
創業85年、世界14ヶ国に22拠点を展開し、圧倒的な生産力でプラスチック添加剤を始めとする特殊添加剤をグローバルに供給するリーディングサプライヤー、株式会社サンエース。現在、海外での販売が売上の9割を占めるという同社が拠点を拡大してきたプロセス、製品の強み、SDGs観点での新製品開発などについて、同社の代表取締役会長グループCEOである佐々木亮氏に話をうかがった。
シンガポールに赴任した3年後に売上を約10倍に伸ばす
ーー入社した経緯と社長就任までのストーリーを教えてください。
佐々木亮:
弊社は祖父が創業した会社です。私は大学を中退して家具職人をしていたのですが、弊社のシンガポール工場の業績を立て直すために私が呼ばれたのです。3ヶ月の研修を受け、あまり英語が話せないまま1987年に赴任しました。当時は営業がいなかったため、入社後は私自身が車でシンガポールとマレーシア南部を回って現地のお客さまを少しずつ開拓していき、翌年には飛行機でインドネシアにも出張するようになりました。
そうやって営業範囲を拡大する中で、東南アジアでは台湾の石油化学メーカーOBが華僑ネットワークを活かしてシェアを伸ばしているという独特の構造に気づいたのです。そこで代理店網を構築し、お客さまの規模・製品などのセグメントを理解した上でアプローチすることで、徐々に市場への浸透を図り、着実に成果を上げていきました。赴任当初の販売量は100〜150トンでしたが、翌年末には1200トンを超えるまでに成長し、3年目には黒字に転換させることに成功しました。
その後、オーストラリアの同業者を買収してマレーシアに工場を建設すると、南アフリカにも進出しました。1997年に帰国し、翌年に日本の代表取締役社長に就任しました。
その後もサウジアラビア、南米、中国にも拠点を展開し、2012年に代表取締役会長グループCEOに就任したのです。
「添加剤」を武器に世界に挑む、進化を続ける日本発の力

ーー貴社の事業内容を教えてください。
佐々木亮:
弊社は創業85年を迎える添加剤のリーディングサプライヤーです。石油化学品、食品、化粧品、建設資材など幅広い分野に製品を供給しており、現在、世界14ヶ国・22拠点を展開しています。
弊社の添加剤は、プラスチックと様々な有機物・無機物を均一に分散・混合させることにより、成型性や生産性を高めたり、また離型性を改善させるなどの効果があります。その経験を活かして、プラスチック分野以外にもその用途が広がりつつあります。
一例としては化粧品や、キャンディーなどがあり、国際的な食品メーカーが北米で製造するキャンディーには、殆ど弊社の製品が使われています。売上としては海外での販売が9割以上を占めており、日本拠点では新しいアイデアの発案やビジネスモデルの開発を行い、各国の拠点を通じて全世界に発信するポジションを担っています。
ーー貴社の添加剤の強みは何ですか。
佐々木亮:
弊社の添加剤は、プラスチックと様々な有機物・無機物を均一に分散・混合させることにより、成型性や生産性を高めたり、また離型性を改善させるなどの効果があります。その経験を活かして、プラスチック分野以外にもその用途が広がりつつあります。
一例としては化粧品や、キャンディーなどがあり、国際的な食品メーカーが北米で製造するキャンディーには、殆ど弊社の製品が使われています。
SDGsの視点で製品を生み出し、海外拠点をさらに拡大
ーー今後の成長戦略を教えてください。
佐々木亮:
今後は、SDGsの視点を取り入れた新製品の開発と、海外拠点の拡大に注力します。新製品の開発については、たとえばマヨネーズをつくる過程で出てくる卵の殻を粉にして、樹脂と混ぜてトレイなどに成型する、あるいはセルロースや木粉を樹脂と混ぜてみるなど、日本拠点ではこういったアイデアを次々に生み出しています。
また、世界中の樹脂メーカーのニーズに応え、PFAS(有機フッ素化合物)の代替製品の生産に弊社の技術を提供するといった、いずれもSDGsの視点を重視しています。
海外拠点の拡大については、まずブラジルやコロンビア、サウジアラビアでの工場建設を進めています。南アフリカでは浮遊選鉱剤(採掘した鉱石を溶かして目的の金属を分離させる薬品)の合弁事業を始めました。さらにインドネシアやインドでもプロジェクトを進めるなど、拠点拡大を通じて地域的な広がりを持たせているところです。
世界中のプロジェクトへのアサインを通じて次世代を育てる
ーー社内の風土についてもお聞かせください。
佐々木亮:
弊社は多文化主義の会社、マルチカルチュラルカンパニーを標榜しています。海外拠点に日本人はおらず、社員の国籍は30ヶ国以上、役員は10名中8名が外国籍で、社内の公用語は英語です。お互いの違いを受け入れた上で一緒に仕事をするというオープンな雰囲気に包まれています。人種も国籍もバックグラウンドもすべて異なる人たちの集団が一つの組織として機能しているという意味では面白い会社だといえるでしょう。
ーー最後に人材育成についてもお聞かせいただけますか。
佐々木亮:
30、40代の社員を選抜して役員会に招き入れ、グループ役員と議論を交わしてもらいながら次世代の経営を担うトレーニングを積んでもらっています。同時に、各拠点の社員が手がけるプロジェクトに参加し、1年~1年半かけてプロジェクトを推進するという取り組みも始めました。本国での仕事を抱えながら、マルチタスクでさまざまな仕事に取り組んでいくことが弊社の特徴です。
もちろん、ここに日本人社員も参加してほしいと考えています。化学工学の知見があるに越したことはありません。しかしそれ以上に多文化主義という弊社の風土を理解し、弊社の仕事に強い関心を持っていることが重要です。アサインできる仕事やプロジェクトは世界中にありますので、ぜひ多くの方に参加してほしいですね。
編集後記
「これが一番弊社の多文化主義を象徴しています」。そう言って佐々木氏が見せてくれた写真には、有楽町駅の高架下で楽しそうに酒を酌み交わす役員の面々が写っていた。コロンビア人、イギリス人、サウジアラビア人、そして佐々木氏。経営層がオープンマインドで相対し、仕事に取り組んできたからこそ、現在の同社の成長があるのだろう。圧倒的な製品力と世界的なネットワークを築き上げた同社がどのような次世代を育て、託していくのか、今後も注目していきたい。

佐々木亮/1963年神奈川県生まれ。1987年に株式会社サンエースに入社し、海外勤務を経て1998年1月に代表取締役社長、2012年に代表取締役会長グループCEOに就任。