
SaaSとコンサルティングを両輪に、営業組織に変革をもたらすSALESCORE株式会社。同社は独自の「文化のインストール」という手法で、組織が持つ「当たり前の水準」を引き上げることで、組織の持続的な成長を実現する。大学時代に出会った起業家たちの逆境を楽しむ生き方に憧れ、営業という職能そのものを進化させることを志した代表取締役の中内崇人氏。その情熱の源泉と事業の核心、そして見据える未来について話を聞いた。
逆境を楽しむ生き方への憧れが起業のきっかけに
ーー経営者を志した経緯についてお聞かせください。
中内崇人:
大学時代、起業したOBたちがボランティアでつくってくれたゼミのようなサークルが原点です。そこでは、私たちが考えた事業プランなどに対して、毎週のように現役の起業家が来て直接フィードバックをくれ、彼らは自身の会社が大変な時期でも言い訳せず、むしろ逆境を楽しんでいるように見えました。その生き方に強く憧れ、「起業したい」というより「彼らのように生きたい」と思ったのが、起業を志したきっかけです。
ーーその後は、どのような経験をされましたか。
中内崇人:
大学生の頃はまだ具体的に何をするか決めていなかったので、修業できる場所として、優秀な方が多いディー・エヌ・エー(DeNA)に入社しました。入社時から「3年で辞めます」と宣言していた通り、2年半で退職しましたが、そこで得た経験は非常に大きかったです。
ゲームプランナーとして、物理的な制約がない世界で「ユーザーにどう楽しんでもらうか」に没頭できた経験は大きな学びでした。当時の個人向け事業と現在の法人向け事業では対象こそ違いますが、最終的に向き合うのが一人ひとりのユーザーである点は同じです。ゲームユーザーの行動を変えることと、弊社のツールで営業担当者の行動を変えることは本質的に近しいと考えており、そのアプローチを考える上で当時の思考が役立っています。
営業組織の「当たり前」を変える SALESCORE誕生秘話
ーーどのような経緯で、現在の事業を立ち上げたのですか。
中内崇人:
DeNA退職時に創業者の南場智子さんから「ブレない軸を一つ決めなさい」というアドバイスをいただき、考え抜いた末に「人の成長」という領域で事業をすると決めました。その領域を軸に事業を模索する中で「営業」に出会い、キーエンスで働く友人の話に衝撃を受けました。
キーエンスの強みは、単に個々の営業スキルが高いだけでなく、「組織全体で高い成果を出す仕組み」が構築されている点だと気づき、そこでは、全員が共通の考え方や行動基準を持ち、組織全体のレベルが引き上げられていたのです。この「全員が高いレベルで成果を出す組織文化」を他社でも再現できれば、世界中の営業組織の生産性を変えられると考え、現在の事業を立ち上げました。
3ヶ月でアポ数を4倍に「文化が変わる」を証明した最初の挑戦
ーーサービスの原型は、どのようにして生まれたのでしょうか。
中内崇人:
営業に課題を抱える企業を探し、1社を支援したのが始まりです。組織の「新しい当たり前」をつくるために、1日のアポイント獲得件数の目標を当時の1〜2件から5件へと引き上げました。担当地域を割り当てる制度(テリトリー制)の導入や時間を区切った電話でのアポイント獲得活動など、達成可能な仕組みを導入したのですが、メンバーからは「無理だ」という反応で、当初はなかなか実行されませんでした。やはり、仕組みだけでは人は簡単には変わらず、「資料作成で時間がなかった」「リストが良くない」といった理由で、行動に移せない日々が続いたのです。
ーー計画が実行されない状況を、どのように打開したのですか。
中内崇人:
一つひとつの課題にとことん向き合いました。対話を重ねたり、時には、私自身が彼らの隣で一日中電話をかけ続け、1日で10件のアポイントを獲得して「やればできる」ことを証明したこともあります。
その結果、ある社員が1日で11件、その一週間後には別の社員が17件のアポイントを獲得するという記録が生まれ、組織の空気が一変したのです。最終的に3か月後には、アポイントの件数が平均で4倍になり、プロジェクト開始前は1〜2件で十分と思っていた彼らが、「今日はまだ4件しか取れていない」と話すようになりました。
この経験を通じ、文化や当たり前は意図してつくることで短期間でも確実にインストールできるのだと確信しました。これが、弊社の事業の大きな可能性を信じるきっかけとなったのです。
