
額縁の製造販売を手がけるマルニ商事株式会社。同社は、IT企業出身の代表取締役、木村知巳社長のもと、伝統的な製造業の常識を覆した。業界に先駆けてEC化とDXを推進し、これにより仕入中心の小売業から製造販売へとビジネスモデルの転換を成功させたのである。その結果、受注からわずか3〜4日で額縁を製造し、納品を可能にする圧倒的な競争力を獲得した。アナログな額縁製造業の枠を超え、「最終的にはIT会社になりたい」と語る木村社長に、その軌跡と未来へのビジョンを聞いた。
非効率な働き方を避けた合理的キャリア選択
ーー最初のキャリアについてお聞かせください。
木村知巳:
もともと小さい時から、「いずれは家業を継ぎたい」「会社を大きくしたい」という思いがありました。大学は理系学部へ進学しましたが、当時の私はパソコンが全く得意ではなかったのです。卒業を控え、これからは絶対にパソコンが使えた方がいいと考え、兄からの提案もあり、技術習得を目的にIT企業に就職しました。
その会社は、当時まだ珍しかったLANの構築や、ルーター、スイッチングハブの設定などを行っており、Windows 3.1の時代に、TCP/IPのソフト開発と通信インフラ構築を手がけていました。取引先はNTTやキヤノン、新聞社といった大手企業ばかりで、そうしたお客様のマシンルームで作業をしていました。私はWordやExcelもほぼ分からない状態で入社し、既に勉強してきた同期たちとの差は歴然でしたので、業務習得には多大な労力を要しましたね。
ーーその後、どのような経緯で家業に戻られたのですか。
木村知巳:
IT企業で3年ほど働いた頃、技術的な進歩の速さについていく厳しさを感じ始めました。それに加え、毎日の働き方にも疑問を持ったのです。満員電車で1時間かけて通勤し、帰りも混雑している。夜間の通信トラブルで遠方への保守対応もありました。
私は、この時間の浪費を避けたいと考えました。地元に戻って、都心よりもコストメリットを活かせる環境で、いかにパフォーマンスを出すか。その方がより効率的で有意義だと判断し、家業に戻ることを決断しました。
25年前の予見から始まった事業モデルの変革

ーー家業に戻って、最初に着手されたことは何ですか。
木村知巳:
当時、家業は非常にアナログな環境でしたので、まずパソコンの購入とISDN回線を契約するところから着手しました。そして兄から「ウェブで物を売ってみたら?必ずそこにマーケットがある」と言われたのがきっかけで、EC化に取り組みます。HTMLを独学で学び、見よう見まねでホームページをつくりました。埼玉など遠方のお客様が、栃木県のマルニに私のつくったホームページをプリントアウトしてもってきて来てくれたのを見たとき、「これからは絶対Webで物が売れる時代に変わる」と確信しました。
ーー製造へ事業転換された理由を教えていただけますか。
木村知巳:
私が入社した当時は、額縁を仕入れて販売する小売・卸が事業の9割を占めていました。しかし、Webサイトの開設に取り組み始める中で、予見したことがありました。これからはインターネット上で商品が価格で並べられ、金額で比較される時代が必ず来ると、25年前に確信したのです。
その時代に生き残るには、メーカーになり自社製品を持たなければ勝てないと考えました。メーカーとして本格的に取り組むには、材料の安定仕入れが必須です。国内の問屋を経由していては、価格競争力にも勝てません。私は、海外から直接仕入れるしかないと考えました。
そこで、海外経験の取引経験が全くないにもかかわらず、単身で海外へ渡りました。製品に記載された品番や輸入国名といった生産国の表記だけを頼りに、Webで検索してサプライヤーを探す活動を続けたのです。非常に時間はかかりましたが、そのおかげで安定した品質の材料を、適正なコストで直接仕入れられる体制が整いました。
短納期を実現したDX戦略とIT会社化構想
ーー貴社の最大の強みについて、どのようにお考えですか。
木村知巳:
弊社の最大の強みは、オーダー額縁の圧倒的な納期の速さです。通常、発注から納品まで2週間ほどかかるオーダー額縁を、私たちは受注から3〜4日後にはお届けできます。このスピードを実現できているのは、製造から販売までを一貫して行う体制を構築し、さらにDXを推進している結果です。
具体的には、本店サイト・楽天・Yahooなどすべての受注データが自社製造サーバーにデータが集約され、同じフォーマットに書き換えられて、製造現場に落ちる仕組みを構築しています。各機械ですが、昔は手作業で寸法調整をしていたため、間違いも起こりましたが、今は全てデジタル管理によりミスが大きく解消しました。これにより、額縁製作サイズ間違いがなくなり、生産性が飛躍的に向上しています。
ーー今後の展望についてお聞かせください。
木村知巳:
最終的にはIT会社になりたいと考えています。私たちがオンデマンドで短納期を実現するために構築してきた、受注から製造、工程管理までの全てをシステム化したITの仕組みは、非常に価値があると考えます。
この仕組みをパッケージとして、同業他社はもちろん多くの業界で活用できるシステムであると確信しています。
新規事業開発と採用戦略
ーーその他、描いている未来像はありますか。
木村知巳:
アナログな業務にこそ、デジタル技術を徹底的に活用し、独自性と競争力を高めていきたいという強い思いがあります。そのための取り組みが、コンテンツ事業と自動化技術の開発です。
また、生産現場のさらなる自動化を進め、人間の負荷を減らしたいです。そのため、最先端のロボット技術を活用したロボット開発も視野に入れています。
ーー最後に、未来の仲間に向けてメッセージをお願いします。
木村知巳:
会社として、従業員とのエンゲージメントを高めていきたいと考えています。その上で、私のクリエイティブな発想や、「IT会社になりたい」といった今の業務とは一見かけ離れているようなビジョンに共感してくれるスタッフを増やしたいです。
現場のことだけを見るのではなく、もう少し俯瞰して将来を一緒に見据えられるような、そんな仲間が集まってくれることを期待しています。どんなに時代が進化したとしても、真面目に真摯にものづくりをしていれば、お客様から必ず認めてもらい信頼を得られるというのが私の考え方です。
編集後記
理系の大学出身でありながらパソコンが苦手だったという木村氏が、IT企業での経験を経て家業に戻り、アナログだった現場をDXによって変革させた。その原動力は、「メーカーにならなければ勝てない」という25年前の強烈な危機感と先見性である。額縁という伝統的な製造業の現場から、「最終的にはIT会社になりたい」と語るビジョンは、業界の枠を軽々と超えるものだ。短納期を実現したシステムの構築、そして空間デザイン事業への挑戦は、製造業の未来を照らす一つのモデルケースとなるだろう。

木村知巳/1973年4月栃木県足利市生まれ。栃木県立足利高等学校、明治大学理工学部卒業。大学卒業後、株式会社ソリトンシステムズに入社し、3年のITエンジニアを経験する。1999年、家業であるマルニ商事株式会社に入社。2014年に同社代表取締役社長に就任。地域の活動にも注力し多くの団体に所属。