※本ページ内の情報は2025年6月時点のものです。

祖父が創業した接着剤の専門商社としての基盤を守りつつ、業界に新たな価値を提供し続けるボンド商事株式会社。代表取締役の小黒義幸氏は、システム開発会社での経験を経て家業に入り、現場での多様な経験とリーダーシップで変革を推進してきた。今回は、小黒氏のこれまでの歩み、事業変革の軌跡、そしてグローバルな視点も含めた今後の展望について、話を聞いた。

システム開発から家業へ 現場で培った経営の原点

ーー小黒社長のこれまでのご経歴についてお聞かせください。

小黒義幸:
私の祖父が創業した会社で、父が二代目でした。正直なところ、若い頃は家業を継ぐという意識はほとんどなく、どんな事業を行っているのかも漠然としか理解していませんでした。大学卒業後は、父と「3年だけ」という約束でシステム開発会社に入社。当時はIT業界が盛り上がっており、個人的にもMacでデザインするのが好きだったのがシステム会社を選んだ理由です。

入社後、半年間は社長自ら講師となって同期と一緒に基礎から徹底的に学び、情報処理二種の資格を取得。その後はデータベース構築や、予約システム開発の一部など、様々なプロジェクトを担当しました。そこで培ったITの知識やシステム構築の経験は、現在の会社経営、特にDX推進において非常に役立っています。

ーーボンド商事入社当初、どのような業務からスタートされたのですか。

小黒義幸:
システム開発会社で4年ほど勤務した後、2000年にボンド商事に入りました。「まず触って動かして物を覚えろ」という会社方針で、最初の1年間は、京浜配送センターで配達業務や倉庫整理、商品の発送業務などを担当しました。当時は、体育会系の文化が根強く残っていたため、私が家業を継ぐことになったら、旧態依然とした部分は変えていきたいと強く感じていました。

配送業務を1年ほど経験した後、本社に戻り、各事業部の先輩方について業界知識や営業のノウハウを学びました。当時は第1から第3までの事業部があり、それぞれの事業部で異なる商材や顧客層に対するアプローチを経験。その後、東関東営業所で営業を担当。ここでは接着剤だけでなく建材なども扱う営業していて、新規開拓も積極的に行っていました。

ーーご自身の成長に繋がったと感じるご経験はありますか。

小黒義幸:
高崎に初めての営業所を立ち上げる事になった際、専務から所長を命じられ、数名の社員と共にゼロからスタートしました。最初は本当に素人集団のような状態でしたが、一丸となって目標に向かって必死に取り組みました。その頃、お客様から初めて電話注文をいただいた時の喜びは今でも忘れられません。

この営業所立ち上げは、「ウッド建材」という新たな分野での挑戦でもあり、この経験を通じて、営業所運営のノウハウや新規分野へ参入する際の本社との連携の重要性など多くのことを学びました。

M&Aが転機に発注者との出会いが拓いた新境地

ーー社長になられてから特に意識されたことや、取り組まれた改革はありますか。

小黒義幸:
社長に就任した当初は、「こうあるべきだ」という思いが強すぎて、周囲に迷惑をかけたことも多々ありました。古い慣習や考え方を変えようと焦るあまり、現場を混乱させてしまったのです。その経験から、温故知新の精神、つまり、過去の積み重ねがあって今があるということを理解し、社員との対話を重視するようになりました。

また、ある時、「ドローンが接着剤を運ぶようになったら、おたくの会社は要らなくなるよ」と言われたことがきっかけで、当社の強みとは何か、と深く考えるようになりました。

そして、弊社が直接関わることの少なかった発注者の方々と何か新しいビジネスができないか、と模索し始めたのです。そんな中、2018年にbコーポレーションとのM&Aがありましたが、このM&Aが大きな転機となりました。

これまでは、弊社のような資材供給業者はサプライチェーンの下流にいることが多く、発注者の意向やニーズを直接掴む機会は限られていました。しかし、彼らと直接対話し、共に店舗づくりや課題解決に取り組めるようになったことで、一気に視野が広がりました。何よりも、一緒にものづくりができる、新しい価値を共創できるということに、純粋な「楽しさ」を感じるようになったのです。この経験から、発注者視点を持つことの重要性を痛感しました。

接着剤から総合提案企業へ 祖業の進化とシナジー戦略

ーー改めて、御社の事業内容と強みについて教えていただけますか。

小黒義幸:
当社は、もともと私の祖父がコニシ株式会社の接着剤を販売するために設立した会社です。創業当初は業務用の接着剤が中心でしたが、時代の変化とともにホームセンター向けの製品や関連する副資材なども幅広く取り扱うようになりました。

