※本ページ内の情報は2025年12月時点のものです。

医療機関向けに看護補助者(※1)の派遣と現場運営コンサルティングを提供する、株式会社タスクフォース。同社は日本の医療現場の深刻な人手不足という構造的な課題を解決するため、看護師が本来の医療に集中できる環境を創出し、現場の生産性向上を支援している。同社を率いるのは代表取締役の鳴川光平氏である。医師免許を取得後に外資系投資銀行、総合商社を経て外資系プライベートエクイティファンドを渡り歩き、金融と経営の最前線で活躍したユニークな経歴を持つ。自身のキャリアを生かし、組織の実行力を徹底的に高める鳴川氏に、多彩な経歴の裏にある探求心と、今後の未来像をうかがった。

(※1)看護補助者:病院などの医療現場で、看護師の指示のもと、専門的な判断を伴わない看護業務の補助を行う職種。看護助手、ナースエイド、看護アシスタントなど、さまざまな呼び方がある。

安定よりもワクワク感を 異業種転職を続けたあくなき探求

ーー医学部卒業後、投資銀行のキャリアを選択された経緯についてお聞かせください。

鳴川光平:
2002年に公立大学の医学部に入学しましたが、大学4年生の病院実習時にある思いがよぎりました。それは、臨床現場の世界で60歳まで働いている自分の姿を明確にイメージが出来ない、というものでした。医師は社会的意義の大きい立派な仕事であるということはもちろん理解していましたが、社会の仕組みを何らか前進させられるような役割を担いたいという個としての強い思いとの間に、何となくギャップを感じてしまっていました。

ちょうどその頃、若手経営者や投資ファンドが世の中で注目を集めており、その活動を支えている金融という仕組みに好奇心をそそられ始めていました。そこで、とりあえず何か動いてみようと思い、外資系投資銀行であるJPモルガンのインターンに参加。その後幸いにも内定が出たため、医師免許取得後に2008年から投資銀行部門でキャリアをスタートさせました。JPモルガンではM&Aのアドバイザリー業務や資金調達業務に3年半ほど従事し、金融プロフェッショナルとしての基礎スキルやスピード感が身についたと感じています。

ーーその後、どのようにキャリアを構築されましたか。

鳴川光平:
投資銀行での仕事は大変勉強になるものでしたが、自分自身が主体的に意思決定・実行する経験を積まないと顧客に価値あるサービスを提供するのは難しいと感じ始めました。

自分自身の付加価値を高めるため、三菱商事へ転職しました。そこではオーストラリア駐在となり、現場の実務に携わりました。資源開発のジョイントベンチャー管理や新規案件の創出を通じて、同社が持つグローバルフランチャイズの中で主体性を養うことができたと考えています。

しかし、ジョイントベンチャーではマイノリティ出資として参加することが多く、事業の主体者になれないことから、「次はマジョリティ株主の立場から事業運営に関わりたい」と考え、金融と経営の両面を経験できるプライベートエクイティファンド(※2)のカーライルグループへ移りました。PEファンドでの実務は想像していた以上に多岐にわたり、一方で大局観を持ったモノの考えが常に求められる仕事でもあり、本当に貴重な経験を数多く積ませていただきました。

このように私は異業種を渡り歩いてきましたが、優秀な同僚の方々に囲まれながら、常に「ワクワクできるか」「主体者でいられるか」という問いへの答えを探す連続でした。

(※2)プライベートエクイティファンド(PEファンド):投資家から資金を募り、未上場企業の株式に投資し、その企業の価値を向上させた後に株式を売却して利益を得る投資ファンドのこと。

反面教師の経験が土台 実行力を高めるコミュニケーション

ーー独立に至った経緯についてお聞かせください。

鳴川光平:
PEファンドの仕事は、当然ながら最終目的が金融業としての「投資収益の追求」であり、個人的にそれに対するモチベーションを維持し続けることに徐々に限界を感じ始めていました。また、株主という立場では「これをやるべきだ」と外から言うだけで、自分が100%中に入り込んで事業を動かしていくという感覚を個人的に持てず、「これでは自分としてはほとんど本質的な付加価値を生み出せていないのではないか」と、常に自問自答していました。

ただ、ありがたいことに報酬は高く、家族もいる中で「この生活を手放してまで何かをやり切りたいという覚悟が本当に自分にあるのか」と、一時期とても悩みました。それでも中途半端な気持ちをもったままの働きに反って会社にご迷惑をおかけするのもいよいよ嫌になり、独立を決意しました。「自分が本当にやりたいと思うことができる会社は、おそらく探してもどこにもない。それならダメ元で自分で飛び出してやってみるしかない」と考えたからです。

ーー貴社代表取締役に就任した経緯についておうかがいできますか。

鳴川光平:
独立後、医療・ヘルスケア業界で事業活動を展開し、タスクフォース社とのご縁が生まれました。この出会いは本当に偶然の連続だったと感じています。

もともとは、私が仲介したM&Aがきっかけで関係ができたメンタルヘルステクノロジーズ社で、エグゼクティブ・アドバイザーを務めていました。そんな中、2023年の夏ごろに、同社にタスクフォースのM&A案件が持ち込まれたのです。案件を見た瞬間に「これは非常に面白い事業だ」と直感し、場合によっては自分で仲間を集めて取り組んでみたいと考えたほどでした。

