※本ページ内の情報は2025年10月時点のものです。

京都市を拠点とし、主に京町家を改装した宿泊施設の運営事業を展開する株式会社レアル。土地の仕入れから開発、運営までを一貫して手がけ、インバウンド需要を的確に捉え成長を遂げている。同社を率いるのは、代表取締役の反保宏士郎氏。音楽業界で起業し、家業の民事再生を経験。現在は、民事再生を支援するという他に類を見ない経歴を持つ。その経験から導かれた経営哲学と、同社の強さの秘密、未来への展望に迫る。

音楽業界からの転身と家業再建に向けた苦難の決断

ーー社長就任までの経歴を教えてください。

反保宏士郎:
父親から「お前の人生は自分で作れ」といわれて、その考えに共感していました。20代前半でインディーズのレコード会社を起業したため、当初は家業のホテルを継ぐ意思はありませんでした。しかし、音楽事業に行き詰まりを感じていたことや、父の健康問題が重なったことを機に転身します。家業を手伝う形でホテル業界へ入りました。

地方のホテルオーナーは結果としてホテルに関わる全ての業務を把握する必要があり、実際に行えなければなりません。そのため、調理場以外のすべてのホテル業務経験はこの時代に培うことができました。

しかし当時、家業のホテルはバブル崩壊後の地方経済の長い低迷の影響で深刻な経営難に陥っていました。それを受け、私が会社再建のために社長に就任し、民事再生を申し立てました。最終的に、札幌国際観光株式会社の支援を受けて、事業を再スタートさせました。

申立人から支援者へ 民事再生が育んだ唯一無二の強み

ーーその後、どのような道を歩まれたのでしょうか。

反保宏士郎:
再生時のスポンサー企業である札幌国際観光に入社しました。そこでホテル運営の現場仕事と並行してオーナー直轄の事業開発担当として、新規ホテルの開発や離島にあるホテルの再生やホテル以外の新規事業開発などを担当。大組織での事業の動かし方を学びました。

新規事業を模索していた頃、「京都のレアルが民事再生を申し立てた」という情報を得ました。不思議な縁で、以前から注目していた会社でした。そこで今度は私たちがスポンサー候補として手を挙げ、事業計画の策定から交渉までを中心となって担いました。そして会社から民事再生経験がある君が、社長をやるのが一番だと任されました。こうして、弊社の代表取締役に就任した次第です。民事再生を申し立てた側の人間が、同業種でスポンサー側に回るというのは珍しい事例だと思います。

しかし、この経験こそが私の最大の強みです。また、ホテル運営における現場仕事は、調理以外はすべて経験しました。ホテル開発やそれに関わるファイナンス組成、ホテルに関わる全てのオペレーションから、運営財務までをワンストップで構想し実務実装できる点。これが他にあまりない私のノウハウかなと思っています。

京都の景観規制を逆手に取った「分散型ホテル」というビジネスモデル

ーー貴社の事業内容と、その特徴についてお聞かせください。

反保宏士郎:
弊社の事業は、2つの事業が両輪となっています。ホテルの運営を行う「ホテルオペレーター」と、ホテルに特化した「不動産開発」です。その最大の特徴が「分散型ホテル」というビジネスモデルです。現在、約400室ある客室が72棟の建物に分かれています。

このモデルは、海外では散見されたものの、日本においてはかつてインバウンドの急増で宿泊施設が不足した京都を中心に生まれました。ホテル業界の常識にとらわれない他業者の発想です。運営効率だけを考えれば非常に手間がかかります。そのため、ホテル専門の事業者ではまず考えつかないアイデアだったと思います。しかし、厳しい景観規制などによって大規模なホテルの建設が難しい京都の土地柄に、この分散型という考え方が見事に合致したのです。

ーー「分散型ホテル」には、どのような強みや可能性が秘められているのでしょうか。

反保宏士郎:
最大の強みは、開発における圧倒的な機動力です。広い土地が少ない京都でも、弊社のモデルなら、30坪、40坪の土地で趣の異なる一棟貸しの町家を2棟つくることが可能です。また、100坪あれば小規模ホテルを開発し運営できます。この柔軟性によって特別な宿泊体験を提供しています。「RInn四季十楽」のような築100年の京町家ホテルや、祇園のラグジュアリーな一棟貸し(国際デザインアワード4冠受賞)など、お客様がその土地の歴史や文化に溶け込めるような体験です。

