※本ページ内の情報は2025年11月時点のものです。

静岡県浜松市に拠点を置く、スリーカウント株式会社。同社はWebマーケティングの専門企業として、企業の集客と求人の課題解決を支援している。最大の強みは、徹底した投資によって育まれた「人」と、それによって形成される強固な「組織」である。代表取締役の鈴木悠資氏は、大学在学中に「地元・浜松を盛り上げたい」という一心で起業した。事業は順調に成長を続けたが、その裏で社員が次々と離職する組織崩壊という最大の危機を経験することになる。その壮絶な経験から自己変革を遂げ、独自の経営哲学を確立するに至った同氏に、挫折からの再起、人に投資し続ける理由などについて話を聞いた。

浜松を盛り上げたい一心で歩んだ起業家への第一歩

ーー起業された経緯をお聞かせいただけますか。

鈴木悠資:
大学時代はヒップホップの音楽活動に熱中し、進学先の浜松での生活を楽しんでいました。しかし、周りの先輩や大人の方々が決まって「昔の浜松はもっと面白かった」と話すことに違和感を感じ、「昔が面白いなら、自分たちの力で今を面白くしたらいい」「浜松を盛り上げたい」という思いが強くなりました。

ちょうどその頃、所属していた静岡大学情報学部の授業でWebサービスの存在を知りました。そして、浜松の魅力が多くの人に伝わっていないだけだと感じ、学生が食や音楽、ファッションなど様々な情報を発信するサイトを作ることを決意。起業に至りました。

過去最高の売上高と組織崩壊 苦悩の末に見えた光

ーー創業以来、最も大きな壁となった出来事について教えてください。

鈴木悠資:
創業当初はお金がなくて消費者金融から借金をしたこともありました。しかし、最も大きな壁は2017年頃に経験した組織崩壊です。事業でいえば静岡県内でトップクラスの成績を収めるほど順調でしたが、その裏側で社員が次々と辞めていき、気づけば半年で社員が半減していました。

売上高は伸びる一方で、人は離れていきました。解決しようにも、周りの経営者から「鈴木君は勤めた経験がないから社員の気持ちはわからない」と言われる始末です。自分は会社を経営すべきではないのかと、深く悩んでいました。当時は社員の平均残業時間も80時間近くあり、私自身も毎日朝3時くらいまで仕事をしていたのですが、「また明日誰かが辞めるのでは」という心配で眠れず、朝起きると冷や汗でベッドが濡れている状態が1年近く続きました。

ーーその危機的な状況を、どのようにして乗り越えられたのでしょうか。

鈴木悠資:
後輩に誘われた経営の勉強会が転機となりました。そこで「売上高が上がっているが人が辞めていく状態自体も1つの結果であり、結果の前にはやった、やらない、正しい、正しくないも含めて必ず行動がある」ということを理解でき、大変大きな気づきを得ました。

今までは私の生きてきた環境やWebの業界とか自分の周りに原因を置いていたのですが、人が次々と辞めていくこの会社は、他の誰でもない、自分自身がつくったのだと改めて気づきました。この気づきから、まずリーダー達に本音の意見を求めました。ときには土下座に近い形で謝罪しながら耳を傾け、彼らから出た「お金と人が理由で会社を辞めることをなくしたい」という言葉を胸に、さまざまなことに取り組みました。

そして、人事評価制度自体を廃止し、給与もメンバーが「自分が安心して働けると思う金額」まで引き上げました。当時は、経常利益が2000万円程度だったのですが、増加額だけでほぼなくなるほどでした。

残業も20時間以内にしようと、初年度から月50時間以上削減をするために一部のお客様との取引をお断りすることもしました。これはこれで不安もかなり大きかったのですが間違いなく会社はいい方向に進みました。

役職を超えた関係性 社員と向き合う一個人の覚悟

ーー今、経営者として最も大切にしていることは何ですか。

鈴木悠資:
大切にしていることは二つあります。一つは、「社長自身が変わり続けなければ、スタッフも変わらない」ということ。私が会社のすべてのパワーの源になるという意識を持っています。もう一つは、「社長として」ではなく、鈴木悠資という「一個人」として存在することです。役職は責任の大きさを示すものであり、人間的な上下関係をつくるものではありません。一人の人間として社員と接することを心がけています。

ーー一個人として社員の方々と接する上で、特に意識していることはありますか。

鈴木悠資:
相手が安心して何でも話せるような態度を保つこと、そして、相手の意見をまず受け取ることです。私がどのような態度でいるかによって、相手が本音を話してくれるかどうかが決まります。たとえそれが私への批判であったとしても、まずは否定しません。「受け止める」のではなく、「受け取る」ようにしています。相手の言葉を一旦自分の中にすべて入れて、その背景まで含めてきちんと理解しようと努めます。自分が受け取れた分しか、相手も受け取ってくれないと考えているからです。