アスリートのように営業を科学する SALESCOREが描く未来

ーー貴社の事業内容や強みをお聞かせください。
中内崇人:
弊社は営業組織に「成果を出す文化」を根付かせることを事業の核としています。ここで言う「文化」とは、アポイント獲得数や案件化率といった、組織が「当たり前」と捉えるパフォーマンス水準を指します。私たちは、この水準そのものを引き上げる変革を、SaaSとコンサルティングの2つのソリューションで実現しています。
SaaSプロダクトは、日々の行動変容を促すダッシュボード(※1)です。ダイエットのために毎日体重計に乗ると意識が変わるように、数字を見て行動を促し、データ入力の習慣化を支援します。しかし、ツールを導入するだけでは不十分で、朝会でダッシュボードを確認する習慣をつくるなど、日々の業務や会議体まで変える必要があります。
弊社は「Buddy」と呼ばれるコンサルタントがお客様の組織に深く入り込み、売上が上がるまで伴走します。このようにツールと伴走支援の両方を高い熱量で提供している点が、弊社の最大の強みだと考えています。
(※1)ダッシュボード:一つの画面にグラフや分布図などのさまざまなデータをまとめられるビジネスツール。
ーー今後、事業を通じてどのような世界を実現したいですか。
中内崇人:
現代のアスリートの世界では、パフォーマンスのデータ化や科学的な分析が当たり前になっています。私たちは、営業の世界でも同じような環境、つまりアスリートのように営業を科学できる環境をつくりたいと考えています。商談をデータで可視化し、誰もが成長しやすくなる世界です。そのための新プロダクトとして、顧客のニーズを地図のように可視化する機能も開発しました。これにより、1年かかっていた育成が1か月に短縮される可能性もあります。強い文化を持つ組織は経営も安定し、より挑戦的な事業に投資できます。企業と個人の両方の成長に貢献していきたいです。
求めるのは「目の前の人に向き合える」仲間
ーー貴社では、どのような方が活躍されていますか。
中内崇人:
目の前の人に向き合える人です。文化を変えるには、お客様にとって耳の痛いことも伝えなければなりません。それでも相手の成長を願い、本気で向き合えることが何より重要です。営業経験は問いませんし、実際に、営業未経験からスタートして、第一線で活躍しているメンバーも多く在籍しています。
私たちは「最先端から学ぶ」ことを大切にしており、意欲のある社員には、セールステック(※2)の最先端カンファレンス「Dreamforce」へ社費で参加する機会も提供しています。年齢や経歴に関係なく、熱意があれば誰でも挑戦できる環境です。
(※2)セールステック:ITを活用し営業活動を効率化するサービスやツール。
ーー最後に、中内社長が仕事を通じて成し遂げたいことをお聞かせください。
中内崇人:
「生まれてきたからには、後世に価値を残せるような、人類を前に進める仕事がしたい」と常々考えています。私にとって、それは営業という仕事のあり方を変え、人々の成長に貢献することです。
まずは、私たちが提供するサービスを通じて、「日本の営業組織が2、3年進んだ」と評価されるようなインパクトを残すのが目標です。営業組織の行動基準や成果の「当たり前」そのものを、仕組みによって変革していく私たちのアプローチは、世界を見てもユニークだと感じています。日本発の挑戦で、世界中の人々の成長に貢献していきたいです。
編集後記
「人類を前に進めたい」。中内氏の壮大なビジョンは、事業の根底に流れる揺るぎない信念を感じさせた。「人の成長」という普遍的なテーマに対し、テクノロジーと人の伴走支援を組み合わせた独自の手法で挑む。その挑戦は、日本の、そして世界の営業のあり方を塗り替えていくに違いない。彼の挑戦は、まだ始まったばかりだ。

中内崇人/2014年に神戸大学経営学部卒業後、株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)に入社。ゲームディレクターを経験した後、2018年に株式会社Buff(現・SALESCORE株式会社)を創業。あたり前の水準を高め続ける文化を営業組織に根付かせるセールスイネーブルメント(営業組織が成果を上げていくために行われる、人材の育成・改善に向けた取り組み)のコンサルティング事業とSaaS事業を開発・運営。