そして、このビジネスモデルの本当の価値は宿泊施設の運営に留まりません。弊社の運営ホテルのお客様がお得に利用できるカフェやスパ、土産物店などを京都の街の中に展開する構想に着手しています。そうなって初めて、このモデルの真価が発揮されると考えています。将来的には、ホテルのお客様だけでなく地域の方々にも愛される場所を、京都の町中に広げていきたいです。

ーー不動産開発とホテル運営を両輪で手がける強みは何でしょうか。

反保宏士郎:
自分たちで物件情報を仕入れて開発し、自ら運営まで行うことで、開発したホテルを投資家であるオーナー様へ売却して開発利益を得ます。さらに、その後の運営を受託して運営収益を確保するのです。この流れをすべて自社で完結できるのが弊社の強みです。

挑戦する仲間と分かち合う会社の未来と個人の成長

ーー採用において、どのような人材を求めていますか。

反保宏士郎:
お客様の85%が海外の方なので、英語でのコミュニケーション能力が重要です。社内には英語研修制度があります。それだけでなく、海外スタッフ向けには日本語能力に応じた手当を支給するなど、多様な人材が活躍できる環境づくりに注力しています。

ーー組織づくりにおいて、どのようなことを大切にされていますか。

反保宏士郎:
「成長の果実は分配する」という、極めてシンプルなルールを大切にしています。サービス業では美辞麗句を並べるよりも、収益をスタッフに還元することが最も重要だと考えています。3年から5年後には、日本のサービス業の中で、トップクラスの給与水準を実現するのが目標です。

また、会社とスタッフは常に対等な関係であるべきだと考えています。その人が人生においてどうありたいのかという視点から対話を始め、お互いの方向性をすり合わせていくプロセスを大切にしています。

私のマネジメントは、ある意味で「えこひいき」かもしれません。挑戦する姿勢を見せる人、会社に残ってくれた人には、徹底的に力を注ぎます。そうして成長した彼らが、またその下のスタッフや次の世代を育てていく。この繰り返しで組織は強くなると信じています。弊社で働くことがベストな選択だったと思ってもらえるようにしたいです。

800室体制の確立と、その先に見据える新たな事業拡大の展望

ーー今後の事業目標についてお聞かせください。

反保宏士郎:
まずは事業の基盤である京都中心エリアで、客室数を現在の倍の800室まで増やすことが目標です。これは3年後を目途としています。私が社長に就任したとき、組織は30名でした。今や約200名体制にまで拡大しています。しかし、この計画を実現するためには少なくとも100名程度の増員が不可欠であり、開発計画に合わせて積極的な採用を続けます。

そして、京都で800室体制の確立後には、京都以外での展開を視野に入れています。たとえば、金沢や高山のような歴史ある城下町で、弊社が京都で培った「分散型ホテル」を展開することも検討しています。京都で現在開発中の小規模ラグジュアリーホテルを日本の各地で展開するのも面白いかもしれません。

また、弊社のグループ会社は北海道で「朝食日本一」と評価されるホテルを運営しています。そのエリアの価格相場に影響を与えるリーダーとして、圧倒的な実績を誇ります。その成功モデルは、宿泊特化でありながら広大なスパと日本一の朝食レストランを持つ大型ホテルです。このモデルを、瀬戸内や福岡といった他の観光地で展開していく構想もあります。京都での経験とグループ全体の強みを掛け合わせ、多様な形で事業を拡大していきたいと考えています。

編集後記

音楽業界での起業から二度の民事再生まで反保氏が歩んだ道のりは波乱万丈だ。しかし、その壮絶な経験こそが「現場から財務まですべてを理解する」という強みと経営哲学を育んだのだろう。「成長の果実は分配する」という言葉には、事業の全てを知る経営者ならではの重みと覚悟が感じられる。伝統の街・京都と共に未来を創造する同社の挑戦に、大きな期待が寄せられる。

反保宏士郎/1979年、北海道釧路市生まれ。家業である釧路キャッスルホテルに入社するも、すでに実質破綻しており、民事再生手続きに則り事業再生を主導。再生完了後、株式会社札幌国際観光に入社し、主にホテル事業をはじめとする事業開発に従事。2021年、民事再生案件だった株式会社レアルの再生を支援する形で、代表取締役に就任。コロナ禍からのスタートとなったものの、3年で黒字化を果たす。