
IoTデバイスの企画から販売まで一貫して手がける、ビーサイズ株式会社。同社が提供する子ども見守りGPS「BoT」シリーズは、AIが子どもの行動範囲を自動で学習する独自の機能や、親子での音声コミュニケーション機能を搭載し、5年連続で国内トップシェアを獲得している。現在でこそ類似GPS製品も増えているが、当初はこの分野に類似製品や前例はなく、ゼロから何度も壁にぶつかりながら、試行錯誤の末に完成までに約3年を要した。その開発の原動力となったのは、代表取締役社長である八木啓太氏自身の「父親としての視点」だった。
大手メーカーで培った技術と、親としての愛情に満ちた眼差しを胸に、妥協なき製品開発に向き合う。本記事では、八木氏のものづくりの原点から、「BoT」シリーズの誕生秘話、そして「本当に価値のあるものだけを社会に届けたい」という揺るぎない哲学と、その先に見据えるグローバルな未来像に迫る。
原体験が紡ぐものづくりの道 創業に至るまでの軌跡
ーーまずは、八木社長がものづくりに関心を持たれた原点についてお聞かせください。
八木啓太:
幼い頃からものづくりが好きで、本格的に意識したのは中学生のときに出会ったApple製品のiMacがきっかけです。その美しいデザインと革新性に衝撃を受け、「将来は人々を惹きつける製品をつくりたい」と強く思いました。優れた家電に必要な「電子工学」「デザイン」「機械設計」のうち、大学では電子工学、デザインは独学で学びました。
ーーファーストキャリアはどのようにスタートされたのでしょうか。
八木啓太:
大学卒業後は、「機械設計」の実務経験を積むため、富士フイルム株式会社に入社しました。入社後はレントゲンなどを扱う医療機器部門に配属され、人命に関わる製品づくりを通して、ものづくりの根幹を学ぶ貴重な経験を得ることができました。
ーーどのような経緯で起業を決意されたのでしょうか。
八木啓太:
在職中、高性能なLEDチップに出会ったのですが、会社の製品には採用されませんでした。しかし、それに可能性を感じ、自宅で個人的にデスクライトを試作したところ、既存のどんな製品よりも優れたものが完成しました。この経験を機に、「自分の手で本当に良いものを世に出したい」という思いが強くなりました。それから毎朝ノートにやりたいことを書き出すうちに「自分で家電をつくりたい」という気持ちが明確になり、起業を決意したのです。
「父親の視点」が絶対基準 3年を投じた「BoT」開発秘話

ーー起業後は、どのような製品を手がけられたのでしょうか。
八木啓太:
起業当初は、自分の手で「本当に良いもの」を世に出したいという一心で、生活に身近な家電の企画・開発に注力していました。そんな中、私自身に子どもが生まれたのが大きな転機となりました。父親になったことで社会への視点ががらりと変わり、現代の子育て環境にある課題を強く意識するようになったのです。子どもたちが自由に冒険するには多くの不安が伴う。この障壁をテクノロジーで取り除き、親も子も心から安心できる見守りサービスが必要だと感じたのが、「BoT」開発の始まりです。
ーー特にこだわった点や、開発でご苦労された点があればお聞かせください。
八木啓太:
こだわりは「自分が親として、本当に安心して子どもを託せるか」という、ただ一点に尽きます。最初の試作モデルはGPS精度が全く基準に達しておらず、1年半の開発期間を費やしたものの、すべてを白紙に戻しました。最終的に納得できる製品が完成するまでには、合計で約3年を要しました。特にバッテリー寿命と本体サイズの最適なバランスを追求し、子どもが持っても安全な形状を求めて数えきれないほどの試作品を製作しました。その結果たどり着いたのが、現在の5cm角というサイズで、今では業界の標準にもなっています。
試行錯誤を恐れない 貫き通すアジャイルな開発体制
ーー製品開発において、特に大切にされていることは何ですか。
八木啓太:
大手メーカーでは、最初に企画書をつくる「ウォーターフォール開発」が一般的です。計画を丁寧に積み上げていくその開発手法からは、多くのことを学びました。入念な企画も重要ですが、実際に試作品を使うと、想定外の課題が次々と見えてくるので、柔軟に対応していくことが、より良い製品づくりにつながると考えています。そのため弊社では、開発サイクルを高速で回す「アジャイル開発」を徹底しています。ユーザーからのフィードバックを何よりも優先し、柔軟に製品を修正し続けることこそが、本当に市場に受け入れられる製品を生み出すのだと確信しています。
ーーアジャイル開発を実現するために、開発体制ではどのような工夫をされていますか。
八木啓太:
アイデアを最速で形にするため、企画・開発はすべて社内で行い、量産は東京にある工場で行っています。私を含め、社内にいる子育て中のメンバー自身が最初のユーザーとなり、彼らのリアルな声に加え、実際のユーザーから寄せられているフィードバックも即座に開発へ反映できる体制を整えています。また、拠点を置く新横浜は電子部品のサプライヤーが多く、部品調達もスピーディーに行えます。設計から製造まで自分たちで管理するこの「メイドインジャパン」体制が、私たちの製品の高い品質と信頼性を支えています。

不要なモノを減らす挑戦 その先に見据えるグローバルな未来
ーー今後の事業において、特に注力していきたい分野は何ですか。
八木啓太:
現在は、①子ども見守り分野の進化、②高齢者向けサービスの開発、③グローバル展開、という3つの軸で事業を進めています。中でもグローバル展開を最優先事項と捉え、2024年10月からアメリカでサービスを開始しました。現地でも「これほど小さく高精度なデバイスは見たことがない」と、非常に良い手応えを感じています。課題先進国である日本で磨き上げた私たちのソリューションは、必ず世界で求められると確信しています。
ーー最後に、八木社長が事業を通して貫く「ものづくり」の哲学についてお聞かせください。
八木啓太:
現代はものが溢れています。しかし「本当に良いもの」は、結果的に世の中の不要なものを減らす力があると信じています。ユーザーの本質的な課題を解決する製品を届けられれば、そうでない製品は淘汰され、本当に必要とされる選択肢が自然と残っていくと思います。目先の利益追求ではなく、社会課題を解決し、人々の生活を本質的に豊かにするソリューションを突き詰めること。それが私たちの哲学です。
編集後記
「自分が父親として安心して託せるか」。同社のものづくりの根底には、創業者である八木氏の純粋で揺るぎない基準が存在する。それは単なる製品開発の指標ではなく、社会に対する誠実な約束ともいえる。自らの課題を見過ごさず、技術とデザインの力で解決策を探求するアジャイルな開発スタイルは、変化の激しい時代においてユーザーに寄り添う最適解の一つである。子ども、そして高齢者へと、その視線は常に社会の課題に向けられている。同社の挑戦は、課題先進国・日本発のものづくりが世界で通用する可能性を力強く示すものといえるだろう。

八木啓太/山口県宇部市生まれ。2006年、大阪大学大学院工学部を卒業後、富士フィルム株式会社へ入社。2011年9月にビーサイズ株式会社を設立し、代表取締役社長に就任。同年に経済産業省の「グッドデザイン賞」、世界3大デザインアワードである「レッドドット・デザイン賞」を受賞。2012年、神奈川新聞に「ひとりメーカー」として取り上げられたことがきっかけで「ガイアの夜明け」や「カンブリア宮殿」に出演。