※本ページ内の情報は2025年12月時点のものです。

大阪で長年愛され、うどん文化の発展に寄与してきた恩地食品株式会社。同社は伝統の味を世界に届けるべく、2025年の大阪・関西万博へ出展し、その後も新たな挑戦を本格化させている。各国の食文化と融合する柔軟なメニュー提案や、海外のホテル・レストランへの法人向け商品の展開など、その戦略は国内に留まらない。また、地元の学校での講演やテーマパークとの協業を通じ、次世代へのブランド継承にも力を注ぐ。今回、同社代表取締役社長の恩地宏昌氏に、うどん一杯に込める思いと、グローバル市場を見据えた今後の展望をうかがった。

大阪・関西万博を終えて「大阪うどん」世界への挑戦

ーー大阪・関西万博へ出店するに至った経緯をお聞かせください。

恩地宏昌:
所属する経営者のコミュニティ内で、「“食い倒れの町・大阪”として万博に貢献できないか」という話が持ち上がったのが始まりでした。そこで弊社の大坂のおうどんに白羽の矢が立ったのです。同コミュニティ、大阪府製麺商工業協同組合との三者連携で万博の「共創チャレンジ」にエントリーし、出展が決定しました。

ーー万博では、具体的にどのような展示、発表をされたのでしょうか。

恩地宏昌:
一つは、海外輸出を視野に入れた商品の展示です。従来の半生うどんは賞味期限が短く、輸出には不向きでした。そこで賞味期限10か月を実現した乾麺「大坂のおうどん」を開発した経緯があり、台湾やシンガポールでの実績をご紹介しました。

万博の展示では「うどんが伝統食という枠を越え、多様な食文化と融合できる柔軟な食材だ」と伝えるために、さまざまな工夫をしました。たとえば、韓国のプルコギと合わせた「プルコギうどん」や、ベトナムの生春巻きを野菜とうどんを巻くメニューなど、様々なコラボメニューを写真で紹介したのです。当日は約1000人もの方がブースを訪れ、確かな手応えを感じました。

もう一つは、各国のホテルや日本食レストランに食材として麺を供給しました。現地のメニューに加えていただくことで「大坂のおうどん」のブランド価値を高めたいという思いで展開しました。

ーーご来場者からはどのような反応がありましたか。

恩地宏昌:
関西圏からお越しの方からも、「『大阪うどん』という呼び方は初めて聞いた」という声が少なくありませんでした。讃岐うどんのように地域名が冠されることが少ないため、改めてその存在を知っていただく良い機会になったと感じます。万博を機に、まず地元大阪での認知を高め、そこから海外へ魅力を広げていきたいです。

国境を越えるうどんの可能性

ーー現在、注力されているテーマはありますか。

恩地宏昌:
近年、海外展開に注力し、現在、ミャンマーでレストランを経営する知人に麺と濃縮だしを送り、メニューとして提供しています。現地の方からも大変好評と報告を受けていて、今後こうした食材供給の形を広げていく所存です。

また、ジョージアとのご縁には、運命的なものを感じています。知人からの紹介で、在ジョージア日本国大使館が開催する「ジャパンフェスティバル」で日本の食材を探しているとうかがい、サンプルを送付いたしました。

さらに同じ時期に、地元の枚方市内の高校の授業で「うどんを輸出するならどの国か。また、どんなコラボメニューが考えられるか」という課題を出していただいたところ、あるチームがジョージアの郷土料理「シュクメルリ」にうどんを入れる案を提案してくれたのです。まさにサンプルを送った絶妙なタイミングでの提案でしたので、すぐに社内のスタッフにレシピを再現してもらい、大使館へ追加で送りました。

もしこのメニューが採用されれば、現地のホテルでジョージアの方々に召し上がっていただける可能性があります。さらに、評判が良ければ定番メニューになるかもしれないとうかがっており、どのような結果になるか、非常に楽しみにしています。

ーーその他に、海外展開で取り組まれていることはありますか。

恩地宏昌:
台湾での展示会では、現地のスタッフが試食を提供し、商品の魅力を伝えています。台湾の展示会は非常に賑わい、三日間で20万人もの一般来場者が買い物に来るほどです。ここでは試食の匂いにつられて多くの方がブースに来られ、初日で商品が完売するほどの大きな反響を得ています。

