※本ページ内の情報は2025年9月時点のものです。

米国での誕生から75周年、日本で最初のクレジットカードとして登場してから65周年という長い歴史を誇る「ダイナースクラブ」。その日本唯一の発行会社が、三井住友トラストクラブ株式会社である。同社は富裕層をメインターゲットに、歴史と信頼を礎とした質の高いサービスで独自の地位を築く。2019年に代表取締役社長に就任した五十嵐幸司氏は、多様な出向経験で培った広い視野を持つ。そしてブランドの再定義や組織改革を推進してきた。伝統を守りつつ、未来を見据えた挑戦を続ける同氏に、その軌跡と展望について話を聞いた。

若き日の出向経験が育んだ多角的な視点

ーーこれまでのご経歴についてお聞かせください。

五十嵐幸司:
大学卒業後は、幅広い業務を経験できる点に魅力を感じ、住友信託銀行(現・三井住友信託銀行)に入社しました。入社4年目、26歳で経験した大蔵省(現・財務省)への出向が最初の転機です。「国を動かす」という使命感に燃える方々と共に、即応体制で働く日々は、非常に大きな経験となりました。

その後も、日本トラスティ・サービス信託銀行(現・日本カストディ銀行)の立ち上げプロジェクトへの参画など、複数の出向を経験しました。異なる文化を持つ組織の人々と共同で仕事をした経験は、物事を多角的に見る上で良い勉強になったと感じています。

私は最初から経営者を志していたわけではありません。弊社へは、買収後のシステム統合プロジェクトの責任者として出向したのが始まりです。当時は目前のプロジェクトを期日通りに成し遂げることに没頭していました。カード業界の大きなシステム統合は、先行事例では様々な課題があり、大変な挑戦でした。しかし社員や協力会社の尽力のおかげで、無事にやり遂げることができたのは良い思い出です。

ブランドの再定義から始まった組織変革

ーー社長就任後、どのようなことに取り組まれましたか。

五十嵐幸司:
私が社長に就任したのは、システム統合が一段落したタイミングでした。弊社は、もともと日本の銀行が設立し、その後外資系企業の傘下を経て、再び日本の銀行グループの一員になるという複雑な経緯をたどっています。そのため社員の経歴も多様で、仕事の進め方にも文化の違いが見られました。そこでまず、ブランドの歴史や価値を守りつつ、時代に合わせて変えていくべき部分を明確化しました。そのために社員参加型のリブランディングに取り組み、ブランドメッセージやブランドガイドラインを制定したのです。

また、外資系時代に生まれた部門間の壁が残っており、組織の一体感を醸成するためには部門間の連携が課題だと感じていました。その解決策として、それまで部門ごとだった採用を見直しました。会社全体の視点を持つ人材を育てるため、積極的な人事ローテーションも導入しました。さらに、キャリア採用も始め、組織全体を流動化させ、活性化することを意図しました。まずは社員の意識を一つにそろえ、同じ目標に向かって進める体制をつくり上げてきました。

富裕層に特化「日本唯一」のダイナースクラブという価値

ーー改めて、貴社の事業内容や強みについてお聞かせください。

五十嵐幸司:
弊社は、日本で唯一ダイナースクラブブランドのカードを発行する会社です。不特定多数の方へ広く提供するのではなく、主として富裕層という特定のお客様にターゲットを絞っています。そのうえで、エッジの効いたサービスを提供することを得意としています。その一つが、他社では難しい高額決済への対応力です。自動車やプレジャーボート・ヨット、ゴルフ会員権など、富裕層の方が利用されるさまざまな購入シーンで決済できる信頼性が強みです。

また、コールセンターの応対品質の向上に地道な投資を続け、日本の格付け機関から高い評価を得ている点も、お客様からの信頼につながっていると考えています。

ーー貴社ならではの特別なサービスは、どのようなものがありますか。

五十嵐幸司:
弊社は手間暇をかけたイベントの企画・運営も強みとしています。たとえば、フランス料理の巨匠アラン・デュカス氏と組んだ食の祭典「ダイナースクラブ フランスレストランウィーク」は今年で15年目を迎えます。また、神社仏閣の一般には非公開のエリアを含む特別拝観といったサービスも、弊社が先駆けて開拓してきました。

60年以上にわたり自社で発行を続ける会報誌『SIGNATURE』も、会員様のみならず雑誌・広告業界からも評価いただいており、その質の高さには誇りを持っています。こうした一つひとつの積み重ねが、「ダイナースクラブ」ならではの価値を形成しているのです。

ーーサービスのラインナップの中で、最高峰に位置するものは何ですか。

五十嵐幸司:
ダイナースクラブカードの上位カードであるプレミアムカードのさらに上に「ロイヤルプレミアムカード」という、999名様限定の特別なカードをご用意しています。これは完全招待制です。専任のコンシェルジュがつき、お客様一人ひとりのご要望にフルオーダーメイドでお応えしています。いたずらに会員数を増やすのではなく、サービスの質を維持することを最優先に考えており、ブランドの最高峰に位置づけられるカードになります。

未来への挑戦と求める人物像

ーー今後の事業展望と、求める人材についてお聞かせください。

五十嵐幸司:
今後は、これまで注力してきた個人のお客様に加え、法人市場の開拓にも力を入れていきます。また、将来の顧客層である20代、30代の方々への認知度向上のため、新しいサービスやカードの開発も重要な課題です。

求めるのは、自ら考え、判断し、行動できる「エンパワーメント型」の人材です。不確実な時代だからこそ、現場に近い場所でPDCAを回せる行動力のある方が、弊社の中核を担っていくと期待しています。異業種からの転職者も多く、風通しの良いフラットな組織なので、チャレンジ精神旺盛な方にぜひ来ていただきたいですね。

ーー最後に、読者の方へメッセージをお願いします。

五十嵐幸司:
弊社のサービスの質の高さは、一度ご利用いただければ必ず実感していただけるはずです。まだ会員になられていない方には、これまでにない新しい体験をぜひ味わっていただきたいと考えています。

また、弊社は主として富裕層に特化したユニークな会社であり、常に新しい挑戦を続けています。イノベーティブな精神を持つ方であれば、大いに活躍できるフィールドがここにあります。共感をしてくださった方は、ぜひ門を叩いていただけると嬉しいです。

編集後記

クレジットカードは単なる決済手段ではない。会員の人生を豊かにするパートナーであることを、五十嵐氏の話は雄弁に物語っていた。65年という日本のカード史の最前線を走り続けてきた「ダイナースクラブ」。その伝統と信頼を背負いながらも、組織を変革し、未来の顧客層へアプローチする挑戦を止めない。歴史という強固な土台の上で、同社がこれからどのような新しい価値を創造していくのか、その飛躍が楽しみである。

五十嵐幸司/1986年、住友信託銀行(現・三井住友信託銀行)に入社。営業店に配属後、大蔵省(現・財務省)へ出向。その後、日本トラスティ・サービス信託銀行(現・日本カストディ銀行)の立ち上げプロジェクトなどに参画。2015年12月、三井住友トラストクラブ株式会社の常務取締役に就任し、システム統合プロジェクトの責任者を務める。2019年4月、同社の代表取締役社長に就任。