
建設業から不動産クラウドファンディング「TECROWD」へと大胆なピポットを遂げたTECRA株式会社。同社は現在、社会的な需要が高い障がい者向けグループホームやデータセンター等の案件を中心に、投資家へ高利回りを提供する独自のビジネスモデルを確立している。
金融と不動産で豊富な経験を積み、2021年より同社の変革を牽引する代表取締役、新野博信氏。同社の新たな主業である不動産クラウドファンディング事業の勝算と、不動産クラウドファンディング市場の未来像に迫る。
金融と不動産のプロへ オリックスで培った仕事の原点
ーー社会人としてのキャリアはどのようにスタートされたのでしょうか。
新野博信:
1991年、バブル採用の最終期にオリックス株式会社へ入社し、主に不動産ファイナンスセクションとリースセクションを経験しました。不動産ファイナンスセクションでは現在の「不動産×金融」の仕事に繋がるベースを、リースセクションではチームマネジメントの難しさも含めたスキルを、それぞれ得ることができました。当然、全てが順調であったわけではありませんが、それらの経験は、私の仕事の原点になっています。
ーーオリックス時代、特に印象に残っているお仕事はありますか。
新野博信:
当時のオリックスには、銀行では扱いきれないような、いわば”訳あり”の案件が多く集まっていました。与信的には厳しい先に、様々な仕組みを使ってなんとか融資をつける、決して簡単ではありませんでしたが、苦労しながら社内決裁を取って、ようやく融資実行をして、お客様が涙ながらに感謝してくださったことは今でもよく覚えています。金融のしごとは、決して無機質なものではなく、人の思いに応え、役に立てるのだと、その面白さと醍醐味を実感した瞬間でした。
畑違いの経験が武器に 不動産特定共同事業との出会い
ーーその後、どのようなご経験をされたのでしょうか。
新野博信:
前職である東証上場のデベロッパーにいた時に、新規事業担当として、不動産特定共同事業や貸金業の立ち上げを任されました。不動産特定共同事業は、まさに今、弊社が手掛ける不動産クラウドファンディング事業そのものです。残念ながら許認可を取得するのみで、具体的なファンドの組成までは至りませんでしたが、行政とのやり取り等、このときの経験が現在の事業にダイレクトに活きています。他には買収した美容クリニックの再建を任せられるなど、畑違いの業務も経験しましたが、どれも自分の引き出しを増やしてくれた、面白い経験でした。
建設業からの大転換 不動産クラウドファンディング「TECROWD」誕生

ーーTECRA社へはどのような経緯で入社されたのでしょうか。
新野博信:
弊社が不動産特定共同事業の許可を取得し、まさに第1号ファンドを世に出そうという直前の2021年3月に入社しました。この事業を会社の新たな柱として成長させる上で、私の金融と不動産双方の経験が活かせるだろうと、お声がけいただいた形です。
ーー建設業からの大転換に至った背景には何があったのでしょうか。
新野博信:
弊社は横須賀の内装業から始まった建設会社でしたが、年々厳しくなる価格競争から脱却し、新たな成長戦略を描く必要がありました。そこで白羽の矢が立ったのが、不動産クラウドファンディング「TECROWD」です。これは過去を否定するのではなく、会社が生き残り、さらに発展するための進化でした。覚悟を決め、段階的に事業を整理し、今は不動産クラウドファンディング事業に完全に軸足を移しています。
高利回りと社会貢献を両立する「TECROWD」独自の戦略
ーー「TECROWD」が投資家から選ばれる理由、その独自の強みについて教えてください。
新野博信:
私たちは、投資家の皆様にとって最大の魅力である“利回り”で差別化を図っていますが、多くの競合がひしめく都心の住居用マンションのような一般的な物件では、魅力ある利回りを出すことは簡単ではありません。そこで、私たちは、独自のノウハウを活かしたオペレーションを付加したファンドで新たな市場を作っていきたいと思っています。その象徴の一つが、現在国内で力を入れている障がい者向けグループホーム案件です。
専門のパートナー企業と連携し、弊社が土地の仕入れから建設までを担い、完成後の施設運営をその道のプロに委託します。このグループホームは、一般的な賃貸物件より高い賃料を設定できますが、自治体からの補助もあるため、入居者の自己負担は軽くなります。そのため空室リスクが極めて低く、最近では利回り10%程度のファンドも組成しています。これは、投資家、事業者、入居者、そして社会にとっても有益な“四方良し”のビジネスモデルだと自負しています。投資家の皆様には、ファンドからのリターンを得ていただくだけでなく、自分の投資が他の誰かの役に立つ、社会貢献にもつながるという点も実感していただければと思っています。
国内では障がい者向けグループホーム以外にも、生成AIの発展にともない急成長を続けているデータセンター案件も軌道に乗りつつあります。これらの国内案件で魅力ある利回りが提供できるようになってきたこともあり、今後は、かつて特徴としていた海外案件から国内事業へと、戦略的に比重を移していく予定です。
信頼の積み重ねが未来をつくる 業界のスタンダードを目指して
ーー市場が成長していくために、どのようなことが重要だとお考えですか。
新野博信:
この市場の成長は、「いかに投資家の皆様に安心してご利用いただけるか」、この一点に尽きると思っています。私たちは今までもファンドの詳細や当社の財務内容に関して情報を公開してまいりましたが、これからは今まで以上に詳しく、可能な限り様々な情報をお伝えして、投資家の皆様が安心して当社ファンドへの投資を検討していただけるようにしていきたいと考えています。
ーー最後に、社長としての意気込みをお聞かせください。
新野博信:
「貯蓄から投資へ」という大きな流れの中で、眠っている資産を社会に還流させるパイプ役として、不動産クラウドファンディングは非常に大きな可能性を秘めていると確信しています。その中で、皆様の資産運用のポートフォリオに当たり前に組み込まれ、「不動産クラウドファンディングといえば、TECROWDだ」と第一想起される存在になりたいと考えています。
そのために、情報開示の徹底など、やるべきことを着実に実行し続ける。この事業を社会に不可欠なインフラの一つとして確立させることが、私の社会人人生の集大成としたいと考えています。
編集後記
金融と不動産、畑違いの領域まで渡り歩いた豊富な経験が「TECROWD」の強みとなっている。特に、競合が追随しにくい領域で、社会貢献と高利回りという2つの価値を備えるファンドを提供していることは注目に値する。投資家の信頼を何より重んじ、地道な実績と徹底した情報開示で応えていこうとするその姿勢は、資産運用を考える多くの人にとっての拠り所となるだろう。同社が不動産クラウドファンディング市場の新たなスタンダードを築いていく未来に、大いに期待したい。

新野博信/1968年生まれ、早稲田大学法学部卒業後、大手ノンバンクであるオリックスでファイナンス業務に従事するなどした後、2021年3月にTECRA株式会社に入社。同年4月から取締役を務め、2024年4月に代表取締役に就任。