※本ページ内の情報は2025年9月時点のものです。

広島の街と共に115年の歴史を歩み、地域から厚い信頼を寄せられる広島ガス株式会社。自社で液化天然ガス(以下、LNG)基地とパイプライン網を持ち、エネルギーの一貫供給体制を強みとする同社は今、大きな変革期を迎えている。2024年4月に代表取締役社長 社長執行役員に就任した中川智彦氏。同氏は常識を覆す挑戦を重ねてきた自身の経験を土台に、新たな電力小売りサービスで全国展開するという壮大なビジョンを掲げる。本記事では、中川氏のキャリアの転換点、事業への思い、そして同社が目指す未来について聞いた。

「自己実現から他者貢献へ」 40歳で迎えた仕事観の変革

ーー貴社に入社されたきっかけについてお聞かせください。

中川智彦:
大学院では鋳物を研究しており、当時、弊社がコークスを扱っていたため、そのコークスという繋がりが縁で入社しました。広島の街が好きで、地域に貢献できる会社で働きたいという思いが強かったのです。のんびりした社風に見えたというのもありましたが、入社してみると全く異なりました。

入社後の7〜8年は導管、いわゆるガス管の業務に携わりました。最初の3年間は現場で汗を流し、地面を掘ってガス管を修理する毎日。夏場の暑さも経験しましたが、不思議と嫌ではありませんでした。やがてガス管の計画・設計を担当するようになると、経営理念「地域社会から信頼される会社をめざす」という言葉の重みを日々感じるようになりました。

ーー入社されてから、意識の変化はありましたか。

中川智彦:
大きな転換点は40歳を目前にした頃です。それ以前は「自分が何かを成し遂げたい」という気持ちが先走り過ぎていました。しかし、ある上司からの「それでは良い仕事はできない」という教えが、私の考えを根本から変えたのです。「誰かの喜びや社会の幸せにつながる仕事こそが、自分の幸せなのだ」と気づきました。そこから、仕事はもっと楽しく、やりがいの大きなものへと変わっていったのです。

私にとって社長という役職はゴールではなく、目的を達成するための手段です。では何がしたいかと言うと、グループの全社員が「やりがい」を持って仕事ができる雰囲気と舞台を用意すること。そのためには、これまで以上に多くの方に幸せになってもらえるような新しい仕事を、探し続けなければならないと考えています。

前例なきLNG調達と輸送改革 トップのキャリアを形づくった原体験

ーー大きな転機となったご経験は何ですか。

中川智彦:
大きな転機は2つあります。1つはLNGの調達改革です。当時は原料を市場価格で買い付けていたため、為替や原油価格の変動で常に価格が不安定でした。そこで、価格変動のリスクを避ける「ヘッジ」の手法を導入。これは、当時日本のエネルギー業界ではまだ珍しい試みでした。この手法で、価格を安定させる仕組みを構築したのです。

もう1つは、輸送方法の改革です。弊社のLNG輸送は水深の制約などにより、コストが高い小型船を使用していました。これを小型船よりも大きな標準船が廿日市の工場に入れるようにしようと考えたのです。周囲からは「それは無理だ」と言われましたが、港の海底を掘削し、船が着く桟橋の機能を強化することで実現させました。原価を下げることができれば、それだけお客様に安くエネルギーを提供できます。それこそがお客様に喜んでいただき、長くご利用いただくことにつながったと考えています。

115年の信頼が基盤 全国展開を支える新電気料金メニューの独自性

ーー貴社ならではの強みや特徴について教えてください。

中川智彦:
弊社の最大の強みは、115年かけて築き上げてきたお客様からの「信頼」にあります。これを裏切らないことが事業の根幹です。その上で、自社でLNG基地を持ち、パイプライン網を通じて一貫してエネルギーを供給できる体制も大きな強みとしています。この信頼と供給体制を基盤に、お客様の痒い所に手が届くサービスを、今後は全国に広げていきたいという考えです。

ーー貴社サービスの中で特徴的なものは何ですか。

中川智彦:
弊社では「このまち電気」というサービスを展開しています。最大の特徴は、電力の卸売市場とご家庭を直接つなぐ「完全市場連動」である点にあります。市場連動型というと価格高騰が心配されがちです。しかし弊社は、価格変動リスクを抑える仕組みを特許(特許第7682233号※)として確立し、安心してご利用いただけるようにしました。これが他社との決定的な違いであり、私たちの強みと言えるでしょう。

(※)「このまち電気」の料金計算システム、料金計算方法およびコンピュータプログラムに関する特許

サービス提供で大切にしているのは、お客様の都合に徹底的に合わせる点です。ポイントで顧客を囲い込んだり、不安を煽るような売り方をしたりは絶対にしません。いつでも安心して契約でき、いつでも弊社からの違約金無しで解約できる。私たちの最大の売りが「信頼」だからこそ、地道にお客様との関係を築いていきたいと考えています。

目指すは全国トップ10 地方から日本を動かす未来への展望

ーー中期経営計画や、その先のビジョンについてお聞かせください。

中川智彦:
長期的には、エネルギーサービスを提供する会社として全国トップ10クラスを目指します。中期的には、まず既存のガス事業の深化に着手。まずは中国地方の工場へアプローチして、まだ石炭や重油を使用している工場の燃料を天然ガスやLPガスへ転換するお手伝いを確実に進め、それと同時に、合成メタン(e-メタン)といったカーボンニュートラルに向けた準備も着々と進める計画です。

2030年には、電力事業などの新たな事業でグループ全体の売上の10%を目指したいと考えています。将来的には、ガス事業を上回るお客様件数と売上になれば、私たちの起こすイノベーションが完成したと言えるでしょう。広島を地盤とする弊社が頑張ることで、地域を活性化させる存在になりたいと考えています。

ーー貴社で働く魅力について、どうお考えですか。

中川智彦:
「こういうことをやってみたい」という思いがあり、それが良いことであれば、本当に挑戦できる環境が整っています。一方で、決められた業務を確実に、安定して遂行したい人も生き生きと働ける。既存の基盤事業と、電力事業のような全く新しいベンチャー、その両方で活躍できるのが今の弊社です。

ーー最後に、読者へのメッセージをお願いします。

中川智彦:
ガス事業を堅実に行うことを基礎とし、それに加えて「世の中をあっと言わせるようなこと」を実現したいと思っています。地方の決して大きくはない会社が良い意味での驚きを全国に発信できたら、非常に面白いと考えています。そのような挑戦を共にしたいと思う方に、ぜひ入社いただけたら嬉しい限りです。

編集後記

「誰かに喜んでもらえる仕事が、自分の幸せ」。中川氏の言葉は、キャリアの節目で多くの人が向き合うであろう問いへの一つの答えを示している。115年かけて地域との「信頼」を築いてきた広島ガス。その揺るぎない土台の上で、常識を覆す挑戦を恐れない。地方のエネルギー会社が全国をあっと言わせる、その壮大な物語の序章は、もう始まっている。

中川智彦/1963年広島県生まれ。1987年に広島大学大学院卒業後、広島ガス株式会社へ入社。原料調達関係を中心に多岐にわたる業務に従事。2013年6月、同社執行役員 経営統括本部 原料部長、2019年4月、取締役 常務執行役員 経営企画部長などを歴任後、2024年4月に代表取締役社長 社長執行役員に就任。