
株式会社スクロールインターナショナルが提供する「Light chain」は、アパレル業界の業務を劇的に効率化するソリューションだ。デザイン案の自動生成から、AIモデルによるバーチャルフィッティング、生地や色のシミュレーションまで、企画からEC販売に至るまでの一連の業務をワンストップで対応している。EC販売の工程も想定した高機能なAIシステムで、業界のゲームチェンジを狙う同社の戦略について、取締役社長の音羽裕之氏に話をうかがった。
自社企画・自社生産の基盤となる海外拠点
ーー音羽社長のこれまでの経歴をお聞かせください。
音羽裕之:
前職の商社時代に海外生産のオペレーションを長く経験していたことを生かし、当社の直貿の拡大というミッションに、最大限の力を発揮できるものと考え入社しました。
当初は株式会社スクロールインターナショナルを設立して直貿全体を運営していましたが、仕組みが整うとともに、直貿の仕組みを株式会社スクロールに業務移管し、一旦休眠会社としました。今回AIシステムの開発・販売にあたって、OEMによる他社への直貿支援と共にアパレルソリューションカンパニーとして再稼働させました。
ーー貴社の事業の軸とされているのはどのようなビジネスでしょうか。
音羽裕之:
海外統括部では、バングラデシュやベトナムに事務所を設立し、アセアン生産背景を構築しましたが、これらの生産背景を他社の直貿支援に活用する事業が一つの柱です。たとえば、中国やベトナムでは生産背景を持っているけれど、バングラデシュには人脈がない、という企業向けに直貿支援を提案しています。
もう一つの柱が、「Light chain」です。当社は「アパレルソリューションカンパニー」として、生産のソリューションや業務効率化をお手伝いしています。
直感的な操作で企画・デザイン業務を効率化

ーー「Light chain」について詳しく教えてください。
音羽裕之:
現在当社では、約70%の商品を自社で企画しています。社内に企画担当者、デザイナー、パタンナーが20数名おりますが、非常に業務負担が大きくなっています。「Light chain」は、これらの業務を効率化するために開発したAIシステムです。
きっかけは、2年前当社のアパレルソリューション部の王の家族がライトチェーン社の幹部と友達であったことから、「中国で生成AIを開発している企業が日本での展開を希望している」という話を聞き、プレゼンを受けるとこれはアパレル業界の変革をもたらす優れたシステムであると直感し、早々に業務提携をしました。
ちょうどその頃からAIに注目しており、自分でも色々なシステムを触って操作感を試していました。「Light chain」に出会って、ここまで視覚的に操作できることに驚き、多少のリスクをとってもやるしかないと思いましたね。
ーーどのような機能があるのでしょうか。
音羽裕之:
たとえば、インスピレーションという機能では、生成したい服を選んで、デザインや生地を選び、参考画像をアップロードすると、AIがデザインを提案してくれます。
学習フォルダという機能では、流行しているブランドの画像を読み込ませると、デザイン要素を学習して、「このアイテムをこのブランドが展開するとどうなるか」という提案も可能です。
指定した生地からどのような商品ができるのかという提案もできます。生地屋さんが提案資料を作成するのに大変便利だと好評いただいています。
画像は写真だけでなく、イラストからも生成することができます。AIグラフィック機能というものです。トレンドの柄と自社で使っている画像をミックスして新しいグラフィックデザインを提案します。要素の読み込み方のバランスは調整が可能です。こうしたグラフィックデザインは外注すると5パターンで3万円ほどかかるのですが、「Light chain」を使えば30秒ほどで何パターンも生成できるので、大変重宝されています。
マルチアングルという機能では、1枚の元画像から想像して背面や側面からの画像を生成してくれます。着用しているモデルの顔を変更することもできます。アジア系からヨーロッパ系に変更するなど、人種の切り替えも可能です。こちらはECのお客様にとって非常に便利な機能だといえるでしょう。
今後は、小売企業のECサイトでお客様が自身の写真を使って商品をバーチャル試着できる機能も開発中です。静止画だけでなく、モデルが動く動画生成も間もなく実現する見込みで、消費者がよりリアルな購買体験を得られるよう支援していきます。
ーーLight chainの強みはどういった部分でしょうか。
音羽裕之:
生成AIを使用したシステムはほかにもありますが、プロンプトを入力する能力が必要です。デザイナーも企画担当者もITのプロではないので、複雑なプロンプトがなくても直感的に操作できるようにしました。スマートフォンが使えれば使いこなせるレベルです。
新規開拓と顧客のフォローアップに注力したい
ーー今後の展望をお聞かせください。
音羽裕之:
「Light chain」は業界内でも最先端のツールですが、もっと速く走って追いつかれないようにしたいです。直近では動画生成機能の実装も予定しており、EC小売企業様を中心に、さらなる活用が進むと確信しています。また、既存の機能をベースに新たなビジネスを展開することも考えています。「アパレルソリューションカンパニー」として、困ったことがあれば何でもご相談いただき、お客様のお役に立てる存在でありたいです。
ーーどのような人材を求めていますか。
音羽裕之:
従業員が10人規模のアパレル関係企業が全国に約6000社ありますから、まずはそちらにアプローチして新規開拓していきたいですね。また、導入いただいた企業には、活用していただくためのフォローもしていきたいと思っています。
お客様が求めている機能を読み解き、適切にレクチャーできる方を求めています。AIに興味があるデザイナーさんや、デザインセンスを持った営業の方などが活躍いただけるのではないかと思います。好奇心が旺盛で積極的に学び、提案してくれる方だと、なお歓迎です。
編集後記
「Light chain」の機能に驚かされた。日常的に目にするカタログやポスターの写真を簡単に生成することができ、その精度も、従来の手法で手間と時間をかけてつくられたものとまったく遜色ない。これだけのツールを開発できるのも、同社が圧倒的なスケールでビジネスを展開し、ノウハウを積み重ねてきたからこそだろう。同社のチャレンジによって、アパレル業界に革命が起きることを確信した。

音羽裕之/1956年生まれ、大阪府立大学卒業。商社にて30年のアパレル事業を経験した後、株式会社スクロールに入社。2018年より執行役員(現グループオフィサー)、事業会社スクロールインターナショナルの取締役社長に就任。中国企業LightChain社と業務提携し生成AIシステムを日本向けに展開。AI技術でアパレル業界の業務効率化に取り組む。