
日本が世界に誇る「モノづくり」の精神は、常に進化を続けている。その最前線に立ち、長年にわたりパイプ製造機械の技術革新を牽引してきたのが、株式会社中田製作所だ。同社は、創業以来培ってきた独自技術の開発にかける情熱と、柔軟な発想で変化に対応する経営手腕を融合させ、世界の産業界に不可欠な存在感を放っている。今回は、総合商社から家業へと、異色のキャリアを経て同社の舵取りを担う代表取締役社長の中田充氏に、その変革の軌跡と、未来へ向けた熱き展望をうかがった。
異色の経歴と変革への決意
ーー社長に就任されるまでの経緯をお聞かせください。
中田充:
新卒で三井物産株式会社に入社し、経理や財務、為替ディーリング、そしてイギリスとシドニーでの海外駐在を計6年経験しました。グローバルなビジネスのダイナミズムと、それを支える財務の知識といった、実に多くのことを学んだ15年間でした。
その後、父から家業へという話があり、2年間熟考した末、2013年に中田製作所への入社を決意し、翌年社長に就任しました。前職で培った財務会計の知識や英語力、そしてエネルギー事業のプロジェクト管理などで得た知見は、現在の銀行交渉やグローバルな事業展開に、まさに血肉として活きています。
ーー社長就任後、特に注力されたことや、ご苦労されたことはありますか?
中田充:
就任当初は業績が悪化し、大型のロシア案件が中断するなど、まさに困難の連続でした。まずは得意とする数値の管理を徹底し、必死に業績回復を図る日々。その中で、若手経営者との交流や経営塾で得た刺激や学び、コロナ禍に続きロシア・ウクライナ紛争下でのロシア派遣員の早期帰国の決断やその後の対応、その最中の2021年に私自身に息子が生まれたことなど、これらが大きな糧となりました。
特に息子を授かったことは、社員やお客様、パートナー企業様への感謝の念が、これまで以上に込み上げてくるきっかけとなりました。周りに支えられている、生かされているという実感から、「会社を良くしたい」「世の中のために貢献したい」「より良い未来を創りたい」という思いがより一層強くなり、経営者として、そして一人の人間として、本当の意味で生まれ変われたように感じています。
歴史と革新技術で切り拓く“パイプ製造の未来”

ーー貴社の事業と、その独自性について詳しく教えてください。
中田充:
私たちは、鉄板を曲げ溶接してパイプを造る機械の専業メーカーとして、1960年代からこの道を究めてきました。最大の独自性は、鉄板を「曲げる」技術にあります。通常はサイズごとに金型であるロールの交換が必要ですが、私たちは「インボリュートカーブ」という特殊な曲線を持つ「兼用ロール」を開発し、スムーズな成形と優れた溶接品質を両立させました。
この技術をさらに進化させ、自社開発の解析技術とNC制御を組み合わせたのが「FFX(Flexible Forming Excellent)」です。国内外で特許も取得し、今では業界のスタンダードとも言える方式として広く認知されています。
ーー貴社の技術は、社会でどのように活用されていますか?
中田充:
弊社の機械でつくられたパイプは、自動車の骨格部品や建築資材、そして特に大口径のものは、石油やガスを運ぶラインパイプなど、世界中のインフラを支えています。私たちは、世界中のお客様に、一社一社の仕様に合わせたオーダーメイドで機械を提供しており、一度導入いただければ、メンテナンスや改造を通じて数十年単位でお付き合いが続きます。お客様にとっての「主治医」のような存在として、共に歩んでいけることが私たちの誇りです。
価値創造と人材育成が導く「世界中の仲間」の輪
ーー貴社が描く、製造業の未来とはどのようなものでしょうか。
中田充:
熟練技術者の確保が世界的な課題となる中、私たちは機械の「スマート化」と「リモートサポート」に注力しています。IT技術で自動データ収集やリモートサポート機能を強化し、お客様が熟練工に依存せずとも高品質な生産を維持できる、新たな価値を提供します。
そして将来的には、私たちの成形技術やシミュレーション技術を他分野へも応用し、「モノづくり」という共通言語で、人種や言葉を超えた「世界中の仲間」とのネットワークを築きたいですね。そのためにも、更なる成長を目指しています。
ーーその未来像に向けた、具体的な取り組みを教えてください。
中田充:
業務の「高レベルな標準化」に取り組んでいます。これは、トップ技術者やベテラン社員が持つ暗黙知を分解・体系化し、データベース化する取り組みです。AIなどのIT技術で、設計・開発・営業などの支援ツールを構築し、経験の浅い社員でもベテラン同等のパフォーマンスを発揮できる仕組みを目指しています。この社内システムこそが、私たちの未来を支える競争優位性の源泉となると確信しています。
ーー未来を共に創る人財に何を求め、どのように育成していきたいとお考えですか。
中田充:
弊社は新卒採用に力を入れていますが、最も重視するのは「学ぶ習慣」と「挑戦する意欲」です。自律型学習組織を目指し、社内勉強会や資格取得支援を通じて、社員が自ら学び続けられる環境を整えています。また、世界中の現場へ積極的に足を運ぶ機会も多いため、「タフさ」も重要ですね。
社員には仕事を通じて成長と幸福を感じ、社会貢献や顧客への信頼構築を通じて、「人のため、次の世代のため」という利他の精神を育んでほしいと願っています。
編集後記
総合商社から家業へ。異色の経歴を持つ中田社長の言葉からは、逆境を乗り越えてきた経営者としての人間力と、モノづくりへの情熱が伝わってきた。117年の歴史で培われた独自技術「FFX」を核に、「スマート化」や「高レベルの標準化」といった未来への投資を惜しまない姿は、長期的な視点で事業を磨き続ける覚悟を示している。同社の今後の展開から目が離せない。

中田充/1973年兵庫県生まれ。東京大学卒業後、三井物産株式会社に入社。国内外で15年勤務し、財務やエネルギー事業管理の経験を積む。2013年株式会社中田製作所に入社し、翌2014年に代表取締役社長に就任。