
「記念日のプロデュースを通じて笑顔・感動・幸せの“和”を拡げます。」という理念を掲げ、岐阜県を拠点に事業を展開する有限会社ウメイチ。同社は、振袖をはじめとする衣装のレンタル・販売から、着付け・ヘアメイク、記念写真の撮影までを自社で一貫して手がける独自のビジネスモデルを確立している。着物、写真スタジオ、美容のすべてを内製化することで、顧客の「期待を超える感動」を創造。創業75周年を迎える老舗でありながら、常に変化を恐れず挑戦を続けてきた。
今回は、リクルートでの営業経験を経てウメイチに入社し、就任後も社員の主体性を育む風土改革を推進してきた代表取締役の梅田益生氏に、その情熱と未来への展望について話を聞いた。
社員の主体性を引き出す風土改革

ーー梅田社長が貴社に入社された経緯をお聞かせください。
梅田益生:
父親が創業した会社ですが、もともと継ぐことは決めていませんでした。ただ、漠然と「社長になりたい」という思いはあり、まずは営業力を身につけようと、多くの経営者に会えるリクルートの求人広告代理店に就職しました。
そこで3年ほど勤めた後、リーマン・ショックで営業成績が伸び悩んだことなどから「転職を考えている」と父に話したところ、「今すぐ戻ってこい」と誘われたのが入社のきっかけです。当時の会社は債務超過の状態で混乱していましたが、その状況だったからこそ、創業者である父のバックアップを受けながら、当初から比較的自由にやらせてもらえる環境でした。
ーー会社の立て直しを進める中で、組織のトップとして大切にしてきた価値観についてお聞かせください。
梅田益生:
入社当初は必死で、数字を立て直すことで頭がいっぱいでした。活気があった前職の雰囲気とのギャップから「もっと楽しく働けるはずなのに」と感じていたものの、最初の2、3年は私自身がワンマンで改革を進めようとして、社員とぶつかることも多かったのです。
その反省から、今では社員の声をよく聞くことを大切にしています。会社が掲げる理念やビジョン、コアバリューから逸脱しなければ、社員の自主性を尊重するようになりました。また、弊社では特に「感謝することから始めよう」というコアバリューを大切にし、お互い協力することで良いサービスが生まれるということを15年間言い続けてきました。今では人のために汗をかく会社になったと実感しています。
ーー社員の皆さんの成長をどのように促し、やりがいを引き出しているのでしょうか。
梅田益生:
常に「感動創造日本一」というビジョンを社員に伝え続けています。お客様の期待通りのサービスは「満足」であり、その期待を超えたときに生まれる「ここまでしてくれるの?」という驚きこそが「感動」だと定義しています。この感動をお届けすることが、社員自身のやりがいにもつながるという信念です。
社員の成長は「その気になったとき」に起こると考えており、そのきっかけは人それぞれです。私が語るビジョンに触れて奮起する社員もいれば、後輩の素直な意見にハッとさせられて変わる社員もいます。だからこそ、立場に関係なく自主的なアイデアを歓迎し、皆で議論を重ね、決まったら協力して実行する風土づくりを大切にしています。
研修でもマニュアルを超えたおもてなしの心を育むことを重視しており、常に「どうすればお客様に感動していただけるか」を問いかけ続けているところです。
受け継がれる「ウメイチらしさ」
ーー社内の変革に取り組む中で、「守り続けてきたもの」はありますか?
梅田益生:
お客様に対する「親切さ」と「丁寧さ」は、創業以来大切にしている「ウメイチらしさ」です。私が営業出身のため、最初は効率を重視し、ベテラン社員の丁寧な仕事ぶりに戸惑いを覚えました。しかし、当時社内のトラブルが絶えなかったことを機に、私たちが本当に大切にすべき価値観は何かを全社員で話し合ったのです。その過程で、彼らが持つ「お客様のために尽くす」という純粋な思いこそが会社の土台なのだと気づかされました。そして、彼らの「親切」「丁寧」さに、私の強みである「スピード」を掛け合わせた現在のコアバリューが誕生したという経緯です。
この「親切さ」の原点は、創業者である祖父の妻、つまり私の祖母にあたる女将(おかみ)の姿勢にあります。祖母はいつも「ありがとう」と感謝を口にする人でした。商売の形は変わっても、お客様に喜んでいただく「王道」を追求する姿勢は変わりません。広告に頼らずともお客様に選んでいただけるのは、この社員一人ひとりのおもてなしの心があるからだと考えています。
地域密着と多店舗展開で感動を届ける
ーー現在、岐阜県を中心に多店舗展開を進めていらっしゃいますが、その戦略と背景にある考えをお聞かせください。
梅田益生:
呉服業界で主流だった大規模店舗営業から、口コミで集客する小型店舗の多店舗展開へと戦略を転換しました。成人式ビジネスのウエイトが大きいため、お客様が自宅の近くで着付けできる便利さを追求し、地域に密着した小型店舗を増やしています。岐阜から始まって、愛知県にも展開しており、お客様にとって「あの店があった方がいい」と感じていただける存在であり続けることが重要だと考えています。
ーー貴社の強みについてお聞かせください。
梅田益生:
振袖などの衣装レンタルから、当日の着付けやヘアメイク、写真スタジオでの撮影まで、記念日に関わるサービスをすべて自社で一貫して提供できる点です。多くの同業他社は写真撮影や美容を外注していますが、私たちは新卒から人材を採用し、自分たちで質の高い技術を教育することで、お客様に納得のいくサービスを提供しています。実際、衣装の売上よりも写真の売上が会社全体で上回るほど成長しており、今後も写真のマーケットは伸びると見ています。
人材育成と新規事業への挑戦

