
静岡県浜松市から、バックオフィス領域の変革に挑む企業がある。スタートアップを支援する、株式会社Wewillだ。同社が掲げるのは、顧客企業の「経済合理性」と、働く人のキャリアを豊かにする「労働合理性」の両立という独自の思想だ。インターネットが産業構造を根底から変えてきた現代、その思想でどのような未来を創造するのか。代表取締役の杉浦直樹氏に話を聞いた。
インターネットが産業を変える 構造変化への絶対的な確信
ーーはじめに、杉浦社長のキャリアの原点についてお聞かせください。
杉浦直樹:
大学ではジャーナリズムを専攻し、論文では「コンピューターを介したコミュニケーションが、いかに人間関係を豊かにするか」をテーマに研究しました。卒業した1999年は、まさにインターネットが社会に普及し始めた黎明期。論文で描いた世界が現実になり、地理的な制約を超えて人々がつながる様子に大きな可能性を感じ、IT業界の最前線にいた日本オラクル株式会社への就職を決めました。
配属はエンジニアではなく営業・事業開発です。担当したのは、日本を代表する通信キャリアや製造業といった大手企業で、重要顧客の管理を経験しました。キャリアで最初の仕事は、西日本エリアのグループ企業13社へ、オラクルの会計ERPシステムを同時に導入するという大規模なプロジェクト。ハードな環境でしたが非常に面白い経験となり、この時にERP(※1)などを扱った経験が現在の事業にも活きています。
(※1)ERP:エンタープライズ・リソース・プランニングの略で、企業の経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)を統合管理し、業務の効率化や意思決定の迅速化を図る考え方、またはそれを実現するシステムのこと。
ーーその後のキャリアでは、どのような転機があったのでしょうか。
杉浦直樹:
31歳のとき、外資系スタートアップ企業へ転職しました。しかし、わずか3か月で解雇され、大きな挫折を味わうことになります。その頃、ちょうど長男も生まれ、自分自身のキャリアを見つめ直す大きな転機を迎えました。
当初はIT業界への復帰を考えていました。しかし、妻の言葉が転機となります。「(働きすぎて)帰ってこないかと思った。失業してよかった」と言われ、IT業界へ戻るのをやめました。そして、「手に職をつけよう」と決意し、これまでとはまったくことなる税理士事務所の門を叩きました。未経験から実務を学び、税務顧問として約8年間活動しました。多くの中小・中堅企業の経営者と向き合ったその経験が、現在の事業構想へとつながっています。
税務顧問の現場で直面した バックオフィスの構造的問題

ーー税理士として活動される中で、どのような課題意識を持たれたのでしょうか。
杉浦直樹:
税理士として中小・中堅企業の顧問を務める中で、経営者からの相談事の約半分が、実は「バックオフィスの問題」であることに気づきました。たとえば、事務員が突然退職して業務が停止することがあります。また、業務の「属人化」が進み、ブラックボックス化するケースも少なくありません。ひどい場合には、税務調査の際に不正や横領が発覚することさえありました。これらはまさに組織の根幹を揺るがす深刻な課題であり、私は数多く目の当たりにしました。個々の企業努力だけでは解決が難しい、構造的な課題がそこにはありました。
ーーその課題意識が、現在の事業アイデアへとはどのようにつながったのですか。
杉浦直樹:
あるお客様の担当者が急遽退職され、業務を引き継いだことが直接のきっかけです。私たちがデジタル化と業務整理を進め、大幅な効率化を実現した経験があります。そこから、バックオフィスは外部の専門家が関わる方が健全だと考えるようになりました。
また、時代の変化も大きな転機となりました。2015年頃にクラウド会計ソフトが台頭してきたことがきっかけです。それまではパソコン単体で動くソフトや社内ネットワークで完結するものが主流でした。しかし、クラウド会計の登場を「日本のバックオフィスの世界が、他の業界から約15年遅れて、初めて本格的にインターネットに接続した瞬間だ」と捉えました。
大学時代からインターネットが産業構造を根底から変える様子を目の当たりにしてきた私は、この「インターネット接続」によってバックオフィス業界も同様に、そして必然的に構造変化が起きると確信しました。この確信が、現在の事業構想の基盤です。「バックオフィスは自社で抱えず、サービスとして利用する方が合理的になる」。そう考えるようになりました。
事業の核心 「経済合理性」と「労働合理性」の両立
ーー貴社が展開する事業について詳しく教えてください。
杉浦直樹:
弊社は事業に必要なバックオフィス機能を提供しています。その中核となるのが、分業管理プラットフォーム「SYNUPS(シナプス)」(以下、「シナプス」)です。お客様の業務をヒアリングし、「シナプス」上で「誰が、いつ、何をするか」を明確に定義します。定義された業務を分業で実行することで属人化を防ぎ、高品質なサービスを安定的に提供できる仕組みとなっています。
