
職人いらずの画期的な仕組みで多種多様なラーメン店をプロデュースし、飲食業界に変革をもたらしている株式会社テイクユー。同社は「ステルスフランチャイズ」という独自のビジネスモデルを確立した。加盟店は屋号を自由に決められ、ロイヤリティも発生しないこの仕組みを武器に、国内165店舗以上、さらに海外へも展開を広げている。大手電機メーカーから転身し、副業で始めた飲食店経営を軌道に乗せた経験を持つのが、代表取締役の大澤武氏だ。それまでの経験から生まれた事業の核心と、ファミリーのような仲間と描く壮大なビジョンに迫る。
大手メーカーでの経験とラーメン店経営で培った手腕
ーーこれまでのご経歴についておうかがいできますか。
大澤武:
新卒で電気メーカーに入社し、スーパーマーケット向けのシステム販売などを担当していました。7〜8年経った頃、海外、特にアメリカへの駐在を希望し、海外営業へ異動しました。
その後、2002年頃に妻が経営する会社で飲食事業を始めることになりました。ラーメンチェーンの加盟店としてスタートしたのが飲食店経営に関わった最初のきっかけです。当初は「社長の旦那」という立ち位置でしたが、翌年には元のオーナーから株を買い取り、私が事業のオーナーとなりました。
ーー以前のご経験から、現在の経営に活かされている教訓はございますか。
大澤武:
加盟店での経験は、まさに良き反面教師です。創業者は尊敬していましたが、ラーメン事業が軌道に乗ると、ジンギスカンやスイーツなど、さまざまな事業に手を広げていきました。私はその様子を見て、自分の強みを分析し、できないことは無理に行わない、得意な領域に特化することの重要性を痛感しました。
ラーメン以外のことは極力行わず、苦手なことは得意な人に任せる。現在の経営スタンスの基礎がここで形づくられたのです。
唯一無二の「ステルスフランチャイズ」の裏側

ーー「ステルスフランチャイズ」という形態は、どのような背景から生まれたのでしょうか。
大澤武:
以前加盟していたラーメンチェーンでの経験が、まさに原点です。そこでは、どんなに美味しいラーメンを開発しても「チェーン店にしては美味しい」という評価に留まっていました。これでは本当に良いものはつくれません。この課題を解決するために生まれたのが、屋号をバラバラにする現在のスタイルです。各店舗が独自のブランドを築けますし、万が一、どこかの店舗で問題が起きても、他店に影響が及ぶリスクを分散できます。何より、味の均一化を強制する必要がないため、本部が過度な管理をしなくて済み、加盟店からロイヤリティをいただかずに済むのです。
ーーロイヤリティ0円で、貴社の収益はどのように成り立っているのですか。
大澤武:
前職でプリンターやネットレジの企画に携わっていた経験が、今の事業の根幹にあります。プリンターは、本体を安く提供し、トナーやドラムといった消耗品で継続的に利益を上げるモデルです。弊社のラーメン事業も全く同じです。開業時の初期負担は極力抑え、その分しっかりとした店づくりに投資していただきます。そして、日々の運営に不可欠な「スープ」「麺」「タレ」などを弊社から仕入れていただくことで、お互いにメリットのある関係を築いています。これは後付けのようですが、実はメーカー時代に培った発想そのものなのです。
ーー多様な業態展開を支える、メーカーとの関係構築の秘訣は何ですか。
大澤武:
メーカーの気持ちが分かる、これに尽きると思います。長年メーカーに勤めていたからこそ、彼らが何を求めているか、どうすればパートナーとして認めてもらえるかが肌感覚で分かります。
弊社はスープや麺を供給してくださる大手2社と取引がありますが、どちらの会社とも取引額は弊社が断トツで1番です。これは単に量を仕入れているからではありません。彼らを単なる仕入先としてではなく、共に売れる商品をつくるパートナーとして尊重しているからです。
IT業界でいうSIer(システムインテグレーター、※)のように、彼らの優れた製品を、私たちが「売れる商品」に仕立ててお客様に届けています。この関係性を10年以上かけて築いてきたことが、私たちの最大の強みです。
(※)システムインテグレーター:顧客の業務課題を解決するために、システムの企画・設計・開発・導入・運用までを請け負う企業や事業体のこと
日本中そして世界へ ファミリーと共に描く未来
ーー地方への店舗展開にも注力されていますが、どのようなメリットがあるのでしょうか。
大澤武:
地方には大きなチャンスが眠っています。一見、人口が少ないように思える場所でも、車の通行量が多い幹線道路沿いであれば、長距離ドライバーなどの安定した需要が見込めます。たとえば、兵庫県の人口約1万4000人の町にある加盟店。この店舗は、インターチェンジの前という立地を活かして大きな売上を上げています。
また、都心に比べて飲食店の競合が少なく、その地域ならではの食材をメニューに取り入れることで、他にはない魅力的な店をつくることも可能です。結果として、そこに新たな雇用が生まれ、地域を元気にすることにもつながると信じています。
ーー「小さな会社で大きな事業を」というビジョンに込めた思いとは何でしょうか。
大澤武:
事業を独占するのではなく、関わるすべての人たちと「仲間」として、共に大きな夢を実現したいという思いです。社員はもちろん、直営店、加盟店のオーナー、そしてメーカー。彼らと一つのファミリーのようになって、この仕組みを日本中、そして世界中に広げていきたいと考えています。当面の目標は国内外で1000店舗ですが、それはあくまで通過点です。ヨーロッパ市場の開拓や、ハラル対応なども視野に入れ、挑戦を続けていきます。
ーー社長が目指す「ファミリーみたいな会社」とは、どのような組織ですか。
大澤武:
トップダウンで統率する学校や軍隊のような組織ではなく、「ファミリー」に近いイメージです。社長である私と社員、そして加盟店のオーナーさんたちとの距離も近く、それぞれが個性的な役割を担いながら、みんなで一つの舞台をつくり上げている感覚ですね。
このような組織のあり方は、私個人の価値観とも深く結びついています。私が人生で最も大切にしているものは何かと問われれば、一番は「健康」、二番目は「平和」です。争って地位や名誉を勝ち取っても、心身が健康でなければ意味がないですし、後で疲れてしまうかもしれません。
「金持ち喧嘩せず」という言葉がありますが、私はこれを「争わないことで仲間が増える」と解釈しています。だからこそ、私自身もストレスフリーで、どんな相手にも自然体でいることを心がけているのです。その方が、結果的に良い関係性が生まれ、夢の実現にも近づくと信じています。
編集後記
大手メーカーでの安定したキャリア、そして加盟店時代に培った経営手腕。大澤氏の歩みは、二つの異なる世界の経験が化学反応を起こした結果といえる。業界の常識を疑い、反面教師から学び、独自のビジネスモデルを確立した。その根底には、サプライチェーンというメーカー的視点と、「ファミリー」と呼ぶ仲間を大切にする人間的な魅力が共存している。ストレスフリーな自然体を体現し、「小さな会社で大きな事業を」と語る同氏の挑戦は、これからも多くの仲間を巻き込み、新しいラーメン文化を創造していくだろう。

大澤武/1968年東京生まれ。大学卒業後、大手電気メーカーに入社し、国内・海外営業、営業・商品企画を経験。2011年に退職後、麺屋武一を開業。2012年11月、株式会社テイクユーを設立。現在、ラーメン店を中心に直営店23店舗、ステルスフランチャイズの国内加盟店165店舗、海外加盟店18店舗を展開している。