
学生が自身の経験やスキルを登録し、企業から直接オファーを受け取る新しい就職活動の形。それがオファー型就活サイト「OfferBox」だ。ダイレクトリクルーティングの領域で、学生登録数が26年卒業学生で22万人以上(2025年6月末)のサービスを提供するのが株式会社i-plugだ。同社を率いるのは、代表取締役CEOの中野智哉氏である。所属企業が買収されるという転機を乗り越え、営業として全国トップクラスの実績を上げ、その後、起業家へと転身した経歴を持つ。「届けた価値の分だけ対価をいただける」という哲学を胸に、常に本質的な価値提供を追求する。彼の情熱と事業の軌跡、そして未来への展望をうかがった。
挫折と学びが生んだトップセールスへの道
ーーこれまでのご経歴についてお聞かせください。
中野智哉:
キャリアのスタートは、新聞の折込求人の営業でした。その後、インテリジェンス(現・パーソルグループ)に入社します。しかし、入社後3年ほどは全く売れませんでした。
この時期は誰よりも働いた自信があります。当時は紙媒体からインターネット求人への転換期で、私はその新しい媒体について誰よりも早く、そして深く学ぶことに注力しました。過去の求人誌を徹底的に分析したり、パソコンスキルを基礎から習得したりと、できることを一つひとつ増やしていったのです。学ぶこと自体が楽しく、その探求心が結果につながり、最終的には営業担当の中で全国トップに入ることができました。
ーーその後、起業に至った経緯を教えていただけますか。
中野智哉:
リーマンショックをきっかけに、グロービス経営大学院に進学しました。i-plugを起業した2人と出会ったのは大学院です。当初は大学生向けのSNS事業を試みましたが、うまくいきませんでした。しかし、学生と対話する中で、彼らが就職活動に大きな悩みを抱えていることを知り、その課題を解決するために現在の事業を立ち上げました。
ーー仕事をする上で、一貫して大事にされている考え方はありますか。
中野智哉:
「お客様に価値を届ける」ということです。シンプルですが、価値を届けた分だけお金をいただけるというのが私の信念です。そのため、私たちが提供するサービスが、お客様にとって本当に価値あるものになっているか、常に自問自答を繰り返しています。
時代の追い風を掴んだ「OfferBox」の成長戦略
ーー主力事業である「OfferBox」の特徴を教えてください。
中野智哉:
「OfferBox」は、学生がプロフィールを登録すると、それを見た企業が「会いたい」と思った学生に直接オファーを送るプラットフォームです。これは従来とは逆の流れの就職活動といえます。日本の就職活動は、学生側からしかアプローチできない構造でした。だからこそ、その逆の仕組みがあっても良いのではないか、という発想から生まれました。
事業が大きく成長する転機はいくつかありました。一つ目は、就職活動の時期が後ろ倒しになったことで、インターンシップ市場が急拡大したことです。これにより、企業側に新しい採用手法を試そうという機運が高まり、弊社のサービスに注目が集まりました。
二つ目は、2020年のコロナ禍です。対面での採用活動が制限され、企業の活動が一気にオンラインへシフトしたことも、私たちにとっては大きな追い風になりました。
ーー事業運営において、特にこだわっている点は何でしょうか。
中野智哉:
ユーザーにとっての使いやすさや、良質なコミュニケーションが生まれやすい設計を大切にしています。例えば、むやみに大量のオファーを送れないよう、あえて数に制限をかけています。これは事業者側の効率よりも、学生と企業双方にとって意味のある出会いを創出するという価値を最優先しているためです。この思想こそが、他社には真似のできない弊社の強みだと考えています。
人の可能性がひろがる社会へ ミッションが導く未来

ーー今後のビジョンについてお聞かせください。
中野智哉:
私たちのミッションは、「つながりで、人の可能性があふれる社会をつくる」ことです。このミッションを実現する取り組みを続けていけば、会社は自然と大きくなると信じています。オファー型の仕組みがもっと広がることで、学歴や固定観念にとらわれることがなくなります。そして、一人ひとりの個性や可能性が正しく評価される社会の実現に貢献できると考えています。
ーーミッション実現のために、現在注力していることは何ですか。
中野智哉:
より多くの方に「OfferBox」を使っていただき、その価値を実感していただくための地道な改善を続けることが大前提です。その上で、主力事業以外のサービスも拡充させています。例えば、大学生がキャリアについて気軽に相談できる施設「plugin lab」の運営や、キャリアに関する授業の提供も始めました。就職活動の手前から学生の成長を支援することで、企業と学生のより良い出会いを生むことを推進しています。
編集後記
売れない営業担当から全国トップへ、そして起業家へ。中野氏のキャリアは、変化を恐れず学び続ける姿勢と、「お客様に価値を届ける」という揺るぎない信念に支えられている。人の可能性を信じ、その最大化を目指す同社の挑戦は、日本の採用、ひいては社会のあり方を、より良い方向へと導くに違いない。

中野智哉/1978年兵庫県生まれ。2001年中京大学経営学部を卒業後、株式会社インテリジェンス(現・パーソルキャリア株式会社)に入社。法人営業を10年間経験する。2012年グロービス経営大学院大学経営研究科経営専攻修了(MBA)。同年4月、株式会社i-plugを設立し、代表取締役CEOに就任。