
カスタマークラウド株式会社は、AIとDXを組み合わせた革新的なソリューションを提供する企業だ。同社は「Lark」「識学」の公式パートナーとして200社以上にAI/DX経営を導入し、日本企業の生産性向上と国際競争力の回復を支援している。これまで数々の事業を創業してきた、同社代表取締役CEOの木下寛士氏に話をうかがった。
世界を旅して見出した起業家の道
ーー起業家としての原点となった経験を教えてください。
木下寛士:
私は大学時代、地元を離れ、東京でさまざまな経験をしましたが、期待していた満足感が得られませんでした。次第に「もっと新しい経験をしたい」と思うようになり、大学を中退して海外に出ることを決意。もともとは世界を一周する予定でしたが、途中、立ち寄ったインドで現地の人と意気投合し、観光客向けの古本店やアパレル店をオープンしました。これが私が初めて立ち上げた事業です。
インドでは“生と死”が身近にあり、日本では接することのないような価値観や生活に触れる貴重な経験ができました。当初、「日本には戻らない」と決めて旅立ちましたが、海外で経験を重ねるうちに、日本文化の良さや日本人の人間性の素晴らしさに改めて気づかされ、1年半ほどインドに滞在した後、日本に帰国しました。
ーー帰国後はどのような経験を積みましたか?
木下寛士:
日本に戻ってからはカフェやeコマースなど、多くの事業に挑戦しました。20代は自分で事業を立ち上げて運営する経験を積み、30代に入ってからは、家業であるオートアライアンスに所属し、グループ会社の社長なども経験。そして、2018年にAIとDXに特化したカスタマークラウドと自動車整備機器メーカーのファインピースを設立しました。当初はファインピースをサポートする目的で弊社を立ち上げましたが、2024年からAI・DXソリューションを提供する企業として事業の主軸を明確化し、現在はそれぞれが独立した会社として事業を展開しています。
私は、「自分が本当に興味を持てるものを見つけ、そこに情熱を注ぐ」ということを大切にしています。若い頃は「自分がやりたいことは外にあるはず」と思い、自分のやりたいこと探しのために東京や海外に飛び出しました。
しかし、多くの経験を積む中で、困った人と出会うと、自分の中から「手助けをしたい!」という思いが湧き上がっていることに気づいたのです。目の前にいる困っている人を助けたい。これこそが、自分の進むべき道だと直感し、「困っている人たちの助けになりたい」という思いが軸になって、これまでたくさんの事業を立ち上げてきました。
AIとDXで、日本の技術力を再び世界へ

ーー貴社の事業内容について教えてください。
木下寛士:
弊社はAIとデジタル技術を活用して、企業のDXを支援しています。具体的には「Lark」という海外で高い評価を受けているビジネスツールの公式パートナーとして、その導入支援や、AI技術を組み合わせた業務効率化のコンサルティングをしています。
日本の中小零細企業の技術力は本来、国力の源泉です。しかし、DXの遅れにより、その強みが十分に発揮されていません。そこで弊社は、AIやデジタルツールなど、生産性を高める手段を提供することで、企業の国際競争力を取り戻すお手伝いをしています。
ーーサービスの特徴をお聞かせください。
木下寛士:
従来のシステム開発では数千万円からの投資が必要でしたが、弊社のパッケージ化されたソリューションは数十万円からスタートできます。加えて、お客様とアイディアのすり合わせをしている途中段階でも実際のシステムを構築し始められるほど、柔軟で機敏な体制を整えています。
たとえば、初回の打ち合わせで「これならやってみたい」と思っていただけたら、翌日から実際に使い始めることも可能。このスピード感と低コストが、特に中小企業にとって大きなメリットとなっています。
また、業種を問わず、お客様の業務に合わせて柔軟にカスタマイズできる点も弊社の特徴です。既存の業務フローを尊重しながら、それぞれに適した提案をしています。
ーーAI関連コスト削減に貢献する「Context Engineering MCP」についても教えていただけますでしょうか。
木下寛士:
AI開発の現場では、パフォーマンスの向上とコストの最適化が常に重要な課題となっています。特に、AIの応答速度や運用コストは、サービスの競争力に直結する要素です。
こうした中、開発効率を飛躍的に高める新たなソリューションとして「Context Engineering MCP」が注目を集めています。このツールは、AI関連コストを平均で52%削減し、従来3秒かかっていた応答時間をわずか1.8秒にまで短縮できます。実際に、あるスタートアップが導入したケースでは、月額4,230ドルだった運用コストが2,028ドルにまで減少し、年間にして2万5000ドルもの経費削減につながったとのことです。
これまで非効率なまま実行されがちだったプロンプトを根本から最適化することで実現されるものです。AI開発の効率化は、もはや単なるコスト削減の問題ではなく、サービス全体の質を左右する時代になっています。
個の力を最大化する組織で、AI時代の価値創出に挑む
ーーどのような体制で事業を進めていますか?
木下寛士:
弊社は“社員ゼロ”という新しい組織モデルを実践しています。私は、AIの台頭により、多くの業務が自動化される中、真に価値を生み出せるのは専門性を持つ人材とAIを使いこなせる人材だと考えています。
そこで、従来の雇用関係にとらわれず、業務提携や協業など多様な形でパートナーシップを組み、それぞれの強みを活かす体制を整えました。これにより、子育てや介護などさまざまな事情を持つ人材も活躍できる環境を実現しています。従来の枠組みを超えた働き方で、より多くの可能性を引き出しているのです。
ーー今後の展望についてお聞かせください。
木下寛士:
今後は5年間で日本国内での基盤をしっかり固め、最近本格的に展開を始めた海外事業をさらに成長させ、その後の5年間で海外への事業拡大も目指しています。AIとDXは、人間の能力を大きく拡張するツールです。かつて自転車の発明により、人間の移動能力が動物界で最下位から上位になったように、AIは人間の創造性や生産性を飛躍的に向上させていくでしょう。
私が目指すのは、この技術の恩恵をより多くの企業に届けることです。これからもAIとDXによって企業を支援し、高い技術力を発揮できるようにすることで、日本の競争力の向上に貢献していきます。
編集後記
木下社長の“変化を恐れない姿勢”が印象的だ。インドでの経営、20代での起業経験、そして社員ゼロという組織形態まで、常に新たな可能性を追求し続けている。「日本企業の国際競争力向上」という大きな目標に向け、既存の枠組みにとらわれない思考で挑む姿勢に、日本の明るい未来を見た思いがした。

木下寛士/生成AI時代のDXを専門とするAIコンサルタント・シリアルアントレプレナー。21歳でインドにて事業を立ち上げた後、日本に帰国し、複数の法人を設立。経営・M&A支援で実績多数。「Lark」「識学」の公式パートナーとして200社以上にAI/DX経営を導入。日本初の「AI2AI」や「.Ai SEO」など革新的手法を展開し、.Aiカレッジやメディア連載でAI変革を推進している。