
フォルクスワーゲングループの一員であり、2026年には創業100周年を迎えるイタリアのバイクメーカー、ドゥカティ。その日本法人であるドゥカティジャパン株式会社の代表取締役社長を務めるのが、スウェーデン出身のマッツ リンドストレーム氏だ。社内外で強固なコミュニティ形成に努める同社の事業哲学について、同氏に話をうかがった。
バイクへの情熱とセールス・マーケティングの経験を融合
ーーこれまでのご経歴をおうかがいできますか。
マッツ リンドストレーム:
スウェーデンの大学卒業後、フランスの大学でフランス語を学び、ボルボ・カー・カンパニーへトレーニープログラム(※1)で入社しました。約20人の同期と共に、半年から1年ごとに異なる部署で働き、さまざまな分野を経験。最終的に購買を担当し、グループリーダーやマネージャーとしてのキャリアも積みました。
2004年にIKEAに転職し、日本進出プロジェクトメンバーとして日本に来ました。当時は店舗がなく、広尾にあった小さなオフィスでゼロからの立ち上げに参画。営業部長としてメンバーの採用から携わりました。真っ先に感じたのが日本語でのコミュニケーションの難しさです。
スウェーデン語や英語が直接的であるのに対し、日本語は発話の文脈や、言葉の裏側にある意図を読みとる必要があります。「耳を大きく、口を小さく」。つまり、よく聞いてあまり話しすぎないことの大切さを学びました。
その後IKEAを退職し、スウェーデンの商用車メーカー・スカニアが2009年に日本で事業を立ち上げるタイミングで転職しました。取締役やCFOも務めましたが、自分の得意分野はセールス・マーケティングだと改めて感じました。
2017年にドゥカティジャパンの当時の社長と出会い、入社を打診されたことが転機です。幼い頃からバイクが好きでドゥカティオーナーだったこともあり、バイクへの情熱と自身の経験を融合できると考え、入社を決断しました。翌年に代表取締役社長に就任し、現在に至ります。
(※1)トレーニープログラム:将来のリーダー候補を育てるための若手向け特別育成コース。
デザインや技術に優れ、世界中のお客様に選ばれるバイクブランド
ーー貴社の事業内容についてお聞かせください。
マッツ リンドストレーム:
弊社はイタリアのバイクメーカー、ドゥカティの日本法人です。ドゥカティのバイクは、ユニークさ、スポーティーさ、軽さ、エレガントさ、そしてイタリアンデザインを特徴としています。これらが世界中のお客様に選ばれる大きな要因です。
技術力も世界トップクラスで、常に新しい技術を市場に投入してきました。例えば、世界で初めてレーダーを搭載したバイク(ムルティストラーダ V4)や、コーナリングABSを標準搭載したモデルなどが挙げられます。レースでの長い歴史で培われた技術が市販バイクにも応用されています。特に「軽さ」と「ハンドリングのしやすさ」は、速さと扱いやすさの両立を実現しています。
社内外のスタッフとお客様が生み出すコミュニティの強さ
ーー貴社の強みはどこにあるとお考えですか。
マッツ リンドストレーム:
弊社の強みは、本社のスタッフ、日本のスタッフ、そして全国の販売店スタッフ全員が、製品に対する強い熱意を持っていることだと考えています。
私たちは自らを単なるバイクメーカーではなく、「エンターテインメント会社」であると位置づけています。お客様の体験を最も重要視し、バイクを購入いただくことだけでなく、コミュニティの一員となることを目指しています。
日本ではドゥカティスティ(ドゥカティの熱狂的なファンやオーナー)が1,000人以上集まる「ドゥカティデイ」を開催。最新モデルの体験試乗やスタントショーのほか、初心者向けのライディングアカデミー「DRE(Ducati Riding Experience)」など多彩なコンテンツで盛り上げています。ツーリングイベントやコーヒーブレイクミーティングなど、さまざまな形式のイベントを通じて、お客様同士の交流やバイクライフの充実をサポートしています。
また、販売店は単なるビジネスパートナーではなく「ブランドのアンバサダー」です。年間4回開催する販売代理店会議は、活発なディスカッションの場になっています。販売店からの厳しい要求も真摯に受け止め、改善を図っています。このお互いの協力関係が、お客様の体験向上と収益アップに結びついています。
多様な考え方を持つ社員同士で自由に議論してほしい

ーー貴社が大切にしているのはどのような人材ですか。
マッツ リンドストレーム:
異なるスキルや個性を持つ人材を重視しています。私は自分と同じタイプの人と一緒に働くことは考えていません。多様な考え方を持つ社員が積極的に意見を出し、自由に議論が交わされる「スピークアップカルチャー」を奨励しています。私の意見が正しいとは限らないからです。社員からの異なる意見や反対意見も積極的に聞き入れ、議論を通じて弊社をより良い方向に進めていきたいと考えています。
そして、何よりも大切なのは「改善したい」というマインドセットです。会社の文化やバイクに関する知識はトレーニングを通じて教えられます。そのため、前職やスキルにはこだわりません。入社後も現状維持ではなく、日々改善に取り組み、お客様、製品、販売店のために新しい方法を模索する。そんなマインドセットを持つ方と、一緒に弊社を成長させたいです。
編集後記
「耳を大きく、口を小さく」という表現で傾聴の姿勢を語ったリンドストレーム氏。自分とは異なる多様な意見を歓迎し、常に「改善したい」というマインドセットを重視する姿勢にも、その哲学が貫かれている。バイクへの深い愛と人とのつながりを追求する同氏。社内のスタッフ、販売店、そして顧客とのコミュニティを大切にしながら今後どのような飛躍を遂げるのか。期待を込めて見守りたい。

マッツ リンドストレーム/1969年スウェーデン南部ロンマ生まれ。1999年ヨーテボリ大学卒業後、ボルドー・モンテーニュ大学でフランス語を学ぶ。2000年にボルボ・カー・カンパニーへ入社し、購買のグループリーダーを担当。2004年日本進出プロジェクトメンバーとしてIKEAへ入社。翌年渡日し営業部長を務める。2009年スカニアへ入社し、スカニアジャパンの設立に携わる。最高財務責任者、営業・マーケティング部長、取締役を歴任。2017年ドゥカティジャパン入社。2018年代表取締役社長就任。