接着剤の専門商社というのは実はあまり多くありません。そのため、DIY用途から大規模な土木工事に至るまで、接着剤に関するあらゆるご相談に幅広く対応できるのが大きな強みです。また、長年培ってきた知識や経験を活かした商品開発力も強みの一つです。

建築の石材関係などでは、都内であれば当日注文で当日配送するなど、Amazonにも負けない迅速なデリバリー体制も整えています。石材やタイルの分野でも、お客様のニーズに応じた製品を提供しています。

ーー今後の事業展開において、グループシナジーをどのように活かしていこうとお考えですか。

小黒義幸:
現在の建築業界では、各工程が分断されていることが多いと感じています。具体的には、設計、資材調達、施工、メンテナンスといった工程です。これを弊社グループで一貫して手がけられるようになれば、お客様にとっての不要なコストや時間的なロスを削減できる可能性があります。

例えば、出店計画の初期段階から関与し、資材調達のタイミングを最適化する。あるいは、急な手配による無駄な出費を抑制する。このようなコストコントロールを実現することで、お客様と弊社双方にとって良い関係を築き、共に価値を高めていけると考えています。

特に、多店舗展開されている飲食店様の店舗づくりにおいては、本業に集中していただけるよう、弊社が裏方としてサポートしていきたいです。お互いの企業の強みを掛け合わせることで新しい価値を生み出せると信じています。

DXとグローバル戦略で飛躍する未来を創る人材育成

ーー今後の成長に向けて、特に注力していきたい分野は何でしょうか。

小黒義幸:
まず、業界にイノベーションを起こすべく、グループ全体のDX推進に力を入れる方針です。これまで人海戦術に頼らざるを得なかった受発注業務などを、AIを活用して効率化することを目指しています。これは最優先で取り組むべき課題です。また、3D CADなどの技術も積極的に活用していきます。

次に、海外展開です。ベトナムに足がかりができたので、日本で培った商品やサービス、そして店舗づくりのノウハウなどをASEAN地域に展開し、現地の発展にも貢献していきたいと考えています。例えば、海外進出する日本のチェーン店が、現地のオーナーに丸投げしてしまうことがあります。その結果、日本とは似ても似つかない店舗ができてしまうケースも少なくありません。弊社が間に入ることで、日本品質の店舗展開を支援できます。

ーー人材育成や採用についてはどのようにお考えですか。

小黒義幸:
人材育成に関しては、「未来は予測するものではなく、主体的に創るものだ」という考えのもと、社員一人ひとりが会社の未来を共に創っていく意識を持てるよう、企業理念の共有を重視しています。また、次世代リーダーの育成にも力を入れており、幹部が直接思いや考えを伝え、実践的な経験を積ませる機会を設けています。ITリテラシーの向上など、スキル面での課題にも取り組んでいく予定です。

採用については、必要な時に必要なスキルを持つプロフェッショナル人材を、スカウトなども活用しながら積極的に採用しています。具体的には、システム開発やAI分野を担う人材、商品開発のプロダクトマネージャー、物流の専門家、そして店舗開発に携わるBIM・CAD技術者などを求めています。

ーー海外展開の具体的な構想があれば教えてください。

小黒義幸:
2020年にベトナムホーチミンにグループ会社を設立し、今年よりコワーキングスペースの運営を開始しました。ここでは、単なる場所貸しではなく、ベトナムで新規事業を始めたい方が、文字通り身一つで挑戦できるような環境を提供したいと考えています。具体的には、法人設立や経理処理、倉庫の手配など、煩雑な業務を弊社が代行する予定です。ベトナムでの店舗出店を考えているものの、ノウハウ不足などで困っている方がいらっしゃれば、ぜひご相談いただきたいです。

弊社のグループと一緒に何か新しいことに挑戦したい、事業提携や協業に関心があるという企業様がいらっしゃれば、ぜひお声がけいただければ嬉しいです。

編集後記

配送の現場から営業、そして営業所の立ち上げと、一歩ずつキャリアを積み重ねてきた小黒氏。社長就任後は、M&Aという大きな決断を通じて、それまで接点のなかった「発注者」との直接対話の道を開き、事業の可能性を大きく広げることに成功した。その根底には、現状に甘んじることなく、常に「会社の強みは何か」「顧客に何を提供できるか」を問い続ける真摯な姿勢がある。「グループシナジー」「DX」「グローバル」といったキーワードを掲げ、業界にイノベーションを起こそうとする同社の挑戦は、これからも多くの企業に刺激を与え続けるだろう。

小黒義幸/1973年、東京生まれ。日本大学卒業後、システム開発会社に4年間勤務し、データベース構築や大手企業のシステム開発プロジェクトなどに従事。2000年、祖父が創業したボンド商事株式会社に入社。2015年、同社代表取締役に就任。