
環境問題への意識が高まる現代。幅広い対応力と顧客密着の姿勢で課題解決に挑む株式会社オオスミ。分析・調査からコンサルティング、海外展開までの舵取りを担うのは、異色の経歴を持つ二代目代表、大角武志氏。その挑戦の軌跡を追った。
「半導体技術者」から「建設設備営業」へ。異色のキャリアを経て、30歳で家業への道を選択
ーーこれまでの経歴についておうかがいします。
大角武志:
大学では通信工学科で電気・電子・通信を専攻し、その後は技術職を志して、京都のローム株式会社へ入社しました。父が創業したオオスミは環境分析の会社でしたが、私は化学が苦手で、継ぐことは全く考えていませんでした。
ーー転職と貴社への入社のきっかけを教えてください。
大角武志:
IC設計は非常に面白かったのですが、社内での業務より「太陽の下で働きたい」という気持ちが湧き、建設設備の営業職へ転職しました。
営業職での経験は本当に楽しく、人と会って話すことが自分の性に合っていると気づきました。充実した日々を送る中、30歳を迎えた年に、父の右腕だった方が独立されたのを機に、父から「一緒に仕事をしないか」と声がかかったのです。
前職でのキャリアアップを考えていましたので、正直、迷いはありました。しかし、当時の上司や周囲の方々からのアドバイスもあり、「これも一つの成長のチャンスかもしれない」と思い、30歳でオオスミに入社することを決意しました。
社会の変化に対応し、お客様のニーズに合わせた幅広い事業を展開

ーー代表にご就任された時の心境はいかがでしたか?
大角武志:
父の経営方針を受け継ぎつつ、時代や環境の変化に合わせて「自分が代表になったらこうしたい」という思いを抱いていました。いざ代表になり、それを一つずつ形にできたことが本当に嬉しかったですね。前職のIC設計で培った論理的思考や、建設営業でお客様と関わらせていただいた経験など、すべての経験が今の私の糧になっています。
代表就任後は、二年連続で最高売上、最高利益を達成しました。しかし、その後にリーマンショックが起こり、業績は大きく悪化してしまったのです。
ーーリーマンショック時にはどのような状況だったのでしょうか?
大角武志:
社員に賞与も全額支払えない状況になり、深く謝罪しました。そのような状況の中、管理者の方々が支えてくれ、数年でV字回復を遂げ、約束通り賞与を上乗せして支払うことができたのです。苦難を乗り越えるためには、周囲の支えがいかに大切かを痛感しました。
ーー環境分野における多面的なサービスを展開されている理由、そしてその狙いについてお聞かせください。
大角武志:
多面的なサービス展開は、お客様の根本的な問題解決を目指しているからです。 水質、大気、土壌など、同じ分析という分野でも、お客様それぞれのニーズが異なるため、幅広い対応が求められます。 また、単に分析を行うだけでなく、その原因調査や対策提案といったコンサルティング能力も不可欠です。 一般的な経営戦略としては、一つの事業に特化するのが良いと言われますが、お客様にとって本当に役立つためには、環境全体を捉えた多面的な知識やサービスが必要だと考えています。
お客様の声は「宝箱」。無料セミナーと独自の情報収集術で築く、信頼と新たなビジネスチャンス
ーー新規顧客開拓はどのように行っていらっしゃいますか?
大角武志:
弊社のホームページと無料セミナーを効果的に使っています。始めた当初は少人数でしたが、今では多くの方にご参加いただけるようになりました。セミナー後のアンケートの回答率も高く、個別相談から仕事につながるケースが多いです。
ーーセミナーの講師を社員の皆様が務めていらっしゃるのはなぜでしょうか?
大角武志:
社員が講師を務めることで、知識やプレゼンテーション能力が向上し、結果としてお客様からの信頼にもつながると考えております。アンケートでいただいた貴重なご意見を事業に活かす「宝箱」システムという仕組みをつくっています。
ーー「宝箱」システムとはどのようなものですか?具体的なエピソードがあればお聞かせください。
大角武志:
「宝箱」システムとは、社内グループウェアでお客様からの声を共有する仕組みのことです。例えば、ある時、遠方の公共施設から省エネ診断のご依頼が複数寄せられました。これらの情報を共有したことで、同様のニーズを持つ他の施設への営業につなげることができました。お客様の声は、新たなビジネスチャンスの宝庫なので、真摯に耳を傾けることを大切にしています。
国内市場への危機感と海外への挑戦。ベトナム進出と人材育成に見る、オオスミの未来戦略
ーー今後の事業の方向性についてお聞かせください。
大角武志:
技術やITの進化により、センサーによる自動計測が進み、従来の分析業務は減少する可能性があると考えています。環境計量証明事業の会社数も、将来的には減少していくかもしれません。
そのため、国内においては、分析業務だけでなく、環境全般に関するコンサルティングを強化してまいります。企業の環境対策をサポートする「環境部長」サービスや、省エネ診断などを積極的に推進していく予定です。
ーー海外展開の理由、現状、そして今後の展望についてお聞かせいただけますでしょうか?
大角武志:
発展途上国では環境問題が深刻であり、日本の公害対策の技術が必ず役立つと考えています。現在、ベトナムに子会社を設立し、日系企業を中心に事業を展開。今後は現地企業へのアプローチも強化し、ベトナムでの利益を再投資することで事業をさらに拡大し、将来的には、東南アジアや西アジアへの展開も視野に入れています。
ーー人材育成について、どのようなお考えをお持ちでしょうか?
大角武志:
環境コンサルタントとして、お客様の課題解決に貢献できる人材を育成したいと考えています。また、将来的に海外拠点のリーダーを任せられるようなグローバル人材を育成したいですね。現在は、プロジェクトマネジメント能力の育成として、希望する社員には月1回の個別面談を実施し、それぞれの成長を丁寧にサポートしています。
編集後記
異色の経歴を持つ大角代表の、柔軟な発想と顧客への真摯な姿勢が、オオスミの成長を牽引してきた。試練を乗り越え、独自の視点で未来を見据えるその挑戦に、今後も注目していきたい。

大角武志/1966年横浜市生まれ。東海大学工学部通信工学科卒業。ローム株式会社、日立清水エンジニアリング株式会社を経て、1996年、株式会社オオスミへ入社。2003年、代表取締役に就任。