
人々の健康増進を支援する株式会社ルネサンス。同社はフィットネス業界のリーディングカンパニーとして、運動習慣の提供に留まらず、心身両面からの健康をサポートする多様なプログラムを展開している。2025年4月、代表取締役社長執行役員に就任した望月美佐緒氏は、同社の長年の歴史と革新への取り組みを継承し、次の成長ステージへと導く。今回は望月氏に、これまでのキャリアや同社の強み、そして未来に向けたビジョンについて詳しくうかがった。
スポーツと共に歩んだキャリアとトレーナーとしての原点
ーーこれまでのご経歴についてお聞かせください。
望月美佐緒:
大学時代、ハンドボール部に所属しており、大学4年生の12月まで試合に出ていたため、就職活動ができませんでした。そんな中、大学の先生が顧問をされている「ドゥ・スポーツプラザ」を紹介していただき、入社しました。
当時の「ドゥ・スポーツプラザ」は富裕層向けという色が強く、経営者の方々をはじめ、学生時代には接することのなかったさまざまな方々が通っていました。そうした方々の健康づくりに携われることに大きな喜びを感じました。お客様からも、ハードワークを支える体力の大切さや、トレーナーという仕事の意義を教えていただきました。この経験は、自身のキャリアにおける貴重な財産です。
ーー貴社入社のきっかけと、入社後に取り組まれたことについて教えていただけますか。
望月美佐緒:
「ドゥ・スポーツプラザ」のお客様から、「ニューオータニ大阪にスポーツクラブができるから、あなたに来てくれたら嬉しい」と声をかけていただいたことが、弊社へ入社するきっかけです。当時ルネサンスは、直営店よりもホテルの中のフィットネスクラブなどの受託施設が多く、ニューオータニ大阪もその中の1つでした。その後ルネサンスは直営店を急速に拡大していきますが、その中で最も重要だったのが、プログラムの標準化です。
私はスーパーバイザーとして、エアロビクスなどグループエクササイズの標準化と、それを実行できるインストラクターの育成を主に担当しました。マニュアル作成は難しくありませんでしたが、それを現場のインストラクターの方々に浸透させるのが非常に難しく、苦労も多かったです。
しかし、自身が国内外のフィットネス関連のコンベンションでプレゼンターに選出されたり、レッスンの集客でトップになったりすることで、徐々にインストラクターの方々に話を聞いてもらえるようになり協力者が増えました。この経験は、20代の私にとって非常に大きかったと感じています。
飛躍の要因はM&Aの推進とプログラムの標準化
ーー貴社の成長を支えた要因は何だとお考えですか。
望月美佐緒:
会社として拡大出来た要因は、様々な大手企業の子会社をM&Aしたことや店舗の開発力だったと思います。当時の社長や施設開発本部長が築いたネットワークと、時代が追い風になった背景もあり、6期連続で2桁成長を実現しました。
当時私は、様々なグループレッスンのプログラムの標準化に尽力しており、比較的早く標準化できたと思っています。既存インストラクターには「ステップアップシステム」という評価制度を導入しました。これは勉強会形式で行う評価制度なのですが、事前課題を出してそれを1人1人に発表してもらうもので、単なる評価ではなくアウトプットの場にしたことで、相互に学び合える仕組みにもなっていました。これにより、個々のインストラクターの能力を最大限に引き出すことができ、能力やプログラムの標準化も進んだと感じています。
また、インストラクターが不足している地域では、学生や地域住民を対象とした養成事業を実施し、卒業と同時に弊社に入社してもらうといった取り組みを行いました。
ーー人材育成のために取り組んでいることは何でしょうか。
望月美佐緒:
社員に向けた「ビジネスリーダー塾」を開催しており、今年で6年目を迎えます。これからの時代、若い人たちが早いうちから多様な刺激に触れることは重要だと考えています。そのためこの塾では、運営業務に偏りがちな若手社員に対し、経営戦略、マーケティング、組織開発、経理・財務といった幅広い分野を、取締役や執行役員が自ら講師となって教えています。
研修はインプットだけでなく、反転学習方式を取り入れています。事前課題に取り組んだ後、グループで発表する場を設けることで、学んだことをアウトプットできる力を養います。また、リーダーシップについても深く考えてもらっています。「リーダーシップとは、単に『引っ張る』『統率する』といった一つのスタイルだけでなく、組織やチームが良くなるための働きかけができるかどうかだ」と伝えています。塾でのグループワークを通じて、自分の意見を述べ、チームを良くしていくための行動を促しています。
フィットネスの可能性を広げる未来へのビジョン

ーー今後の展望についてお伺いできますか。
望月美佐緒:
「スポーツクラブは入りにくい」と感じている人も多いのではないでしょうか。「入会したい」という明確な動機がなければ、なかなか足を踏み入れられない場所になってしまっています。この状況を変えるために、もっと多くの方に店舗に気軽に入っていただけるよう、地域開放イベントを大々的に実施できないかなども計画中です。
例えば、「北海道 ボールパーク Fビレッジ」では、試合がない日も一部の施設が解放されてレストランやサウナなどが利用できます。球場全体が見えるといった「外から見える化」の取り組みがされています。かつてABCクッキングが料理教室をガラス張りにしたことで新たな顧客層を獲得したように、私たちもスポーツクラブの中身をもっと知ってもらうための工夫が必要だと考えています。
編集後記
望月氏の言葉からは、フィットネスが単なる運動の場に留まらない、人々の生活に深く寄り添うサービスであるという強い「思い」が伝わってきた。新規事業の立ち上げ、集団統治体制への変革、そしてスポーツクラブの概念を広げる取り組み。これらは、同社が未来に向けて進化し続けるための明確なビジョンと戦略である。その先に広がる未来が楽しみだ。人々の健康と幸せを追求する同社の飽くなき挑戦は、これからも続いていくことだろう。

望月美佐緒/大阪府出身。1984年、大阪体育大学体育学部卒業。大学4年時にハンドボール部女子でインカレ準優勝。大学卒業後、「ドゥ・スポーツプラザ」にトレーナーとして入社。1987年、ルネサンス企画(現・株式会社ルネサンス)に入社。トレーナー・インストラクターを経て商品開発、人財育成などに携わり、2005年に執行役員、2019年常務執行役員、2022年取締役副社長に就任。2025年4月1日、代表取締役社長執行役員に就任。