年間数千万円の投資 徹底した教育が培う組織力

ーー貴社の強みについて、どうお考えですか。

鈴木悠資:
組織、つまり「人」です。これは断言できます。一度、組織が崩壊した経験があるからこそ、弊社は人に徹底的に投資をしています。Web広告の世界も、最終的に価値をつくるのはAIではなく人間です。だからこそ、弊社は人の成長に全力を注ぎますし、その結果として私たちは「強い組織」であると断言できます。

また「人」という強みを支えるために、採用活動にも注力しています。「自分のためだけでなく、人のために頑張れる人」しか仲間に迎えていません。この業界には「個人の成果が全て」という風潮もありますが、弊社では利己的な姿勢の方は採用しておりません。1名採用するにも数十名の応募は珍しくなく、年によっては100名の応募でようやく1名採用できたということもあります。私たちの採用力も問われます。

そして、入社後は徹底した教育で成長を支援します。たとえば、私自身が1000時間以上を費やして作成した1本30分×300本以上の教育用動画教材があり、独自の教育プログラムを整備しています。技術だけではなく人を育てるために社員数25名ほどの規模ですが、年間の教育コストは1000万円を優に超えます。それだけ「人」に全力を注いでいる会社です。

頑張る人が報われる社会へ ビジョン実現に向けた三戦略

ーー貴社が目指す、最終的なゴールについてお聞かせください。

鈴木悠資:
弊社のビジョンは、「お客様の集客や求人の問題解決(ミッション)を通じて頑張っている人が報われる“社会”を実現する」です。世の中には素晴らしい製品やサービスを作っているのに、集客や採用で発展し損ねている会社がたくさんあります。私たちはWebマーケティングの力でそうした企業を支援します。そして、よいサービスが世に行き渡る手伝いをすることで、価値ある社会づくりに貢献したいと考えています。

社会づくりをしている会社の社内が報われていないのは論外だと考えています。そのためまず自社を「頑張っている人が報われる会社」にすることが先決です。これは2028年3月までに完了予定です。

その上で、三つの戦略に注力します。一つ目はまず第一に「人材育成」。質の高いサービスを提供し続けるため、教育プログラムの再構築は最重要課題と捉えています。

二つ目は「全国展開」。地元静岡はもちろんのこと、全国の「いい会社」の課題を解決するため、事業を拡大します。すでにここ数年全国からの相談をホームページ経由で頂いており、半数程度が全国の中小企業様の相談となりました。これを今後拡張していきます。

そして三つ目が「採用強化」です。静岡は今の手法でも大きな問題は抱えていないのですが、東京支店の採用にはまだまだ難しさを抱えています。特にスキルよりも弊社のビジョンに共感し、価値を生み出したいという意欲のある方を積極的に採用していく方針です。

ーーどのような人材と共に、未来を築いていきたいとお考えですか。

鈴木悠資:
弊社はWebマーケティングの技術を本当に身に着けていくために育成ルートを一本化しています。たとえば複数業種を同時に募集している企業様もありますが、おそらく個人の能力に依存したり、育成がバラバラになるはずです。

私たちは、個人の能力に依存することはありません。Webマーケティングのプロフェッショナルになることに経歴やキャリアも関係ありません。それよりも重視するのは、私たちがつくりたい社会への共感はもちろん、スリーカウントを理解し、この会社で一緒に未来を創っていきたいかどうかです。

もちろん、一方的に私の考えを押し付けるつもりはありません。応募される方の未来に対するお考えを私が深く理解した上で、共に未来を創造できるかを判断したいと考えています。そうした方の人生を後悔させないよう、私が保証します。

編集後記

売上高は好調、しかし組織は崩壊寸前。その壮絶な原体験こそが、鈴木氏の経営の根幹を成している。一度手にしたプライドを捨て、自らの過ちと向き合ったからこそ生まれた「人」への深い愛情と、「組織」づくりへの情熱。同氏の言葉の端々から、社員一人ひとりの人生を背負う覚悟が伝わってきた。「頑張っている人が報われる“社会”を実現する」というビジョンは、決して綺麗事ではない。自身の痛みから生まれた、切実な願いなのだ。同社の挑戦は、これからも多くの人々に勇気と希望を与え続けるだろう。

鈴木悠資/1985年、静岡県掛川市生まれ。静岡大学情報学部卒業。2007年大学3年の時に浜松の街をインターネットの力で盛り上げようと、スリーカウント株式会社を起業。情報サイト運営からスタートし、WEB制作、インターネット広告の運用、求人広告の運用を経て、私たちの価値は「サイト制作や広告を運用することではなく、お客様が抱えられている集客や求人の問題を解決し、お客様の事業を発展させること」と確信し現在に至る。静岡県を中心に全国500社以上の企業のWEBマーケティングのサポートを展開中。