また、現在は台湾向けのECサイトを構築し、現地の会社に運営を委託しています。展示会会場での試食で興味を持った方はその場で購入されますが、その後のリピート購入につなげるため、購入者をECサイトへ誘導する導線を構築しました。

異業種コラボによるイノベーションの追求

ーー国内での取り組みについてもお聞かせください。

恩地宏昌:
改めて、「おんち」というブランドを、特に若い世代を中心に広めていく方針です。地元の小中学校、高校での職業講話や出張講座もその一環です。また、地元のひらかたパークと協力し、パークのキャラクターをあしらった「大坂のおうどん」を展開中です。この商品が、枚方を代表するお土産の一つになると期待しています。

さらに、姫路の駅そばで有名なまねき食品株式会社様とも話を進めるなど、他社との協業で新たなイノベーションを生み出していきたいと邁進中です。

また、通販サイトの強化にも注力しています。海外だけでなく、国内向けにもネットショップを用意しているのですが、特に遠方のお客様は、重いストレートだしなどを宅急便でまとめて購入されるケースが多く見られます。

逆境を乗り越えて生まれたヒット商品

ーー新商品開発はどのように進められているのでしょうか。

恩地宏昌:
各部署からメンバーを集めた商品開発チームが担当しています。2年前、新卒入社してから2度の育児休業を経て復帰した女性社員をリーダーに抜擢しました。彼女の主婦としての感覚を活かしたアイデアから、九州うどんらしいもちふわ食感の「九州麦のよかうどん」のような新商品が誕生しています。実は、弊社の売上トップは「本鰹だし」というストレートだしなのですが、その派生商品として常温で賞味期限1年半の瓶だし「おんちのだし」が誕生。これも社員のアイデアから生まれた商品です。

ーーこれまで開発した商品で、思い出深いものはありますか。

恩地宏昌:
お土産用商品として展開している「大坂のカレーおうどん」も、実は偶然の産物でした。もともとフリーズドライのきつね揚げをセットにしてうどんをスーパーなどに納品していました。しかし、このきつね揚げの原料メーカーが製造を中止することになり、供給がストップしてしまったのです。取引先も増え、ちょうど軌道に乗り始めた頃だったので、なんとか継続するために、レトルトの生揚げを代替品として使うことを検討しました。

一方で、レトルトの生揚げは賞味期限が半年、このままでは販売に支障が出る。このため、日持ちするカレー粉末のルーと合わせて開発したのが「大坂のカレーおうどん」です。窮地に追い込まれた結果生まれた商品ですが、今では主力商品の一つとなり、どんな試練があってもヒット商品を生むことができることを学びました。

ーー最後に、恩地社長が事業を通して実現したいビジョンをお聞かせください。

恩地宏昌:
私の信条は、「うどん一本からの愛を世界に届ける」です。食は世界平和につながると信じていますし、切り口に角がない丸い麺には「大坂のおうどんが世界を丸く収める」という思いも込められています。うどんを通して、まず家族という最小単位のコミュニティに愛が溢れ、それがやがて世界平和へとつながっていく。その一助を弊社の大坂うどん文化が担えるよう、これからも挑戦を続けます。

編集後記

大阪に深く根付く、うどん文化。恩地食品は、その伝統を重んじながらも、万博出展を契機に世界へと飛躍しようとしている。国境を越えた食文化との融合、次世代へのブランド継承、そして社員の声から生まれる商品開発。これら多彩な取り組みの根底には、恩地氏の「うどん一本からの愛を世界に届ける」という熱い思いがある。一杯のうどんが世界をつなぐ同社の挑戦は、日本の食文化の新たな可能性を指し示している。

恩地宏昌/1962年大阪生まれ。桃山学院大学卒業後、株式会社タカキベーカリーに入社。3年の修行の期間を経て、恩地食品株式会社に入社。2003年、同社代表取締役に就任。また、同社は2026年に創業100周年を迎える。