※本ページ内の情報は2025年9月時点のものです。

小規模集合住宅の建物管理において、全国3万棟の管理実績と6万人規模のワーカーネットワークを保有する株式会社QLEAN。2025年6月に建物管理事業へと経営資源を集中させる戦略的転換を図り、社名も変更した。同社の舵取りを担う代表取締役社長、田中祥司氏に、これまでの歩みと経営哲学についてうかがった。

大学時代の起業経験が経営者としての出発点

ーーこれまでのご経歴について教えてください。

田中祥司:
最初に起業したのは、大学在学中です。アルバイト先で出会った仲間と「何か事業をやってみたい」と議論を重ねていました。

その中で、共同創業者となる友人が、東京都主催の「学生起業家選手権」にエントリーしました。アメリカ留学で体験した住環境を参考に、ルームシェアや留学生向けに特化したシェアハウス事業を企画。その企画で応募したところ優秀賞を受賞したのです。当時、日本ではまだ珍しかったシェアハウスを事業化し、4年ほど在籍したのちに退任しました。

しばらくの休養期間を経て、2011年に大学の後輩たちが立ち上げたギグベース株式会社(現・株式会社QLEAN)への参画を打診され、引き受けました。

ーー代表取締役に就任された経緯を教えてください。

田中祥司:
入社当初は、現場を支える役職にいました。しかし、資金調達には経営経験を有する人材が代表を務めることが条件とされていたのです。社長になりたかったというより、当時のメンバーで最適な体制を組むという現実的な判断から、2012年に代表取締役に就任しました。

柔軟な働き方とDX・AIで築く集合住宅管理の新モデル

ーー貴社の主要事業とその特徴についてご紹介ください。

田中祥司:
弊社は、集合住宅における清掃・点検・リフォームなどの建物管理事業を中心に展開しています。現在、全国約3万棟の集合住宅管理を請け負っており、これまで200万件を超える業務実績を積み重ねてきました。特に小規模集合住宅の建物管理においては、業界でも有数の実績を誇ります。

弊社の特徴は、柔軟な働き方をいち早く導入した点です。具体的には、単発・短時間で働く「スポットワーク」や「ギグワーク」といった仕組みを活用しています。案件単価は低いものの、高い収益率を実現しています。業務プロセスのDX化やAIによる人材配置システムで、業務効率を最大化しているからです。

これまで蓄積したデータも重要な資産です。建物の構造や過去の事例から業務のポイントを整理し、現場と共有することで日々の業務に活かしています。また、登録ベースで6万人を超える働き手のネットワークを保有しています。これにより、地域や稼働状況に応じて適切な教育と人材配置を行う仕組みも構築しました。

ーー経営者として大切にしている点を教えてください。

田中祥司:
経営において最も重視しているのは現場主義です。実際に足を運ぶと、紙面や数字では見えてこない気づきがあります。現場でしか得られない情報が、判断の要になると考えているからです。

また、柔軟な視点を持つことも大切です。弊社は創業当初、清掃・内装、引っ越し、バイク便、さらには受託開発も手がけていました。2014年に「社会にインパクトを与える事業をしよう」と建物管理業に集中しましたが、その経験が今の業務設計やDX推進に活かされています。

加えて、メールの文面ひとつで信頼を左右することもあるため、細部への配慮を欠かしません。「どこまで関与し、どこから任せるか」というバランスは常に意識しています。必要な場面では丁寧に確認し、あとは担当に委ねる。この姿勢が、社内での信頼関係と成果につながると信じています。

インバウンド事業と組織づくりで拓く次のステージ

ーー今後の展望や事業戦略について教えてください。

田中祥司:
弊社は、向こう5年以内に100億円規模まで成長戦略を描いており、時期のずれはあっても到達可能な目標と考えています。現在はその先の事業拡大を見据え、建物管理事業へ経営資源を集中させているところです。社名も、迅速さ(Quick)、無駄のなさ(LEAN)、清潔(Clean)への思いを込め、QLEANに変更しました。

重点領域としては、インバウンド(訪日外国人向け)関連事業にも注目しています。人手不足は全国的に深刻化しており、特に地方では人口減少と空き家の増加が顕著です。弊社の集合住宅向け事業も、居住者減少による市場縮小が懸念されます。そのため、民泊や簡易宿所といった分野に成長の可能性を見出しているのです。清掃や接客を担う人材の確保と併せて事業展開を進めていきます。

多くの企業が人手不足で積極的な事業展開に制約を受けている現状があります。これは、弊社にとって新規の販路を開拓する好機です。この機を捉え、市場でのポジション確立を目指します。

ーー今後の組織づくりについて、お考えをお聞かせください。

田中祥司:
組織づくりでは、まず営業体制の強化を重視します。関西・九州・東海・東北といった主要エリアに営業拠点を順次設置する予定です。そこに経験豊富な人材を配置し、地域ごとの特性やニーズに即した対応ができる体制を整えたいと考えています。現場に強く、継続的に価値を届けられる組織が目標です。

また、現場業務を担う作業員の方々が正当に評価される社会の実現も、弊社の重要な使命です。報酬や待遇を高める仕組みをつくり、長く安心して働ける環境づくりに取り組んでいきます。

ーー最後に、若い世代の方やこれから起業を目指す方にアドバイスをお願いします。

田中祥司:
世の中には経営書や成功哲学があふれています。しかし、本当に大事なのは「目の前の現実に向き合い続けられるか」ということです。最初から完璧な戦略を立てる必要はありません。考えすぎるよりも、まずは実行し、行動しながら方向修正していく。その繰り返しが経験となり、ご自身の強みになるはずです。

起業は特別な行動ではなく、日々の気づきや行動の延長線上にあります。失敗しても学びに変え、やりたいことに固執しすぎず、周囲と協力しながら地道に歩んでいってください。

編集後記

小規模案件における高収益性というビジネスモデル。その根底には、単純な効率化追求だけではなく、現場を担う人材によりよい経済環境を提供したいという田中氏の使命感が深く根ざしている。一貫した現場主義と柔軟な視点。そして、それらを基盤としたDXの推進。この姿勢は、今後の日本のサービス業に求められる実践的な経営スタイルの一つといえるだろう。

田中祥司/法政大学在学中に、東京都主催の「学生起業家選手権」にて優秀賞を受賞。その後、ルームシェアと留学生専門の不動産会社を創業。退社後の2011年、前身となるギグベース株式会社に取締役として参画。2012年に代表取締役社長に就任。2025年に株式会社QLEANに社名変更。