※本ページ内の情報は2025年12月時点のものです。

家電量販店を主戦場に、人を介した販売促進事業を展開するビーモーション株式会社。同社は単なる人材派遣事業ではなく、プロジェクトチームとして現場に入り、「売る」成果を追求する一方で、販売の最前線でしか得られない「売れなかった情報」をも価値の源泉とし、メーカーへの改善提案までを一貫して担っている。近年ではAIを活用したオンライン接客や教育ソリューションといった新規事業を立ち上げ、第二の柱として育成中だ。海外渡航の夢を胸に上京し、一度は離れた会社へ「社長になる」と宣言して復帰した経歴を持つ代表取締役社長の伊藤空氏に、これまでの歩みと未来への展望について話をうかがった。

3度の復職と「社長になる」という覚悟

ーー社長に就任された経緯を教えてください。

伊藤空:
もともとは、海外へ行くための資金を貯める目的で上京しました。縁あって弊社で働き始め、初回の渡航に向けて資金を蓄えた後は、海外で過ごす時期と日本で働く時期を行き来しながら、自分の進む道を探していた時期があります。そうした生活が積み重なり、結果として会社を離れていた時期は通算で8年ほどになりました。2011年に復職する際に「やるからには社長になる」と創業社長である松永へ直接宣言しました。

ーーなぜ社長を目指そうと決意されたのですか。

伊藤空:
改めて、弊社でしっかり働き、やり遂げたいという思いが強くなったからです。昔から宣言したことは実行する性分だったため、復帰するならトップを目指そうと決めました。想定より早く40代で社長に就任しましたが、最低10年間は社長としての責務を果たしたいと考えています。そして、次の世代を育成したうえで、会社を確実に引き継いでいきます。

社員の才能に光を当てる独自の文化

ーー貴社が大切にされている考え方について、お聞かせください。

伊藤空:
弊社の根幹にあるのは、「社員一人ひとりが主役である」という考え方です。会社とは、物理的な建物や看板ではありません。私たち社員を通して、周囲は「ビーモーションはこういう会社だ」と理解します。そのため、「会社は私たち自身の集合体だ」という認識を強く持っています。代表就任時に宣言した「私たちイコール会社なんだ」という意識を、社員全員が持つことを大切にしています。私自身、手を挙げたことを否定されず、挑戦させてもらえる環境で成長できました。この文化を、私は非常に大切にしたいと考えています。

ーー社員の方々と向き合う上で心がけていることはありますか。

伊藤空:
何よりもまず、私よりも秀でている点がたくさんある、と素直に認めることです。そのうえで、一人ひとりの能力が最大限に発揮できる環境を整えることに注力しています。できない点を指摘するのではなく、その人の素晴らしい部分に光を当てるのです。

実は、社員たち自身からも「うちの会社はまるで動物園のようだ」と言われるほど、本当に様々な才能やキャラクターが集まっています。しかし、この多様な個性が集まった集合体こそが、同社の揺るぎない強みだと考えています。

売れなかった情報に潜む最も大きな価値

ーー改めて貴社の事業内容と、他社との違いについて教えてください。

伊藤空:
人を介した販売促進を得意とし、家電量販店を主なフィールドとしています。個人のスキルに依存する派遣とは異なり、私たちはプロジェクトをチームとして請け負う点が大きな違いです。仕組みとして「どう売るか」を考えることが、弊社の強みです。最前線である現場を何よりも重視し、徹底的に情報を吸い上げる姿勢も、他社にはない強みだと考えています。

ーー現場のどのような情報に最も価値があるとお考えですか。

伊藤空:
売れた実績も大切ですが、私たちはむしろ「売れなかった情報」にこそ、大きな価値があると考えています。なぜなら、ご購入に至らなかったお客様と、最後に接点を持ったのが私たちだからです。お客様が何に悩み、なぜ購入をやめたのか。その時の情報を吸い上げてメーカーに共有し、商品や販促ツールの改善につなげることこそが、大きな価値を生むのです。また、こうした現場での予期せぬ事態への対応こそが、人を最も大きく成長させるという考えから、現場でのOJTを人材育成の核に据えています。

(※)OJT:「On the Job Training」の略称で、実際の業務を通じて知識やスキルを習得させる育成手法。

AIで未来を拓く 新たな事業への挑戦

ーー現在、特に注力されている新たな領域はございますか。

伊藤空:
AIを使ったビジネスを今後の事業の柱にすべく立ち上げました。オンライン上での接客から始まり、現在ではAIが企業の営業担当者のロープレ相手を務める教育システムなどにサービスが派生しています。労働人口が減少していく中で、ベテラン社員が持つ知識やノウハウをAIが継承し、会社の文化を次の世代へつなぐ手助けができると考えています。

ーー今後のビジョンをお聞かせください。

伊藤空:
5年後の中期計画では、現在の売上の180%成長を目指しています。そのためには、既存事業で「ビーモーションでないとできない」と言われる価値を提供し、ナンバーワンの地位を確立することが不可欠です。そして、新規事業であるAIソリューションを第二の柱として育てます。社員が「この会社で働けてよかった」と思えるよう、挑戦を後押しする環境づくりにも注力していきます。

編集後記

伊藤氏の「社員の集合体が会社である」という考え方は、社員の個性と才能を最大限に生かす基盤となる。この人間中心の基盤こそが、現場で生まれた「売れなかった情報」を、メーカーへの改善提案という大きな価値へと変える原動力だ。さらに、既存事業の知見とAIソリューションを掛け合わせることで、ナレッジ継承という社会課題にも挑む。常に変化を恐れない同社の姿勢は、セールスプロモーション業界の革新を牽引していくに違いない。

伊藤空/北海道生まれ、宮崎県育ち。1995年にビーモーション株式会社に入社、販売スタッフからスタート。その後、運営担当やトレーナー、採用担当などさまざまなポジションを経験しつつ、3回の出戻りも経験。「恩と愛着のある会社で生きる」と決め、2011年に4回目の入社を果たし、創業者に「やるからには社長に」と宣言。2024年6月より同社代表取締役社長に就任。