
ハンバーガーチェーン「モスバーガー」のパートナーとして、長年にわたりその味を支えてきた紅梅食品工業株式会社。同社は、顧客の要望に迅速に応える圧倒的なスピードを強みとし、食品製造業界で確固たる地位を築いている。その独自の組織文化を牽引するのが、代表取締役社長の堀口悦宏氏だ。堀口氏は、すべての仕事の根幹に気遣いを置き、相手の予想を上回ることを信条とする。その信念は、モスバーガー創業者から受けた多大な影響から生まれたという。常に昨日より今日、今日より明日へと前進を続ける同社の強さの源泉と、未来の展望について話を聞いた。
外部での修業を通じて獲得した客観的視点と知見
ーーどのような形でキャリアをスタートされたのかお聞かせください。
堀口悦宏:
長男ということもあり、幼い頃からいつかは家業を継ぐのだろうと考えていました。直接のきっかけとなったのは、アメリカ留学中に結婚を決めたことです。家庭を持つなら日本で働こうと決意して帰国し、弊社に入社しました。最初の2年間は工場に入り、製造現場で汗を流していましたが、その後、外部の企業へ修業に出ました。
ーーその後は、どのようなキャリアを歩まれたのでしょうか。
堀口悦宏:
ご縁があって、株式会社モスフードサービスで8年間お世話になりました。最初の1年間は店舗勤務を経験し、工場で作ったものがどのようにお客様へ提供されるのかを肌で学びました。その後は商品開発部に配属されましたが、私が担当したのは調理そのものではなく、原価計算や導入準備といった後方支援です。取引先との交渉や、店舗オペレーションを考慮した資材調整など、多岐にわたる業務を経験しました。外から自社を見るという視点を持てたこと、そして弊社に戻ってきてからも続く多くの方々とのご縁は、私にとって大きな財産です。
期待を上回る成果を生む徹底した気遣いの精神

ーー仕事をするうえで、最も大切にされている価値観を教えてください。
堀口悦宏:
最も大切にしているのは気遣いです。これは面接の時や新入社員にも必ず伝えています。相手のことを考えなければ、本当の意味で気を遣うことはできません。この方は何を望んでいるのだろうと常に考え、その期待を少しでも上回る行動を心がけています。そうした積み重ねが、相手からの信頼につながると信じています。
私の考え方の根底にあるのは、すべて「モスバーガー」の創業者から学んだことです。創業者のエピソードをうかがう中で、その教えを自分なりに噛み砕いた結果が、気遣いという言葉に集約されました。どうすれば人の役に立てるか、お客様が何を求めているかを突き詰めると、結局は同じ結論にたどり着くのだと思います。私はその影響を100%受けているといっても過言ではありません。
ーー気遣いを体現するにあたり、心がけていることはありますか。
堀口悦宏:
相手の反応を想像しながら考えるようにしています。たとえば、お世話になった方へお礼をする時も、単に喜ばれるだけでなく、笑えて記憶に残るようなことをしたいのです。ある時、社員の方が多い企業様へのお礼として、「うまい棒」を数千本お送りしたことがあります。金額にすれば大したことはありませんが、そのインパクトは絶大で、絶対に忘れられないでしょう。相手が不快に思わず、かつ笑えること。そうした工夫で記憶に残れば、また何かあった時に声をかけてもらえるはずです。
組織的な情報共有体制が支える迅速な対応力
ーー貴社ならではの強みは何だとお考えでしょうか。
堀口悦宏:
スピードです。お客様からこのサンプルをもう少し薄味にしてほしいとご要望があれば、次の日には修正したサンプルをお持ちします。ある時は、午後にいただいたカレーの味調整依頼に対し、すぐに対応して翌朝9時には完成品をお届けしたこともあります。これも、相手の予想を上回りたいという気遣いから生まれる行動です。期待された時に「明日やります」では遅い。今すぐ動くことが大切だと考えています。
ーーそのスピード感を実現するため、どのような体制をとられているのでしょうか。
堀口悦宏:
スピードを支えているのは、徹底した情報共有の仕組みです。特定の誰かしか分からないという属人化した状態があると、どうしても対応が遅れてしまいます。それを避けるため、かなり早い段階から社内ツールを導入し、東京と栃木という物理的な距離があっても、全員がリアルタイムで情報を共有できる体制を構築してきました。誰が見ても状況が把握でき、即座に連携できる環境があるからこそ、組織としてのスピードが生まれていると考えています。
相手を思いやる人材と共に切り拓く組織の展望

ーー今後、会社としてどのような存在でありたいとお考えですか。
堀口悦宏:
お客様にとって、話しやすい相談相手のような存在でありたいです。困った時に、「あの会社に相談すれば何かしらの答えを出してくれるだろう」と頼りにしていただける関係性が理想です。相談していただけるということは、私たちを記憶し、信頼してくださっている証拠です。そのためにも、日々の仕事を通じて、相手の記憶に残るような価値を提供し続けていきたいと考えています。
ーー最後に、どのような方と一緒に働きたいとお考えでしょうか。
堀口悦宏:
繰り返しになりますが、やはり気遣いができる方と働きたいです。社会人として仕事をしていくうえで、この力は何よりも重要だと私は思っています。気遣いができれば、お客様や社内の仲間から信頼されますし、仕事で困った時にも必ず誰かが助けてくれます。仕事を覚えることはもちろん大切ですが、その土台として、相手を思いやる気持ちを大切にできる方に来ていただけるとうれしいです。
編集後記
堀口氏の言葉で一貫していたのは、その行動原理がすべて気遣いに集約されていることだ。それはモスバーガー創業者への敬意から学び取った、商売の原点ともいえる確固たる信念である。相手の期待をいかに超え、記憶に残るかを考え抜く姿勢は時にユニークだが、根底には真摯な思いやりがある。それがスピードという独自の強みを生み出し、この精神を社員が体現する文化こそが、同社の未来を力強く切り拓く原動力となるのだろう。

堀口悦宏/1972年東京都生まれ。短大卒業後、米国に3年間留学し国際感覚を養う。1995年紅梅食品工業株式会社に入社し工場勤務を経験。1997年より株式会社モスフードサービスで商品開発に従事。2005年紅梅食品工業に復帰し、社長室長、専務取締役を経て、2015年に代表取締役社長に就任。