※本ページ内の情報は2025年10月時点のものです。

米粉を使った冷凍スイーツで独自のポジションを築いているのがモチクリームジャパン株式会社だ。神明グループの一員として米粉事業の中核を担う同社は、大手では難しい小ロット生産や多彩なフレーバー展開で差別化を図っている。長年にわたり営業と管理の両面で経験を積み、2025年6月に代表取締役社長に就任した筒井愼治氏。その事業戦略と挑戦に迫った。

営業と管理の両経験から築いた組織経営の土台

ーーこれまでのご経歴について教えてください。

筒井愼治:
大学卒業後に包装資材と米の卸売事業を展開する日本マタイ株式会社に入社しました。2003年の事業分割により株式会社神明マタイが設立され、営業部長として参画しました。

その後、2009年に株式会社神明へ吸収合併され、神戸本社に異動し、仕入れ業務などを担当しました。カッパ寿司への出向取締役を経験し、営業部門で執行役員、取締役を歴任した後、管理本部でも取締役を務めています。2025年6月にモチクリームジャパン株式会社の代表取締役社長に就任し、現在に至ります。

ーー社長に就任されてから、どのような点を意識されていますか。

筒井愼治:
就任当初は少人数の組織ならではの即応性を感じたものの、それだけでは持続的な成長につながらないと考えました。そこで、営業や管理、開発といった役割を明確に分け、組織としての体制を整えることを重視しています。

その点で、営業と管理という両部門を経験したことは、経営面で役立っています。営業では、人との信頼関係を築く大切さを学びました。商品の良さを知ってもらう前に自分自身の信頼を得ることが不可欠です。

管理部門では、人事・総務・経理といった領域に向き合い、会社規定や法令を学ぶ必要があります。間接部門として組織を支えると同時に、企業統治(ガバナンス)を求められる役割となります。食品業界は消費者ニーズや原材料の価格、安全規制、流通面などが常に変化します。その中で安定供給を維持しつつ、新しい価値を生み出す仕組みづくりが重要です。

このように体制を整えつつ、組織や人材の強みを見極めて伸ばすことを大切にしています。途中から神明グループに加わった立場として、企業文化や風土を尊重しながら、良さを引き出す姿勢で経営に臨んでいます。

冷凍スイーツ市場の追い風に乗る事業の独自性と強み

ーー貴社の主要事業について教えてください。

筒井愼治:
弊社では、「MOCHICREAM」ブランドを軸としたお菓子の製造・販売とライセンス事業を展開しています。「MOCHICREAM」は、もちにクリームやフルーツを包んだ大福タイプの冷凍スイーツです。もち米の米粉からつくることで、冷凍でも柔らかい食感を保つことができる商品となります。販売チャネルは、コンビニエンスストア、スーパーマーケット、通販など多岐にわたります。

ライセンス事業は、このブランドを活用した商品を他社が製造・販売できるように権利を供与し、使用料(ロイヤリティ)収入を得る仕組みです。

ーー事業の強みについて、どうお考えですか。

筒井愼治:
弊社の強みは、少数精鋭体制による機動力です。指示系統がシンプルなのでスピーディーな対応が可能です。また、専用工場への委託生産により固定費を抑え、大手では難しい小ロット生産や多彩なフレーバー展開を実現しました。親会社である神明グループと連携し、米の調達から商品開発、流通までを担える点も強みといえます。

市場規模が追い風となっている点も挙げられます。冷凍食品市場は1兆3000億円を超え、スイーツ市場も2兆5000億円に拡大しました。和菓子分野は5500億円の市場規模です。こうした状況下で、「MOCHICREAM」は幅広い世代の方に親しまれています。

米の新たな価値創造 使命として挑む海外と健康分野

ーー現在注力している点を教えてください。

筒井愼治:
「MOCHICREAM」ブランドの価値向上のため、テイクアウトなどの中食や外食領域に注力しています。ファミリーレストランや回転寿司店ではデザート需要がありますが、この分野での弊社の展開はまだ十分とはいえません。グループ内ではすでに採用されていますが、グループ外企業への提案も積極的に進め、売上10億円の成長を目指します。

新商品開発にも力を入れ、季節や行事に合わせた期間限定商品のシリーズ化などで差別化を図っています。

ーー採用に関して、どのような人材を求めていますか。

筒井愼治:
スイーツの世界は、アイデア次第で無限の可能性がある分野です。「大福はこうあるべきだ」のような固定的な考えにとらわれず、自由な発想を持つ人に来ていただきたいと考えています。新しい挑戦を恐れない姿勢を持ってほしいと思います。そうした柔軟な感性こそが、次の時代を切り拓く力になると信じています。

ーー今後の方向性や展望をお聞かせください。

筒井愼治:
今後は「MOCHICREAM」ブランドを積極的に海外市場へ広げたいと考えています。すでにアジアをはじめ、アメリカ、ヨーロッパ、中東などに輸出実績がありますが、まだ成長の余地が大きいのが現状です。特にグルテンフリー需要の高まりから、米粉商品への関心は増しています。日本の食文化としてのもちを世界に紹介し、多様な食生活に溶け込む形を模索していきたいと考えています。同時に、空港やサービスエリアでの販売を強化し、訪日客を対象としたインバウンド需要の取り込みも進める方針です。

また、健康分野との連携、米粉の認知拡大も今後の重要なテーマです。弊社は、単に菓子を提供するのではなく、米の消費量が減少する中で新しい価値を創出することを使命としています。米粉スイーツの需要を広げることは、米の可能性を切り拓く挑戦です。高機能玄米協会に理事として参画し、お菓子の楽しさと健康志向を両立させる商品開発を目指しています。

編集後記

筒井氏の言葉からは、お菓子を通じて米の可能性を広げ、日本の食文化を未来へつなごうとする強い意志が感じられた。少数精鋭体制を強みに変え、柔軟性とスピード感を武器とする戦略。これは、成長市場での差別化戦略として注目される。健康志向や海外市場といったキーワードを交え、伝統と革新を融合させた取り組みは、食品業界の新たな指針となるだろう。

筒井愼治/1985年に東京国際大学を卒業後、日本マタイ株式会社に入社。2003年事業分割により神明マタイ株式会社を設立。営業部長に就任。2009年株式会社神明への吸収合併後、管理部長、カッパ寿司出向取締役、執行役員営業部長、取締役営業・管理本部長を歴任。2025年6月にモチクリームジャパン株式会社の代表取締役社長に就任。社外では、高機能玄米協会の理事も務める。