
日本に暮らす子どもたちのためのインターナショナルスクールとして「日本の心」と「英語の力」を教育理念に掲げる株式会社キンダーキッズ。帰国子女や外国籍の子どもを主な対象としていた従来のインターナショナルスクールの概念を覆し、一般の日本人の子どもたちにも開かれた英語教育の環境を提供し続けている。
その設立背景には、代表取締役社長である中山貴美子氏自身のカナダ留学での原体験と、子どもたちの未来を考えた教育格差への強い問題意識があった。ゼロからのスタート、そして類を見ないスピードでの事業拡大を牽引してきた中山社長に、その軌跡と未来への展望をうかがった。
英語コンプレックスが原動力に。「日本人のための」インターナショナルスクール設立
ーーまず、中山社長のこれまでのキャリアと、キンダーキッズ設立の経緯についてお聞かせください。
中山貴美子:
実は、私は大学卒業まで英語が得意ではありませんでした。ただ、「英語を話せるようになりたい」という気持ちは人一倍あったので、思い切ってチャレンジしてみようと、就職の内定を辞退してカナダへ留学したのです。この決断が、人生観を変える大きな転機となりました。
留学を通して、日本人が英語を話せない原因に気づきましたし、将来自分の子どもを英語環境で育てたいとも思いました。そして、帰国後は留学経験を活かせる英会話スクール最大手のNOVAへ就職しました。
NOVAでは営業を基礎から学び、3ヶ月で支店長に。過酷な仕事でしたが、この経験が現在の事業の礎となりました。
その後、結婚・出産を経て、また働きたい気持ちが芽生えたのですが、「子どもをバイリンガルに育てたい」という思いと、日本人がインターナショナルスクールに入れない現実を知ったときの衝撃が忘れられず、自分で始めてみようと。それが「日本人のための」インターナショナルスクール設立の背景です。
資金や知識がない中、商工会議所で計画を作成し、紹介で倉庫を借りて初期費用を抑え、2000年1月にキンダーキッズ第1校をオープンしました。一人で営業していましたが、NOVAで培った経験のおかげで、初月から満員御礼となりました。
「日本の心」と「英語の力」を育む独自のカリキュラムと教育システム

ーー「日本の心」と「英語の力」を教育理念に掲げる貴社の、独自のカリキュラムや教育システムについて教えてください。
中山貴美子:
日本のインターナショナルスクールは、外国人主体であるため英語環境が自然に用意されていますが、日本人だけの環境ではそれが難しいのです。しかし、0歳・1歳からお預かりして、耳にする言葉を英語のみにすれば、英語を母国語とする子どもと同じ環境が作れると、カナダの経験から確信しました。
そこで、キンダーキッズでは、幼少期から卒園までに英検3級レベルの高い英語力の習得を目指します。日常会話を網羅した読み書き重視の独自カリキュラムを構築し、アクティビティも取り入れ、「日本の子どもが話せる」環境を実現しています。
さらに、培った英語力の維持・向上のため、卒園生向け「Grad Club(グラッドクラブ)」は、最長で高校卒業までサポート。現在、約6,000名が学んでいます。
また、全日制の「インフィニティ国際学院初等部」も設立し、「みんなが幸せになるための学校」という理念のもと、マルチリンガル教育等を追求しています。国内外31校を展開しており、国内校から海外校への短期留学システム「トランスファーシステム」も好評です。
この海外展開は法規制などの側面から、とても大変な道のりでしたが、カナダ校、ハワイ校ともに現地で大きな人気を博し、特にカナダ校ではキャンセル待ちが1,000人を超える状況になっています。
教育格差をなくしたい。学校法人買収と広がる未来への挑戦
ーー今後の展望や、目指す社会についてお聞かせください。
中山貴美子:
キンダーキッズは質の高い教育を実現していますが、認可外のため保育料が高額であり、それが教育格差につながっていると感じています。私の最後のミッションは、この教育格差を解消し、同質の教育をより多くの日本の子どもたちに届けることです。
そのために2つの取り組みを進めています。1つはキンダーキッズのメソッドを詰め込んだオンライン教材で、年間1億円を投資して開発しています。これは、英語環境がない日本の保育園などでもキンダーキッズと同等の英語教育を学べる動画教材で、場所を選ばずに、価格を抑えた質の高い英語の基礎を身につけられるようになります。まもなく完成する見込みで、今後広く普及させていきたいと考えています。
もう1つは、学校法人の買収です。ある学校法人から幼稚園5園を引き継ぎ、運営することが決まっています。これにより補助金が適用され、現在の保育料の半額程度(月4〜5万円)でキンダーキッズと同等の教育を提供できる見込みです。
この2つの取り組みは教育格差解消に向けた大きな一歩であり、より多くの子どもたちにインターナショナルスクールに通えるチャンスを提供できる、非常にセンセーショナルな改革になると確信しています。
「誇りを持てる仕事」を。働く仲間と未来へのメッセージ

ーー20代、30代の若い世代や、求職者へのメッセージをお願いします。
中山貴美子:
キンダーキッズの採用には、年間1,000件以上の応募があり、現在は正社員約700名、パート・契約社員約400名が働いています。
英語のスキルと保育士資格の両方を持つ人材は少ないため、入社後の教育体制を整えています。女性が多い職場なので、育休制度や時短勤務など、子育てサポートにも力を入れています。
なぜ多くの人がキンダーキッズで働いてくれるのか。それは、皆が自分の仕事に「誇り」を持っているからです。子どもたちの教育に関わる仕事は大変なことも多いですが、「日本の未来」を作る仕事であり、子どもたちが成長して「キンダーキッズに行ってよかった」と思ってくれることが大きなやりがいです。
契約数や売上を重視すれば顧客の信頼を失い、自分の仕事に誇りが持てなくなり、事業も長続きしません。だからこそキンダーキッズでは、契約の縛りがない月謝制にし、保護者の方にリスクを負わせない仕組みにこだわっています。保護者の方にも、事業内容にも「誇りを持てる」サービスであること。これこそが、私が会社運営で最も大切にしていることです。
皆さんにも、ぜひ「誇りを持てる仕事」を選んでほしいと思います。
編集後記
インタビューを通じ、中山社長のパワフルな行動力と教育への揺るぎない情熱、そして社会的使命感に深く感銘を受けた。自身の英語コンプレックスなどから「日本人のためのインターナショナルスクール」という独自の道を切り拓き、教育格差解消という大きな目標に向け挑戦を続ける姿勢は、まさに逆境を乗り越える起業家の姿そのものである。
社員への思いやりや、仕事への「誇り」を重視する経営哲学は、これから働く場所を探す若い世代にとって重要なヒントとなるだろう。キンダーキッズの挑戦は、今後も日本の英語教育を変革し、未来の子どもたちの可能性を広げていくに違いない。

中山貴美子/大学卒業後、カナダ留学経験を活かし、英会話スクールで営業・運営を担当。結婚・出産を経て自身の子どもをバイリンガルに育てたいという思いから、2000年にバイリンガル保育園「キンダーキッズインターナショナルスクール」を設立。「日本の心と、英語の力」を理念に、高い英語力と日本人としてのアイデンティティをしっかりと持った国際人の育成を行う。現在国内に28校、海外に3校を展開し、約6,000名の生徒が在籍している。