
鞄業界でオリジナリティあふれる4つの自社ブランドを展開する株式会社バギーポート。アパレル業界からのOEM依頼を契機に新領域を開拓し、コロナ禍でもフランチャイズ展開を推進してきた。人と人とのつながりを大切にしたものづくりを行う、同社の代表取締役である福井大器氏に話をうかがった。
居酒屋での出会いから始まった鞄業界での挑戦
ーー貴社へ入社したきっかけを教えてください。
福井大器:
弊社の創業者であり初代社長でもある池上と、居酒屋でたまたま飲み友達として知り合ったのがきっかけでした。そこで「もっと熱意を持って仕事をしていきたい」という話をしていたところ、「もしよかったら、うちに来てみないか」と誘われたのです。そのときは自分が将来、社長になるとは思ってもいませんでしたし、鞄業界について何も知らない状態でした。この出会いと、私を採用してくれた池上に今でも感謝しています。
ーー初めての業界に転職した後はどのような苦労がありましたか?
福井大器:
OEM事業の立ち上げでの苦労が特に印象に残っています。OEMの話をいただいたのは、アパレル業界の方からでした。当時はアパレルと鞄業界では10年ほどの差があり、アパレルの方が先を行っていました。「鞄業界ではまだどこもOEMをやっていないからやってみないか」という話をいただいて始めましたが、最初は失敗ばかりでしたね。私個人としても異業種からの転職で、新事業の拡大を目指しながら、鞄についての知識を身につけなければならず、非常に苦労しました。
私が苦労していたときに力になってくれたのは、バイヤーさんや職人さんでした。弊社は「人と人とのつながり」を大切にする風土があるのです。彼らの協力があったからこそ、今の私があると思っています。
人とのつながりと機能性が融合した独自の鞄づくり

ーー貴社の事業内容を教えてください。
福井大器:
弊社は鞄や財布を中心として、企画から販売までを手がけている会社です。4つの自社ブランドがあり、それぞれに責任者を置いて、素材からこだわった鞄づくりに取り組んでいます。
加えて、近年はフランチャイズ展開も積極的に推進しているところです。「ブランドを一緒に育てていこう」という意識を共有できるフランチャイズオーナーと取り組んでおり、契約条件で選定するのではなく、ここでも人と人の「心のつながり」を大切にしています。
ーー貴社の商品で特に特徴的なものをお聞かせください。
福井大器:
「BAGGY'S ANNEX(バギーズアネックス)」では収納に工夫を凝らしたトートバッグを展開しています。トートバッグは収納力が高いというメリットがありますが、反対に「中に入れたものが見えにくい」というデメリットを抱えています。そこで、バッグの内部に仕切りをつけ、収納物の居場所を明確にすることでその課題を解決できるようにしました。着脱可能な仕切りが複数あり、お弁当などの大きいものも入れられる設計になっています。なにかと持ち物が多くなりがちな、ペットの散歩などにもご活用いただいているようです。
ーー素材については、どのようなことにこだわっていますか?
福井大器:
一般的に鞄業界では、生地問屋さんから仕入れた素材をそのまま使うことが多いのですが、弊社は生地屋さんや革屋さんに直接足を運び、コミュニケーションをとりながら素材を厳選した上でさらに加工しています。「もっとこうしたら面白いのではないか」という提案もしますし、2次加工、3次加工も当たり前です。そうして複数の加工を施すことで、強度を高めながら独特の風合いを持つオリジナルの帆布を開発しており、これが弊社の強みになっています。
AIの時代だからこそ「HUMAN」を掲げる経営方針
ーー若手社員や就職活動中の方へのメッセージをお願いします。
福井大器:
私は何事にも一生懸命取り組むことが、一番大事だと考えています。そうすれば誰かが見てくれますし、自分自身が成長できます。たとえば仕事や勉強でも、目指す方向性が変わったとしても、これまでに取り組んできた経験は必ず次の分野で生きると思うのです。私自身が行動派なので、ひたすら机の上で考えるよりも足を使って市場を見るなど、とにかく行動を起こすことを大切にしています。次につながるという気持ちで、目の前のことに全力で取り組んでみてほしいですね。
ーー最後に、今後の展望についてお聞かせください。
福井大器:
時代的にも生成AIをどう活用するかといった課題がありますが、最終的な判断を自分でできる社員を育成したいと考えており、中期的な目標として「BE HUMAN」を掲げています。これは「人間が主役」という意味です。
人と人とのつながりにも通じますが、どんなに生成AIを活用しても、提案するのは人ですし、商品企画するのも人。そして、ものづくりをする職人さんも人です。人が主役になってこそ、仕事をより楽しめるのではないでしょうか。これからも人を大切にしながら、いつも笑顔が絶えない会社を目指していきます。
編集後記
居酒屋での出会いから業界未経験で入社し、OEM事業を成功させた軌跡からは、人のつながりを大切にする考え方と、行動力の大切さが伝わってくる。福井氏自身が「一生懸命取り組むことが大事」と語るように、その姿勢こそが同社の成長を支えてきたのだろう。AIの台頭で効率化を求める現代だが、最後は「人」が判断し「人」がものをつくる。そうして生まれる、機能性と素材にこだわった鞄には、使う人への思いやりが込められていた。

福井大器/1976年、静岡県伊豆市生まれ。2004年、株式会社バギーポートに入社後、OEM事業の立ち上げと運営に携わり、2021年に代表取締役に就任。「オリジナル帆布」と「豊富な財布群」をメインに港町KOBEからブランドを発信している。