ーー事業規模が拡大する中で、現在、最も課題視されていることは何でしょうか。
梅田益生:
この数年で社員数が大幅に増えたため、現在の課題は「管理者の育成」です。現場で活躍する人材が役職者として活躍できるプログラムを現在作成中です。組織が大きくなると私が直接話す機会が減るため、マネージャーや店長が弊社のコアバリューやビジョンを社員に語り継ぎ、社員が壁にぶつかった際に支えとなる人材に育てることを重視しています。
ーー今後の事業戦略とビジョンをお聞かせください。
梅田益生:
私たちが目指す「感動創造日本一」「美しい着物姿創造日本一」「らしく働ける環境日本一」という3つのビジョンは不変です。このビジョンを追求した結果として、2035年には売上20億円の達成を目指しています。
その実現のため、今後は大きく3つの軸で事業を展開する計画です。第一に、既存ブランドである「PLUM」と「コフレ」の多店舗展開。まだ私たちのサービスを届けられていない地域へ、人材育成とともに出店を加速させます。
第二に、海外、特にインバウンド需要の開拓です。少子化が進む中でも成長を続けるため、世界に誇る日本の着物文化の魅力を海外からのお客様にも積極的に発信していきたいと考えています。
そして第三の軸が、新規事業への挑戦です。私たちの事業を「記念日のプロデュース業」と再定義し、衣装や写真だけでなく、飲食や宿泊といった新しい領域でもお客様の特別な一日を彩るお手伝いができないかと構想を練っています。
ーーEC強化について、今後の戦略をお聞かせください。
梅田益生:
現在、ネット事業部では別ブランドでECを展開していますが、今後は既存店舗ブランド「プラム」のオンラインストアを立ち上げ、東海エリア以外のお客様にもサービスを届けられるようにしたいと考えています。これは店舗の売上を補完し、お客様の不便を解決するECショップとして、1、2年以内に形にしたいですね。遠方からの来店も増えているため、自社ECモールを強化することが重要だと考えています。
編集後記
梅田社長の言葉から、社員への深い愛情とお客様への感謝の思いが伝わってきた。呉服店の伝統を大切にしつつ、時代の変化を捉え、社員が輝ける「自分らしい働き方」を追求する柔軟な経営手腕は示唆に富む。お客様の「一生に一度の記念日」を彩るという揺るぎない理念のもと、伝統と革新を融合させながら進化し続けるウメイチの、さらなる飛躍に注目したい。

梅田益生/1985年岐阜県生まれ。県立岐阜商業高等学校卒業。龍谷大学を卒業後、名古屋でリクルートの代理店にて3年営業を経験。その後、同業の衣裳店にて1年の修業を経て、2010年に有限会社ウメイチへ入社。2020年に代表取締役に就任。社員一人ひとりが自分らしく働ける企業づくりに注力している。