※本ページ内の情報は2025年11月時点のものです。

旅行会社として知られる株式会社エイチ・アイ・エス(以下、HIS)グループの一員でありながら、モバイル通信事業という独自の道を切り拓いてきたH.I.S.Mobile株式会社。同社は格安SIMサービスを軸に事業を展開し、価格や機能性だけでなく、社会貢献を通じてブランド価値を高めることに注力している。長年、旅行業界で培ってきた知見と、常に新しいことに挑戦し続けるフロンティア精神を持つ猪腰英知氏。過去の経験から得た学びを武器に、通信と旅を融合させる新たなビジネスモデルの構築、そして社会貢献と事業成長の両立という壮大なビジョンを掲げる同氏に、その飽くなき挑戦の軌跡と未来について話をうかがった。

変わらない仕事観は“部下を守りたい”という責任感から

ーー社会人としてのキャリアはどのようにスタートされたのでしょうか。

猪腰英知:
当時は旅行業界に漠然とした興味があったため、旅行の専門学校に通っていましたが、面接を受けた会社はHIS、1社だけでした。入社前は、旅行会社で海外に行けて遊べるというイメージを持っていましたが、実際はそんなことはなく、当時は急成長中のベンチャー企業で、昔ながらの厳しい社風でした。ですが、振り返れば、私にとっては事業規模が大きく、多岐にわたる経験を積める良い環境だったと思います。

ーー仕事へのモチベーションを保ち続けた原動力はどこにあったのでしょうか。

猪腰英知:
私は何かを始めると、それなりにのめり込む性質です。仕事でも、何かをやって結果が数字として表れる分かりやすいところが楽しかったのだと思います。ただ、一番の原動力は「部下を守ってあげたい」という思いでした。非常に厳しい環境でしたので、自分が責任者として権限を持たない限り、何も変えられないという気持ちが常にありました。自分自身は後回しでも、部下には迷惑をかけたくないという責任感が、常に上を目指す原点となっています。

変化する時代と市場で挑む独自の戦略

ーーHISでのご経験の中で、特に現在の事業に活かされていると感じる学びやスキルはありますか?

猪腰英知:
私はHIS時代に地方の営業所立ち上げを経験しましたが、そこで培った経験が、現在の事業でも大いに活かされています。ビジネスの本質は同じで、誰かが何かを欲しいと思った時に、どうすれば手に取ってもらえるのか、その意思決定の要因とタイミングはどこにあるのかを考えることに変わりはないからです。業界は異なりますが、後発の弱者という立ち位置を理解した上で、それなりの戦い方を意図的にやってきたので、特に違和感はありませんでした。

ーー貴社ならではの、他社との差別化ポイントについてお聞かせいただけますか。

猪腰英知:
業界最安値級の低価格プランに加えて、HISならではのハワイLeaLeaトロリー1日無料券などの特典、日本各地にあるサポート店舗、1回線から対応可能な柔軟な法人体制と意思決定のスピードです。

弊社ではCSR活動の一環として「通信を通じた社会貢献」にも力を入れています。全国ふるさと組合と連携した地方創生活動をはじめ、教育支援団体「ステップアップ塾」や地域の子供食堂への支援など、通信を活かした社会貢献活動を展開し、共感の輪を広げていきたいと考えています。

社会貢献を軸とした新たな事業創造への挑戦

ーー具体的にどのような社会貢献活動に取り組んでいらっしゃるのでしょうか。

猪腰英知:
新潟県加茂市とは、不要になった携帯電話の回収ボックスを設置し、回収によって得られた収益を自治体へ還元しています。また、今後はステップアップ塾への屋外学習用Wi-Fiの提供や、児童向けの端末寄付・特別プランの展開にも取り組んでいく予定です。さらに、全国ふるさと組合の事務局運営を支援し、地域の逸品をECサイトで販促するなど、「通信」を通じて人と地域をつなぐ活動を進めています。

ーー今後、中長期的にどのような会社を目指していきたいとお考えでしょうか。

猪腰英知:
中長期的な目標としては、格安SIM事業で確固たるポジションを築き、旅行事業を通信事業に並ぶもう一つの柱として確立したいと考えています。HISでの経験を活かし、海外Wi-FiレンタルやeSIMといった「通信プラスアルファ」のサービスを提供し、通信と旅の楽しみ方を横軸でつなげ、顧客一人当たりの価値を現在の1.5倍に引き上げたいです。また、IoT分野への展開も視野に入れており、AIやロボティクスといった成長著しい業界で、通信サービスを通じて貢献していきたいと考えています。優れた技術や商品がありながら普及しないまま消えてしまうことが多い現状を変えるため、事業規模を拡大し、弊社の営業力でその普及に貢献できる会社を目指しています。

編集後記

今回の猪腰氏へのインタビューを通じて、同社が単なる通信会社にとどまらない企業であることが明らかになった。長年培った旅行事業の経験を基盤に、通信と旅という一見異なる2つの事業を融合させ、新たな価値を創造する未来図は、非常に具体的で説得力に満ちていた。特に、子ども食堂の支援など社会貢献を事業の重要な柱として捉え、ブランド価値向上につなげるという考え方は、価格競争に陥りがちな現代において、多くの示唆を与えてくれるだろう。猪腰氏の挑戦は、これからも多くの人々に希望を与え続けると確信している。

猪腰英知/1974年6月埼玉県生まれ。東京通信大学卒。専門学校卒業後20歳で株式会社エイチ・アイ・エスに入社。HISツアーブランドリーダーを経て、2018年に同社代表取締役社長に就任。現在は地方創生や子供食堂支援など、通信を活かした社会貢献活動にも力を入れている。