
既存の流通構造が根強く残る農業の世界で、独自のビジネスモデルで全国に製造・流通の拠点を広げる株式会社KOMPEITO。同社は、地産地消を軸とし、オフィスに新鮮なサラダやフルーツを届ける“設置型健康社食®”「 OFFICE DE YASAI(オフィスで野菜)」を展開している。代表取締役CEOの渡邉瞬氏は、コンサルティング会社での経験を経て、業界の課題解決と自らの力を試すべく起業した。創業後に直面したコロナ禍や危機を乗り越え、今や世界も見据える。その不屈の挑戦の物語から、未来を切り拓くヒントを探る。
コンサルから農業分野へ キャリアの原点にある二つの動機
ーー新卒でコンサルティング会社を志望された理由は何ですか。
渡邉瞬:
もともとは公務員を目指していましたが、OB訪問を機に民間企業への就職に切り替えました。20代の限られた時間で、しっかり経験を積めて稼げる業界を探した結果、コンサルティング業界に興味を持ったのです。ご縁のあった日本能率協会コンサルティングに入社し、主にメーカーの生産性向上やサプライチェーン効率化といったコンサルティングに携わりました。この経験は現在の事業運営に役立っています。特に在籍中に農業向けのサービスを立案するチームに参加したことが、生産者の販路課題へと目を向ける大きな転機となりました。
ーー未経験の農業分野で起業されたきっかけを教えてください。
渡邉瞬:
きっかけは2つあります。一つは、コンサル時代に農業の販路に課題を感じ、「新しい流通をつくれば業界や地方の活性化につながる」と考えたことです。もう一つは、自分の力を試したいという強い思いがあったからです。ちょうど同じ思いの同期がいたことも後押しとなり、共に農業分野で新しいモデルを創る挑戦を始めました。
流通の壁に苦しんだ末の着想 「オフィスで野菜」誕生までの道のり
ーー農業での起業にあたり、直面した課題は何でしたか。
渡邉瞬:
最も苦労したのは流通コストと廃棄ロスの問題です。ECサイトでは配送費が、八百屋では在庫管理が大きな壁となりました。この経験から、小規模事業者が生鮮品を扱う難しさを痛感しました。そこで、流通コストを抑え、かつロスを発生させない仕組みが不可欠だと分析しました。
そんな中、知人との会話で得た「持ち帰る野菜より、その場で食べられるサラダの方が良い」という声に、課題解決の糸口を見いだしました。オフィスという「人が集まる場所」で、サラダのような加工品として提供することで、企業に費用の一部をご負担いただきながら廃棄ロスをなくせるのではないかと気付きました。これであれば、課題をすべてクリアできると確信し、「OFFICE DE YASAI(オフィスで野菜)」(以下、「オフィスで野菜」)の原型となるビジネスモデルを考案しました。
資金ショートとコロナ禍 幾多の危機を乗り越えた経営判断
ーー創業以来、会社の転機となった出来事を教えてください。
渡邉瞬:
事業モデル、資金、人の3つの観点があります。
事業モデルにおける最大の転機は、2013年秋に多くの方からの助言をヒントに「オフィスで野菜」の原型となる着想を得たことです。資金面では、創業初期の出資に加えて2016年以降の資金調達を機にマーケティングを強化しました。これにより顧客拡大の兆しが見えたことが大きな節目でした。そして、人の観点では、コロナ禍での地方への戦略転換が挙げられます。
当初、顧客の多くが首都圏だったため、リモートワークの普及で売上は激減しました。しかし、地方では飲食店の休業で食事場所に困る「ランチ難民」が発生していると聞きました。そこで、営業リソースを地方へ大きくシフトしたのです。この決断が功を奏し、V字回復を果たしました。出社率の高い地方のニーズを捉えたことで事業は再び成長軌道に乗りました。現在では顧客の約6割を地方企業が占めています。
全国累計2万拠点以上に選ばれる地産地消と独自の仕組み

