※本ページ内の情報は2025年10月時点のものです。

デンタルケア製品メーカーのデンタルプロ株式会社は、2027年に創業100年を迎える。主力商品である歯間ブラシは、25年以上にわたり国内トップシェアを誇る。ニッチながらも生活に不可欠な市場で、2024年に新社長に就任した佐野健二氏は「商品開発の余地はまだ多く残されている」と熱意を語る。10年以上の歳月をかけて組織改革を率いてきた同氏が描くビジョンとは何か、その核心に迫る。

人事部で経営層と触れ合いビジネスを学んだサラリーマン時代

ーー社長ご就任までの経歴についてお聞かせください。

佐野健二:
大学卒業後、松下電工株式会社(現・パナソニック株式会社)に新卒で入社しました。本社の人事部に配属となり、給与関連の業務から人事考課、組織運営など、人材にかかわる幅広い業務を経験しました。若いうちから経営層と直接やり取りする機会に恵まれ、大企業のダイナミズムの中で経営視点を養うことができたのは、大きな財産となっています。

その後、結婚して妻の姓である佐野を名乗ることになりましたが、当初は義父が経営するデンタルプロを継ぐ意思はありませんでした。しかし、30歳頃に義父から会社の将来について相談を受け、初めて会社の内情を知ったのです。

長年、創業家で経営を担ってきた会社です。ここで私が引き受けなければ、従業員やその家族の生活がどうなるか分からない。そう考えた時、自分の人生を懸けてこの会社を盛り立てていこうと、覚悟が決まりました。そして2013年に常務取締役として入社し、2024年7月に社長に就任いたしました。

ーー貴社の事業内容について教えてください。

佐野健二:
歯間ブラシと歯ブラシを中心に、オーラルケア製品の製造販売を手がけています。特に歯間ブラシには注力しており、約25年前から「サイズ交換サービス」を続けてまいりました。歯間ブラシは、お一人おひとり最適なサイズが異なります。もしご購入いただいたサイズが合わなくても、適切なサイズのものに無償で交換させていただくサービスです。

これは、歯間ブラシをずっと使い続けていただくための施策です。弊社が掲げる「信條」の第一に、「仕事を通して世の中のお役に立つことを願いとする」という一節があります。皆さまに健康なご自分の歯で一生涯食事を楽しんでいただきたい、そのために歯間ブラシ市場のパイオニアとして貢献したいという、私たちの思いのあらわれです。

10年をかけた組織改革 まず着手したのは「役割の明確化」

ーー常務としてご入社後、どのような取り組みをされてきましたか。

佐野健二:
入社してまず驚いたのは、組織図が非常に複雑で、指揮命令系統が曖昧になっていたことです。そこで最初の5年間で、まず全社員の役割と責任を明確化し、それに応じた公正な給与体系を構築することから始めました。その後、営業体制の再整備にも着手しました。

続く5年で取り組んだのが、製造部門の改革です。仕入れ、製造、出荷というサプライチェーン全体を精査したところ、たとえば同じ製品を国内工場とタイ工場で別々に生産し、結果的に在庫が倍になってしまうといった非効率な点が数多く見つかりました。これらも一つひとつ発注プロセスから見直し、最適化を進めました。

そして現在、次のフェーズとして、私自身が責任者となり、商品開発部門の強化に注力しています。経営トップが本気で開発に取り組む姿勢を見せることで、その熱量が社員に伝播し、組織全体の創造性を高めることができると考えています。当初は私のアドバイスを待つばかりでしたが、「私に提案を持ってきてほしい」と粘り強く伝え続けた結果、ようやく主体的な開発風土が生まれつつあります。

ーーそんな改革の中で、最も大切にされている信念や価値観は何ですか?

佐野健二:
「前工程の仕事を引き継ぎ、後工程の人へ不備なく渡す」という意識を徹底するよう、常に伝えています。自分の担当範囲だけをこなすのではなく、組織全体の流れを意識することが重要です。

たとえば「仕入れ」担当者は、次の「製造」工程を考えて材料を発注する。「製造」担当者は、その先の「出荷」や「販売」を見据えて品質と納期を守る。この連鎖を全社員が実践することで、「筋肉質な組織」、すなわち、一人ひとりが連携し無駄なく効率的に機能する組織が実現すると考えています。

予防歯科時代の到来を見据え 顧客に寄り添い続ける戦略

ーー今後の課題や展望についてもお聞かせください。

佐野健二:
これから日本の少子高齢化が進むと、国の医療費負担は増大し、医療保険の適用範囲は縮小していくでしょう。特に歯科分野は、その影響を受けやすいと考えられます。そうなれば、虫歯や歯周病にならないための「予防」の重要性が、今以上に高まるはずです。ライフステージに応じたオーラルケアを考えると、まだまだ私たちが提供できる製品やサービスは多くあると感じています。

ただ、歯間ブラシの効果は、数十年という長い時間を経て実感されるものです。「周りは歯のトラブルで悩んでいるが、自分は健康だ。歯間ブラシのおかげかな?」とお客様が気づくまで、私たちは製品を通じてお客様の人生に寄り添い続けなければなりません。

そのためには、コンビニ、ドラッグストア、スーパーなど、生活のあらゆる場面で弊社製品が手に入る環境づくりが不可欠です。これが達成できれば、売上は現在の1.5倍まで成長可能だと見ています。また、SNSの活用や、口腔戦士「デンタマン」を起用したユニークな啓発活動にも、より一層力を入れていきます。

ーーそうした未来をつくっていくために、貴社ではどのような人材を求めていらっしゃいますか。

佐野健二:
弊社では、製品の企画から製造、販売まで、一人の社員が幅広く携わることができます。「自分の手で、世の中にもっと良いものを届けたい」という情熱のある方にとっては、大きな達成感を得られる環境だと思います。

また、前述した弊社の「信條」に、心から共感してくださる方とぜひ一緒に働きたいですね。「仕事を通して世の中のお役に立つ事を願いとする」という一節に代表されるように、お客様はもちろん、取引先様や社員、その家族まで、関わるすべての人を大切にする。それができる方であれば、会社としても全力でサポートします。ご応募を心よりお待ちしています。

編集後記

長年、創業家による経営が続いてきたデンタルプロ株式会社。創業家の一員として、外部での知見を携え経営を継承した佐野社長は、松下電工株式会社(現・パナソニック株式会社)で培った大局的な視点を武器に、10年以上にわたり大胆な改革を断行してきた。「一人ひとりが次の工程を想う」。その教えが浸透し始めた組織は、100周年の節目を前に、しなやかで強靭な「筋肉質な組織」へと変貌を遂げようとしている。その進化から、今後も目が離せない。

佐野健二/1983年大阪府生まれ、関西学院大学経済学部卒業。2007年、新卒で松下電工株式会社(現・パナソニック株式会社)に入社し、約7年間勤務ののち2013年にデンタルプロ株式会社に常務取締役として入社。2024年7月に同社代表取締役社長に就任。本事業以外にも、「MBS子ども音楽コンクール」「U15ゴルフ大会」への支援や福祉施設・学校への歯ブラシ寄贈など、子どもたちの活動を応援している。