
家具・家電などの耐久消費財を、月額で利用・購入できるサブスクリプションサービス「CLAS」を個人・法人向けに展開する株式会社クラス。同社は単なるレンタルではなく、必要なときに借りて不要になれば返す、気に入ればそのまま購入もできるという新しい所有の形を提案している。徹底したDXで構築した独自のオペレーションインフラを強みに、顧客の高い自由度と事業の成長を両立させ、まさに「未来の当たり前」となる社会インフラの構築を目指す。
代表取締役社長の久保裕丈氏は、コンサルティングファーム、ファッションECの起業・売却を経て同社を設立。「自分自身が本当に欲しかった」という強い思いを原点に、新たな挑戦を続ける同氏に、事業に込めた情熱と、その先に見据える未来について話を聞いた。
2度の起業を経て辿り着いたモノとの新しい付き合い方
ーーまずは、貴社を創業されるまでのご経歴をお聞かせください。
久保裕丈:
大学院を卒業後、コンサルティングファームに勤務し、その後ファッション通販サイトを運営する会社を共同で設立しました。その会社を売却した後、2018年に弊社を創業し、現在に至ります。
事業を立ち上げたきっかけは、私自身の過去の引っ越しの経験です。当時、新しい家に家具を持っていったところサイズが合わず、高い費用を払って処分することになりました。この経験から「もっと良い方法はないか」と強く感じたのです。もっと気軽に試したり、交換したりできる仕組みがあれば、暮らしにおける多くの無駄や不便をなくせると考えました。
ーー今の会社を立ち上げるにあたって、どのような思いがあったのですか。
久保裕丈:
弊社のビジョンは、「“暮らす”を自由に、軽やかに」です。変化の速い現代、高価な家具や家電の「所有」が、かえって人々の行動やライフスタイルの変化を妨げるリスクになり得ます。所有に縛られず、その時々の自分に合ったモノを最適に利用できる。そんな「モノとの新しい付き合い方」を社会の当たり前にしたいという強い思いがあります。
レンタルと購入の垣根を越えた圧倒的な自由度
ーー貴社の事業内容を改めて教えてください。
久保裕丈:
家具や家電、アウトドア用品といった耐久消費財全般を対象としたサブスクリプションサービスを提供しています。これは、単なる家具のレンタル事業ではありません。私たちが提供しているのは、レンタルと購入の垣根を取り払った、まったく新しい利用体験です。
ーー貴社事業の強みはどこにあるのでしょうか。
久保裕丈:
圧倒的な「自由度の高さ」です。たとえば、月額料金で利用を始め、もし気に入れば、そのまま購入もできます。暮らしに合わなければ、もちろん返却も可能です。好きなタイミングで購入できるため、審査のない分割払いのような感覚でご利用いただくこともできます。
お試し購入や期間レンタルなど、個別のサービスを提供する会社は存在します。しかし、これらを一つのサービスとして包括的に実現しているモデルは、日本では弊社だけだと認識しています。この総合的な自由さが、最大の競合優位性です。
サービスを支える独自のDX・物流インフラ

ーー高い自由度を支える、運営の仕組みについてお聞かせください。
久保裕丈:
商品を配送し、返却時には解体・搬出、さらに再生も行うため、通常の小売りに比べてコストは格段に重くなります。しかし、このコスト構造こそが他社が簡単に真似できない参入障壁にもなっています。
弊社は、商品がお客様に届き、返却されるまでの一連の業務を可能な限り内製化しました。さらに、運営の仕組みをほぼすべてDX化することで、この課題を克服しています。人の手を極力介さない業務プロセスを構築し、自由度の高いサービスを実現しているのです。
ーーDXによって、具体的にどのような成果が生まれていますか。
久保裕丈:
この3年間、社員数は80人弱とほぼ横ばいですが、売上は2倍強に成長しました。少ない経営資源で大きな成果を出せているのは、間違いなくDXによる効率化の成果です。この強力な仕組みがあるからこそ、お客様に適正な価格で価値を提供できています。
「自由と成果」を両立させる独自の組織文化
ーー経営者として、社員に対して大事にしていることは何ですか。
久保裕丈:
会社の根底にあるバリュー(価値観・行動規範)を共有することです。そのバリューに沿っていれば、働き方はどれだけ自由でも構いません。一方で、結果には厳しく向き合います。
経営者として特に時間を割いているのは、社員一人ひとりの目標設定と、それに対する公正な評価・フィードバックです。まず本人が目標を設定し、上長とすり合わせます。最終的には経営陣全員で全社員の目標を確認し、本人の成長と会社の成長の両方につながるかを議論します。その際、達成可能でありながら挑戦しがいのある「タフアサインメント」(※1)になっているかを重視します。目標は固定せず、状況の変化に応じて柔軟に見直すことも求めています。
(※1)タフアサインメント:人材育成を促すマネジメント手法のひとつ。本人の実力を超える業務や目標にチャレンジさせることでポテンシャルを引き出し、能力を大きく開花させたり劇的な成長につなげたりするための施策。
ーー今後、貴社が求めているのはどんな人材ですか。
久保裕丈:
何よりも「素直さ」と「主体性」を持つ方です。素直さとは、自分を客観視し、他者からのフィードバックを真摯に受け止められること。主体性とは、環境が整っていなくても、どうすれば目標を達成できるかを自ら考え、道を切り拓いていける力です。この二つがあれば、弊社の環境で大きく成長できると確信しています。
ーー最後にメッセージをお願いします。
久保裕丈:
働く時間は、人生で最も長い時間を占めるかもしれません。だからこそ、その時間を最大限、自分のために使ってほしいと願っています。そのためには、主体性を持って自身のキャリアを切り拓くという意識が不可欠です。主体性を発揮するために意識してほしいのは、常に自分に「少し背伸びした目標」を課し続けることです。「今の自分には無理かもしれない」と思うような挑戦を続けることでしか、人と組織は成長できません。
弊社は、主体性を発揮する方にとって、世の中で一番の可能性を提示できる場所だと自負しています。ぜひ、ご自身の人生を主体的にデザインしてください。
編集後記
モノを「所有」することが当たり前だった時代は終わりを告げようとしているのかもしれない。久保氏が率いる株式会社クラスは「サブスクリプション」というモデルを通じ、単なる利便性を超え、暮らしの「自由」そのものを社会に提供しようとしている。その挑戦を支えるのは、徹底したDX戦略と、成果にこだわる組織文化である。同氏の言葉からは、未来の当たり前を創るという、静かだが確固たる意志が感じられた。

久保裕丈/2005年東京大学工学部卒業。2007年同大学院新領域創成科学研究科修士課程修了。2007年4月A.T. カーニー入社。2012年ミューズコー株式会社設立、2015年売却。2018年「"暮らす"を自由に、軽やかに」をビジョンに株式会社クラスを設立、個人向けEC「CLAS」、法人向け「CLAS Biz」を提供。耐久消費財の循環型エコシステムを構築し、新たな社会インフラとなるべく取り組んでいる。