ーー貴社サービスならではの強みとは何でしょうか。
杉浦直樹:
最大の強みは、「強いバックオフィスのチームが今すぐ手に入る」ことです。特にスタートアップでは、管理部門の体制構築が後手に回りがちです。弊社のサービスなら、契約後すぐにプロチームの機能を手に入れられます。また、弊社では現在、約100社の業務から知見を蓄積しています。そのため、法改正など外部環境の変化にも迅速に対応できます。これが弊社ならではの価値だと自負しています。
ーー事業の根幹にある価値観についてお聞かせください。
杉浦直樹:
事業を通じて、「経済合理性」と「労働合理性」を両立させたいと考えています。「経済合理性」とはお客様が得られる価値です。弊社にご依頼いただくことで、業務の属人化を防ぎます。従業員の急な退職にも対応できる安定性を提供できるのが強みです。また、高品質で安定したバックオフィスを、結果的に低コストで運用できる点もメリットです。
一方、「労働合理性」は働く人々のための価値を指します。中小企業の管理部門はキャリアパスが描きにくく、専門性が高まりにくいのが実情でした。私たちは多くの企業の業務を集約し、分業体制を敷いています。それにより、スタッフが着実にキャリアを築ける環境を創出しています。
この二つの合理性を両立させることこそが、バックオフィスの未来を明るくすると信じています。
ーー一般的な業務代行サービスとどのような点で異なるのでしょうか。
杉浦直樹:
一般的な業務代行は、特定の業務を切り出して請け負います。対して弊社は、バックオフィス全体を「企業経営のインフラ」と捉えている点が特徴です。電気やガスのように、継続的かつ安定的に提供することを目指しています。これにより、企業はバックオフィスを自社で構築・維持する負担から解放され、本業に集中できます。
また、私たちは単なる業務代行ではなく、業界全体の構造を変え、働く人のキャリアまで豊かにすることを目標として掲げています。そのため、スタッフは全員を自社で正規雇用し、長期的な育成に責任を持つ体制です。
ーー特にスタートアップの支援に注力される理由をお聞かせください。
杉浦直樹:
スタートアップのバックオフィスは、創業初期から厳格な内部統制が求められるなど、非常に難易度が高い領域です。専門知識を持つ人材は市場に少なく、多くの企業が苦労しています。私たちはこの領域に特化してノウハウを蓄積し、日本のスタートアップの成功確率を高めたいと考えています。
株式上場とその先に見据えるグローバル構想
ーー今後の目標とその先の事業の進化についてどうお考えですか。
杉浦直樹:
2029年の株式上場を目標としています。社会インフラを目指す以上、上場による社会的信用の獲得は責務だと考えています。事業面では、「シナプス」に新機能を実装する予定です。スキルベースマネジメント(※2)機能でスタッフのスキルを可視化します。これにより、効果的なキャリア形成を支援する仕組みを構築していきます。
ーー今後の事業拡大に向けた、販路開拓や組織づくりについてのお考えを教えてください。
杉浦直樹:
これまではご紹介を中心に成長してきましたが、今後は営業チームを起点に、より能動的に価値を届けていく所存です。そして、「スタートアップのバックオフィスといえばWewill」という地位を築きたいと考えています。事業の根幹である人材の採用・育成にも注力します。特にコンサルタント層を強化し、会社としてさらなる進化を目指していきます。
ーー事業を通して、将来的にはどのような世界を実現したいですか。
杉浦直樹:
最終的には、国境を越えたグローバルなバックオフィスインフラを構築したいと考えています。企業は円滑に海外進出でき、働く人々は住む場所に縛られず、世界を舞台に活躍できるようになります。その実現に向け、これからも挑戦を続けていきます。
(※2)スキルベースマネジメント:従業員一人ひとりが持つスキルを基準として、人材の採用、配置、育成、評価、処遇といった人事管理を行う考え方。
編集後記
税理士として数多くの現場を知る中で杉浦氏が直面したのは、旧態依然としたバックオフィスの非効率性だった。この課題を解決する鍵こそが、「インターネットに接続すると構造が変わる」という大学時代からの信念であった。
Wewillが目指すのは、単なる業務の効率化ではない。顧客企業の「経済合理性」と、働く人の「労働合理性」。この二つを両立させるという思想は、バックオフィスに関わるすべての人々へ、新しい時代の「働く意味」を問いかけている。浜松から始まったこの静かな革命が、未来の働き方にどのような答えを示してくれるのか、期待せずにはいられない。

杉浦直樹/1975年静岡県生まれ。上智大学卒業後、日本オラクル株式会社に入社し、アカウントマネジャーとして重要顧客のマネジメントに携わる。2015年税理士登録。2016年に税理士法人Wewillを、2017年に株式会社Wewillを設立。大変化に直面するバックオフィスの世界を革新するため、テクノロジーがもたらすバックオフィスの未来とそこで働く事務を通じたキャリア形成の未来を探求中。