結果的にメンタルヘルステクノロジーズ社がM&Aすることになり、私がその実務を担当しました。プロセスを進める中で、この会社の持つ将来性をますます強く感じるようになりました。

当時の私は、独立したからこそ「自分の情熱をフルに注ぎ込める組織を率いてみたい」と強く感じ始めていました。そうした偶然が重なり、M&Aが完了した2024年2月、代表取締役に就任しました。

ーー貴社業の強みや差別化ポイントについて、どうお考えですか。

鳴川光平:
弊社の強みは、医療現場の生産性向上に特化した、質の高い人材提供と現場運営のコンサルティング能力です。単に看護補助者の数を充足させるだけではありません。医療現場の効率的な運営まで任せていただくことで、看護師の皆さまが本来の医療業務に集中できる環境を創出しています。

ただし、現在は事業ノウハウが個々の社員のプロフェッショナルスキルに一定に属人化していることも事実ではあり、これを全社で共有できる「組織知」に変えていくことが最重要課題の一つだと捉えています。

ーー人材育成において、どのようなことに取り組まれていますか。

鳴川光平:
私は、人間の能力にそれほど大きな差はないと考えています。だからこそ、日々の行動習慣の徹底が企業の成長を左右すると信じています。そのため社員には、「自分ごと」「前向き」「スピード」「継続」という4つの価値観を徹底するよう常に伝えています。この習慣が根付けば、組織は必ず強くなります。

しかし、ただスローガンを掲げるだけでは人は動きません。私が何より重視しているのは、「なぜやるのか」という目的(Why)を、自分の言葉で丁寧に説明し続けることです。いずれは社員一人ひとりがリスクを恐れずにどんどん新たなチャレンジを実行できる、そんな強い組織をつくり上げたいと考えています。

ーーこれまでの経験は、貴社の経営にどのような影響を与えていますか。

鳴川光平:
PEファンドでの経験は、私個人としては、成功体験よりもむしろ「うまくいかなかったこと」のほうが多く、そのすべてが反面教師として今の経営に活きています。

最大の学びは、経営としてのコミュニケーションの重要性です。当時、投資先の経営陣が「なぜこのアクションが必要なのか」を現場の社員に十分に伝えきれず、場合によってはただ「株主が言っているから」という理由で物事を進めてしまう場面を何度も見てきました。それでは、現場の士気は上がるはずがありません。そういった苦い経験があるからこそ、私は会社の方向性や一つひとつの意思決定の背景を、自分の言葉で丁寧に説明することを何よりも大切にしています。

看護補助者数万人体制へ タスクシフトを担う未来への展望

ーー今後日本の医療業界においてどのような存在を目指すのか、展望をお聞かせください。

鳴川光平:
医療業界におけるタスクシフト・タスクシェア(※3)を牽引するリーディングカンパニーを目指します。そのためには、人材派遣サービスにおける最大の競争優位性である「規模」の追求が不可欠です。現在約1,000名弱の看護補助者を数万人規模にまで増やし、全国での拠点拡大を進めていきたいと考えています。具体的には、既存の3拠点に加え、早期に全国拠点体制を構築する計画です。

また、看護補助者の派遣先医療機関は全国各地に広がっていますが、たとえば愛知県の大手急性期病院様では、夜勤専従の看護補助者約35名を当社から派遣しています。その結果、看護師の皆さまの負担軽減や、患者さまの夜間における転倒・転落の頻度低下といった効果が見られており、こうした現場運営の実績を今後さらに積み重ね、拡大していきたいと考えています。

将来的には、医療機関にとって付加価値のあるサービスモデルの多角化や人材サービスの他業界への横展開なども視野に入れ、弊社が社会にとってより一層必要不可欠な存在になることを目指しています。

(※3)タスクシフト・タスクシェア:医療の質向上を目指し、医師の業務の一部を他の職種に移管・共同化する取り組み

編集後記

鳴川氏のキャリアは、安定や報酬に縛られない。「ワクワク感」と「主体性」を追求した結果である。その全てが「実行力」を突き詰める経営に集約されている。社員との対話やビジョン共有を徹底する姿勢も印象的だ。これは組織変革の難しさを知る、鳴川氏ならではの信念だろう。医療の質向上と高齢化が同時に進む社会課題がある。その解決に全てを投じ、業界変革をリードする同社の飛躍に期待したい。

鳴川光平/2008年大阪市立大学医学部医学科卒業、医師免許取得。JPモルガン証券会社にてM&Aアドバイザリー業務及び資金調達業務に従事。その後、三菱商事での勤務を経て、カーライル・グループ及びベインキャピタルにて企業投資を担当。2022年に独立し、医療・ヘルスケア業界で事業活動を開始。株式会社メンタルヘルステクノロジーズのエグゼクティブ・アドバイザーとなり、2024年2月、株式会社タスクフォースの代表取締役に就任。