※本ページ内の情報は2025年10月時点のものです。

心臓カテーテルをはじめとする低侵襲医療分野に特化した医療機器専門商社、ウイン・パートナーズ株式会社。単に製品を届けるだけでなく、病院の経営課題にまで深く踏み込み、伴走者として解決策を提案する独自のスタイルで医療現場の絶大な信頼を得ている。

代表取締役社長の秋沢英海氏は、経営危機に瀕した会社を引き受け、幾多の困難を乗り越え現在の盤石な基盤を築いた。剣道で培われた精神力と、目の前の課題を着実に乗り越えてきた実直な姿勢。その半生と、事業の核心に迫る。

剣道が育んだ不動心とプロ意識に火をつけた医師の言葉

ーーどのような学生時代を送られていましたか。

秋沢英海:
小学校2年生から大学まで、剣道に明け暮れました。特に学生時代は厳しい環境でしたが、己の努力だけではどうにもならないことがあると骨身に染みて学んだ時間は、今思えば非常に有益でした。あの頃の苦しさを思えば、大概のことは乗り越えられます。この経験が今の私の礎となっています。

ーー大学卒業後はどのようなキャリアを歩みましたか。

秋沢英海:
西本産業株式会社(現:キヤノンメドテックサプライ株式会社)に入社して間もない頃、ある医師から、当時の私には到底不可能に思える計画を提示されたことがありました。私が思わず「それは無理です」と口にすると、その医師は烈火のごとくお怒りになりました。「我々は医療を提供するのが仕事だ。その舞台を創るのは君たちの役目だろう」と。その一喝にハッとさせられ、単なる業者ではなく、医療を支えるプロフェッショナルにならなければならないと痛感しました。

経営再建の道のりと“壁を壁と思わない”姿勢

ーーその後、どのタイミングで転機が訪れましたか。

秋沢英海:
お世話になっていた医師から、「経営が厳しい会社がある。助けてやってくれないか」と強く請われたのがすべての始まりです。それが、現在の株式会社ウイン・インターナショナルの前身となる株式会社タクミコンサーンでした。状況はあまりに深刻で、「君が来てなんとか助けてやってくれないか」と。頼みを断り切ることはできず、移籍を決意しました。

ーー移籍当時、会社はどのような状況だったのでしょうか。

秋沢英海:
私が入社してからほどなく、あるメーカーから取引停止を告げられ、お客様からも供給不安を理由に関係を断ち切られる。まさに八方塞がりからのスタートでした。

しかし、これまで築いてきた信用だけを頼りに、一件一件頭を下げて回りました。そして、特定のメーカーに縛られていた旧体制を改め、ライバル社の製品も扱えるよう交渉し、再建への道筋をつけたのです。

話を聞く側からすれば、波乱万丈に聞こえるかもしれません。しかし、渦中にいる人間というのは、それを巨大な壁だとは認識していないものです。目の前にある課題を、一つひとつ淡々と処理していく。その連続でしかありません。ただ次の一手を考える。それだけでしたから。

真の“伴走者”として顧客の経営にまで踏み込む付加価値の源泉

ーー貴社の強みはどこにあるとお考えですか。

秋沢英海:
私たちは医療機器を仕入れて販売する商社ですが、単に製品を売るのではなく、いかにしてビジネスに“付加価値”をつけるかを常に追求しています。たとえば病院の患者数を増やすためのお手伝いや、市場調査に基づく営業活動の提案など、お客様の経営の根幹まで踏み込んで伴走する。それこそが私たちの最大の強みです。

ーーお客様の経営に深く関わることでどのような変化がありましたか?

秋沢英海:
お客様が本当に抱えている困り事を解決しなければ、私たちの仕事は成り立ちません。言われたものをただ納品するだけの業者であれば、そこに存在価値はない。面倒で、誰もやりたがらない領域にこそ、私たちの価値が生まれるのです。

“真面目”こそが原動力、新たな物流拠点が拓くコンサルティングの未来

ーー貴社では、どのような方が活躍されていますか。また、社内の雰囲気はいかがでしょうか。

秋沢英海:
何よりも“真面目”であること。不真面目な人間が成功することはありませんから。それに加え、物事の本質を捉える地頭の良さも必要です。そのために、私は社員に古典を読むことを勧めています。特に四書五経の『大学』や『論語』は、人としての在り方を学ぶ上で極めて重要だと考えています。幸い、当社の社員は皆、真面目に、そして楽しみながら仕事に取り組んでくれています。

ーー今後の展望についてお聞かせください。

秋沢英海:
羽田に新設した物流拠点「WIN Heart Gate」で、ICタグを活用した在庫管理システムを本格導入しました。これにより物流業務を劇的に効率化し、営業担当者を煩雑な業務から解放することが狙いです。そうして捻出された時間を、本来注力すべきお客様への提案営業に集中できる環境を創り上げていきます。

ーー最後に、秋沢社長が目指す「組織の理想」についてお聞かせください。

秋沢英海:
私が先頭に立って細かく指示しなくても、社員一人ひとりが自律的に動き、様々な提案が生まれてくる。そんな組織が理想です。そのためには、お客様の困り事の、さらに一歩奥にある本質的な課題は何かを“深掘り”する力が必要不可欠です。その力を全員が身につけ、真の“パートナー”としてお客様に貢献できるプロフェッショナル集団になること。それが私の目指す会社の姿です。

編集後記

仕入先や顧客から見放される。そんな絶望的な状況を、秋沢社長は驚くほど穏やかに語った。それは、目の前の現実から目を背けず、できることを一つひとつ実直に積み重ねてきた確固たる自負の表れだろう。“大きな壁だと思ったことはない”。その言葉は、困難な時代を生きる私たちに、物事と向き合う本質的な姿勢を教えてくれる。真の“伴走者”を目指す同社の挑戦から、目が離せない。

秋沢英海/1960年高知県室戸市生まれ。学生時代は剣道に打ち込む(剣道四段)。京都産業大学を卒業後、西本産業株式会社(現 キヤノンメドテックサプライ株式会社)に入社。その後、株式会社タクミコンサーン(現 株式会社ウイン・インターナショナル)へ移籍し、1994年に同社代表取締役社長に就任。2013年にウイン・パートナーズ株式会社を設立し、代表取締役社長を務める。