ーー改めて、貴社サービスの最も大きな強みは何でしょうか。
渡邉瞬:
「そのエリアでつくられたものを、そのエリアで消費する」という地産地消を実現しています。そのために全国7拠点に加工・製造工場を保有しています。これにより、できたての商品を迅速にお届けできる体制が最大の強みです。そして、原材料の野菜も、できる限りその地域で採れたものを使うよう努めており、この点も他社との大きな差別化要因だと考えています。
私たちの事業の根幹には「地産地消」というコンセプトがあります。この理念にご賛同いただき、各パートナー企業との連携を築いてきました。生産者様との連携では、各地のカット工場様を パートナーとし、その地域に根ざした協力体制を構築しています。
金融機関様との提携も、地域の活性化に貢献したいという想いを共有する地方銀行様を中心に連携の輪を広げてきました。現在では銀行様にとどまらず、地域の商社様や電力会社様ともパートナーシップを組み、一体となって顧客開拓に取り組んでいます。
サービスを利用されたお客様からは、「周囲に飲食店がないので、冷蔵庫1台で社食のように使えて便利だ」という声を最も多くいただきます。従業員満足度の向上や、健康経営の一環としても評価されています。
その他、出社日に合わせてサラダを無料で提供するなど、社員の出社を促す福利厚生としてご活用いただくケースもあります。物価の高い離島での福利厚生や、台風時の備えとして役立っているという声も届いています。
世界を見据える組織の未来 共に働きたい人物像とは

ーー貴社が大切にする価値観と、活躍できる人物像について教えてください。
渡邉瞬:
大切にしているのは「素直さ、謙虚さ、そして情熱」です。ですから、他人からの意見を素直に受け入れ、実践できる人が活躍しやすい環境です。業界経験は問いません。現に、福利厚生サービスの営業経験がある社員はほとんどいません。価値観の共有を何よりも重視しています。
ーー社員の働きやすさを支える、特徴的な福利厚生や制度はありますか。
渡邉瞬:
子どもがいる方が働きやすい環境づくりに注力しています。たとえば、育児による時短勤務に移行後も最大半年間は給与水準を維持する制度があります。また、子どもの看護時に年間5日まで使える特別な休暇制度も設けました。これらの制度は性別に関係なく誰もが利用できます。
ーー10年、20年先を見据えた、今後の事業目標をお聞かせください。
渡邉瞬:
2つの目標があります。一つは、福利厚生事業で世界で戦える企業になることです。もう一つは、私たちの事業成長が地域活性化につながるエコシステムを構築することです。その第一歩として、アメリカでの事業展開も始めており、すでに手応えを感じています。
私は内的な動機だけでは続かないので、意識的に外的な圧力をつくり出します。「5年後に売上1000億円」のように目標を先に公言し、やらざるを得ない状況に自分を追い込んでいます。
ーー最後に、読者の方々へメッセージをお願いします。
渡邉瞬:
ぜひ高い目標を持って挑戦してほしいと思います。社会に出ると、本当にやりたいことを諦め、妥協している人が多いかもしれません。しかし、若ければ若いほど挑戦しやすいはずです。周りを
気にせず、本当にやりたいことに一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。もし「食」「健康」「地域活性化」というテーマに心が動いたなら、ぜひ一度話を聞きに来てください。
私自身、目標達成のために自分に合ったやり方を見つけることが大切だと考えています。たとえば、最終ゴールが遠いと感じる時は、達成可能な中間目標を細かく設定します。また、内的な動機だけでは続かないので、あえて高い目標を公言し、やらざるを得ない状況に自分を追い込むこともあります。
編集後記
コンサルタントの道から一転、自身の評価への反骨心をバネに農業という未知の領域へ飛び込んだ渡邉氏。その挑戦は、業界の根深い課題との格闘から始まった。試行錯誤の末にたどり着いた「オフィスで野菜」は、現場の声に耳を傾け、諦めずに活路を探し続けた執念の結晶である。幾多の危機すらも成長の糧に変え、その歩みは着実に前進してきた。高い目標を公言し自らを追い込むという哲学が、彼の挑戦を裏付けている。その姿は、現状に甘んじることなく未来を切り拓こうとする全ての人に、勇気と示唆を与えてくれるだろう。

渡邉瞬/1983年神奈川県生まれ。横浜市立大学を卒業後、株式会社日本能率協会コンサルティングに入社。5年半ほどサプライチェーンマネジメント系コンサルタントとして従事。2012年9月、株式会社KOMPEITOを創業。