の社員数もどんどん増えていくといった流れをつくっていきたいです。

編集後記

精神疾患に対する偏見から、受診をためらう人は少なくない。同社のサービスは、精神障害による労災認定数の増加といった、日本の社会問題の解決に貢献するものだと感じた。

同社のサービスがより多くの人に届き、精神疾患に対する偏見がなくなることで、誰もが安心して質の高い医療を受けられる社会になることを願っている。

バローチ ニール/1998年神奈川県生まれ、中央大学商学部卒。高校時に起業に関心を持ち、大学1年次にスニーカーマーケットに関するサービスを立ち上げる。その後、大学3年時の2019年にアトラスト・ヘルス株式会社を創業。「“心を照らす医療”を拡張する」「個を深く見つめ、広く人類の心を救う」という2つのミッションを掲げ、総合精神医療プラットフォームと、医療現場のデジタル化をサポートするDX支援を提供する。