※本ページ内の情報は2025年9月時点のものです。

半導体チップ設計に不可欠なEDA(Electronic Design Automation)システムを自社で開発。日本のエレクトロニクス産業を支える株式会社ジーダット。同社は、アナログ半導体やパワーデバイスといった特定分野に特化したEDAツールを提供している。国内唯一のEDAベンダーとして、顧客の細かなニーズに応えるカスタマイズ力で高い信頼を得ている。セイコー電子工業(現:セイコーインスツル)での経験を経て、2019年から同社の代表取締役社長に就任している松尾和利氏に、独自の事業戦略、AI技術が拓く未来、そして「夢のある会社」が求める人材像について話を聞いた。

変化の時代を生き抜く「不易流行」の哲学

ーーこれまでのご経歴をお聞かせください。

松尾 和利:
大学卒業後、地元の信用金庫に約4年半勤務しました。その後、1988年にセイコー電子工業株式会社(現:セイコーインスツル株式会社)に入社し、情報関連事業部に所属。ここでは主にCAD関連業務に携わりました。当時はコンピューター支援設計が大型専用機からPCへ移行する変革期でした。建築、医療、半導体など多様な業界のお客様と接点を持ち、営業として幅広いネットワークや経験を積めたことは現在の経営にも活きています。

その後、コンピューターや周辺機器の小型化とコストダウンが急速に進展。従来型のビジネスモデルでは情報関連事業の収益性が悪化しました。事業の将来に限界を感じ、退職も考えたほどです。しかし、幸運にも社内の3事業部から誘いを受け、最も困難と思われたEDA(半導体設計自動化)事業部への社内転職を決意しました。半導体の知識は全くありませんでしたが、これが大きな転機となります。そして、2004年に同事業部が分離独立する形で現在のジーダットが設立され、私も合流しました。

ジーダット設立当初は営業を担当し、西日本の所長などを務めました。これまで多くの時間を営業としてお客様と向き合い、実績を重ねてきました。その影響もあって、社長になった今も私自身は現場のプレイヤーとしての意識を強く持っています。

ーー社長が最も大切にされている考え方とは何でしょうか。

松尾 和利:
現代は将来予測が困難な「VUCA(ブーカ)時代」です。重要なのは、環境変化に柔軟に対応する順応性と、変わらない自分自身の核を持つこと。これは松尾芭蕉の「不易流行」の精神に通じます。変化すべき部分と守り抜くべき本質を見極め、自身を見失わず進むことが肝要です。

(※)VUCA(ブーカ)時代:Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を組み合わせた言葉で、将来の予測が困難な状態を指す

海外巨大企業と戦う日本唯一のEDAベンダーの戦術

ーー事業内容についてお聞かせください。

松尾 和利:
私たちは、半導体メーカーが設計に用いるEDAシステムを開発・販売しています。スマートフォンやセンサーなど、半導体は現代社会に不可欠な部品です。弊社は、これらの半導体や液晶パネルを製造・販売するメーカーが設計時に使用するEDAツールを、自社で開発から販売まで一貫して手掛けています。

EDAツールを自社開発・販売する企業は、国内に他になく、半導体チップそのものの内部設計用EDAベンダーとしては、日本で唯一の存在です。

ーーグローバル市場における貴社の立ち位置は、どのようなものでしょうか。

松尾 和利:
業界の競合は主にアメリカの巨大企業であり、企業規模では大きな差があります。かつて日本の半導体が世界をリードした時代もありましたが、現在は海外勢が強い状況です。私たちはそうしたグローバル企業と日々競い合っています。

その中で、弊社の製品はアナログ半導体やパワーデバイスといった特定分野に特化して開発している点が強みです。そして、日本のお客様の細かな要求に合わせ、設計環境を柔軟にカスタマイズできること。さらに、日本語でのきめ細かいサポートが最大のアドバンテージだと考えています。海外製CADでは改善要望が通りにくいこともありますが、私たちは顧客に寄り添った対応を重視しています。

日本のものづくりを支えるジーダットの未来戦略

ーー今後の事業展望についておうかがいできますか。

松尾 和利:
得意とするアナログ半導体やパワーデバイス領域を強化しつつ、AIを活用したシステム構築を推進します。日本では少子化や半導体業界の一時的停滞により、設計者の育成が課題です。特にアナログ設計は熟練技術が必要で、ノウハウ継承が難しくなっています。ここにAIを導入し、設計者の負担軽減や技術伝承を支援したいと考えています。AIが設計をアシストすることで、経験の浅い技術者も高度な設計ができるようになることを目指します。

具体的には、アナログ半導体レイアウトの自動配置配線技術に注力しています。これにAIのノウハウを融合させ、設計期間の大幅短縮と品質向上を目指す計画です。このAI搭載製品は、来年(2026年)中のリリースを目標に開発を進めています。

「夢を実現する舞台」へ行くために求める仲間とは

ーー経営幹部や後継者の育成について、どのような課題認識をお持ちですか。

松尾 和利:
経営幹部育成は急務であり、中でも私の後継者育成は最重要と捉えています。社員の平均年齢が比較的高く、中核を担うべき40代後半から50代前半の人材が不足しています。そのため、次世代リーダーの育成に力を入れる方針です。また、長年ソフトウェア開発に携わってきたベテラン社員の能力に、業務が依存する側面は否めません。ノウハウの標準化を進めるとともに新しい事業領域を開拓し、組織全体の力を高めていく必要があると考えています。

ーー採用戦略について、特にどのような人材を求めているかお聞かせください。

松尾 和利:
採用活動は現在、最も注力している活動の一つです。大学で数学や物理を学んだ方、他分野でのシステム開発経験を持つ方を歓迎します。特に、C言語やJava、弊社が用いるC++等のプログラミングスキルを持つ方はぜひご応募ください。30代半ばから50代半ばの開発経験者は特に求めています。

経験者を求める一方で、半導体の知識は入社後に習得可能です。半導体業界経験がなくてもご応募いただけます。今後は大学や高専との連携を強化し、弊社の魅力を伝えていきたいと考えています。

ーー最後に、貴社で働く魅力について、求職者へのメッセージをお願いします。

松尾 和利:
弊社は、一人のアイデアやチームの努力が世界を変える製品を生み出す可能性を秘めた「夢のある会社」です。社員数は多くありませんが、だからこそ個々の力が会社の成長に直結します。また、社員の意見を尊重し、共に会社を良くしていこうという文化があります。風通しが良く、柔軟な働き方ができるのも魅力です。世界を変える製品を一緒に生み出す日が来ることを楽しみにしています。

編集後記

海外の巨大企業を相手に、「日本唯一のEDAベンダー」として独自の道を切り拓くジーダット。その根幹には、変化を恐れぬ「不易流行」の哲学が息づいていた。顧客の声に寄り添い、AIで技術の未来を紡ぐ。少数精鋭のチームだからこそ、一人ひとりのアイデアが「世界を変える製品」になるのかもしれない。その熱量と可能性こそ、ジーダットの核心であり、最大の魅力だろう。

松尾和利/1960年福岡県生まれ。1988年、セイコー電子工業株式会社(現:セイコーインスツル株式会社)に入社。情報関連事業部にてCAD関連業務などに従事した後、2000年に同社半導体事業部へ社内転職。2004年、株式会社ジーダット設立と同時に入社し、主に営業畑を歩む。2014年に同社取締役に就任。2019年より代表取締役社長を務め、アナログ半導体設計用EDAツール開発・販売事業を牽引している。