
メッセージ配信やWebフォーム作成のためのプラットフォーム「WEBCAS(ウェブキャス)」シリーズを提供し、企業と顧客のよりよい関係づくりを支援する株式会社WOW WORLD。2006年度からの3年連続赤字という危機を乗り越え、同社をクラウドサービス主体の安定企業へと成長させたのが、代表取締役社長の美濃和男氏だ。今回、同氏を取材し、これまでの歩みや経営哲学、そして今後の展望などを聞いた。
「縁」をきっかけに銀行員からITベンチャー経営者へ
ーー社長就任までの経緯をお聞かせください。
美濃和男:
新卒で第一勧業銀行(現・みずほ銀行)に入社し、営業を担当しました。お客様には本当に可愛がっていただき、育ててもらったと感じています。その後、NTTデータに出向し、経験を積んだ後に退職しました。
弊社に転職したきっかけは、当時の株式会社エイジア(現・株式会社WOW WORLD)の創業者である江藤さんとの出会いです。同社はマザーズへの上場がちょうど決まり、役員候補を探していました。
そこで「これもご縁だ」と思い名乗りを上げ、2005年に取締役経営企画室長として入社。その後、江藤さんから「社長をやってみないか」と打診を受け、2009年に代表に就任したという経緯です。
ーー経営者としてどのような考え方を大切にしていますか。
美濃和男:
特に意識しているのが、倫理観を外れることはしないことと、どんなピンチでも逃げないことです。たとえば、これまでリーマンショックによるIT業界への逆風、社員の大量離職、敵対的買収の危機など、さまざまな困難に直面しました。しかし、そこで私が「もう無理だ」と思ったら、会社はそこで終わってしまいます。そういった危機的な状況でも逃げずに真摯に向き合ってきたからこそ、現在の弊社があるのだと思っています。
高い技術力と人手によるサービスで唯一無二の価値を提供する

ーー代表就任後に実施した改革について教えてください。
美濃和男:
2006年当時、3年連続赤字という厳しい状況でした。その中で、売上の4割を占め、なおかつ黒字だった受託開発の事業を思い切ってやめ、クラウド事業に切り替えたことが改革のひとつだと考えています。また、以前は数百万円〜数千万円の大型ライセンスを売ることに注力していましたが、毎月数万円のクラウドサービス契約を獲得する方向へと大きく転換しました。
勇気のいる決断でしたが、世の中がクラウドにシフトする流れは予想していました。現在はクラウドサービスのビジネスが主体の会社として安定経営を実現できており、結果として良い決断だったと思っています。
ーー事業内容について教えてください。
美濃和男:
弊社は、メールやSMS、LINE、Webフォーム作成など、企業と顧客の“双方向のコミュニケーション”を、多様な手段で実現できるサービス「WEBCAS」をメインに提供しています。「WEBCAS」の使われ方は多岐にわたりますが、たとえば、EC企業が会員向けにセール情報をメールやLINEで一斉配信する際や、保険会社が契約者一人ひとりの状況に合わせて満期のお知らせメールを自動配信する際などに利用されています。また、化粧品メーカーが顧客の声を集めるためのWebアンケートを実施する際に利用いただくようなケースもあります。これらの弊社サービスはすべて、自社で企画・開発・運用しているのが特徴と言えます。
ーー貴社の強みはどういった点にありますか。
美濃和男:
30年にわたり積み重ねてきた技術力に裏付けされた基本性能と、「人の手によるサービス」での差別化が強みです。この業界には新規参入者も多く、価格競争が激しいのが実情です。ただ、そこでむやみに価格を下げるなど、僕たちは安さで勝負するつもりはありません。それよりも、品質と人による丁寧な対応で勝負したいと思っています。
たとえば、弊社のカスタマーサポートには手厚い人手を配置しています。電話やメールで「人が温かく親切に対応し、問題を迅速に解決する」という点がお客様から評価されています。こうした血の通ったサービスは、新規参入者には実現できない価値だと自負しています。
弊社は「人と技術の力で、驚きがあふれるセカイを。」をビジョンとして掲げています。この実現に向けて、今後も技術と人の両輪で事業を展開していく所存です。
自社のサービスが「お客様にとって欠かせない存在」になることを目指して
ーー貴社の社風や、今後求める人材について聞かせてください。
美濃和男:
弊社は、ワークライフバランスをとても大切にしている会社です。1人あたりの残業時間は月6時間程度で、業界内でも非常に少ないほうだと思います。また、在宅で勤務できたり、1時間単位で有給休暇が取得できたりするなど、多様な働き方も認めています。残業時間がほとんどなく、メリハリのついた働き方をしつつも、毎年しっかりと増収を続けている点が弊社の強みです。
人材に関しては、「挨拶があふれる社風の会社にしたい」という思いがあり、挨拶がきちんとできる人材を第一に求めています。そのほかに求めているのが、自律した人材です。「自律」とは、誰かに指示されなくても、自分で考えて行動できることを指します。誰も見ていなくても、責任を持って仕事ができる方と共に働きたいですね。
ーー今後の展望をお願いします。
美濃和男:
弊社のサービスが「企業とお客様をつなぐ手段として、デファクトスタンダード(※)」になることを目指しています。企業が顧客とコミュニケーションを取ろうと思ったとき、弊社の「WEBCAS」を使えば、どんな手段でもシームレスにつながることができる。そんな状態が理想です。技術と人の力を融合させながら、弊社のサービスが当たり前に使われ、お客様にとって欠かせない存在になることをこれからも追求していきます。
(※)デファクトスタンダード:特定の業界や分野において、広く使われている標準のこと
編集後記
3年連続赤字、社員の大量離職、買収の危機など、数々のピンチを乗り越えてきた美濃氏。ピンチから逃げずに向き合い、信念を貫いたからこそ、15年以上の連続増収という現在の安定基盤があるのだろう。「人と技術の力で、驚きがあふれるセカイを。」というビジョンの実現を目指す同社が、どのような一手を打つのか。今後の取り組みにも引き続き注目したい。

美濃和男/1965年、京都府出身。1989年明治大学を卒業後、株式会社第一勧業銀行(現・株式会社みずほ銀行)に入行。NTTデータへの出向を経て、2005年株式会社エイジア(現・株式会社WOW WORLD)取締役経営企画室長として入社。2009年代表取締役社長に就任。