
「シーフォース株式会社」はレーザー機器をはじめとする産業機器の開発・製造・販売から、個人向けの各種作業工具の店頭販売までを幅広く手がける東京下町の企業だ。代表取締役の佐々木一富氏は、商品知識ゼロの状態から起業し、25年で精密機器の開発製造まで手がける会社へと成長させた。「悩まない」「深く考えない」という、社長の超ポジティブなマインドセットに迫る。
ジュエリー工場に憧れて、専門知識もないまま工具販売を開業
ーー会社設立までの経緯を教えてください。
佐々木一富:
高校卒業後は調理師専門学校に進学し、御徒町にあった祖父の営む金物店でアルバイトをしていました。そこで働くうちに、近くのジュエリー工場の方と知り合い、あるとき工場を見学させてもらえることになったのです。行ってみると、工場にはシルバーリングがたくさん並んでいて、その光景に圧倒されました。当時はクロムハーツをはじめとするシルバージュエリーが流行していたのもあって、私は「マジでかっこいい!自分もこの仕事に関わりたい」と思ったのです。そこで2000年、台東区台東にある自宅の1階ガレージに工具を扱う会社を設立したのが弊社の始まりです。
バブル崩壊後ではありましたが、まだ銀行は今ほど厳しくなく、1000万円ほどの融資を受けることができました。ところが、経営の経験などありませんし、そもそも私は非常にポジティブで、マイナスのことは考えない性格なので、ガレージを好きなように改装しただけで資金がなくなってしまったのです。商品の工具を仕入れるお金が足りず、商品棚がスカスカな状態での開業でした。
ーーそこからどのように業績を上げていったのでしょうか。
佐々木一富:
ひたすら飛び込み営業をしました。若かったのと私の性格があいまって、「買ってください」というより「かわいがってください」という感じで営業していました。その結果、営業先のジュエリー工場の職人さんたちにかわいがっていただき、「ここを全部回ってこい!」と手書きの営業先リストを渡してくれたこともありました。
また、会社を立ち上げた2000年から、インターネット通販も開始しました。楽天市場ができたのが1997年で、周りでECに取り組んでいる人がいなかったので、すべて独学です。ホームページ制作からIllustratorを使ったデザイン、動画編集なども自分でしていました。
「1000万円×1を売るより1万円×1000を売る」ビジネスモデル

ーー現在の事業内容を教えてください。
佐々木一富:
産業機械・作業工具を扱っており、「ないものはつくろう、よいものは仕入れよう」という方針でやってきたため、メーカーでもあり商社でもあります。お客さまの半分は、精密溶接機やレーザー系機器、3Dプリンターなど産業用途でご利用いただいており、残りの半分はジュエリーやネイルアート、歯科技工所など専門的な分野で幅広くご利用いただいています。本社の1階がプロショップなのですが、1日100人以上のご来店があり、うち6〜7割を20〜30代女性が占めているのが特徴です。
弊社のビジネスモデルは、「1000万円の商品を1つ売るのではなく、1万円のお客さま1000人で1000万円売り上げよう」というものです。これは、会社がそこまで大きくならない原因の一つではありますが、同時に経営が崩れなかった理由だともいえます。大型機械を中心に売るスタイルだと、契約数によって売上が大きくブレがちです。その点、弊社のやり方であれば、手間はかかりますが売上のブレを避けられます。
社員の恋愛相談にも乗る「愛され社長」が自らに課している責務とは
ーー社長がビジネスで大切にしていることはありますか。
佐々木一富:
私は、社員のために社長業をしています。みんなの役に立ちたい。仕事ではいくらでも力を貸すし、プライベートの相談にもたくさん乗ってきました。夜中に電話で恋愛相談を受けることもあるほどです。自分の給与は上がらなくてもいい。ただみんなに愛されて楽しくいたい。「自分が幸せでなければ、社員を幸せにはできない」と思っています。
実際に、会社を立ち上げてから25年間、ずっとハッピーです。毎日「ハッピーだな」と感じている、それがポジティブにいられる秘訣であり、孤独にならない秘訣でもあります。
また、物事を深く考えすぎる必要はないとも思っています。私はこの25年間、悩んだことがほとんどありません。悩んで解決することなら悩めばいいと思います。しかし、結局は自分がどうにかするしかないのだから、考えている時間があるなら行動に移せばいいのです。
ただ、社長として唯一すべきことは、「人を増やして、給与を上げる」ことです。人を増やすのは、会社を大きくするためではありません。若手を引き上げるために、後輩を入れる必要があるのです。後輩が入ってこなければ、たとえば袋詰め担当の従業員はずっと袋詰めをしなければならないでしょう。それでは従業員の未来はありません。
ーー最後に、若い世代にメッセージをお願いします。
佐々木一富:
格好をつけずに、自分がやりたいことをがむしゃらにやってください。若いうちは、経営論やマーケティングを学ぶことも大切でしょう。ですが私を含め、経営者の中には、細かい数字を気にせず「こんな仕事をしたいので、まずはやってみよう」と勢いで起業した人も多いはずです。あまり慎重になりすぎず、深く考えすぎる必要はありません。それよりも大事なのは、まず「行動に移すこと」だと伝えたいですね。
編集後記
インタビューは、笑いが絶えなかった。極めてポジティブシンキングな佐々木社長は、自分を「何も考えてないから」と笑うが、そのポジティブさと明るさが取引先や社員、経営者仲間に愛されているのだとよく分かる。それは、社長が実は人一倍周りを見ていて、他人のことを考えているからだろう。そんな社長が、これから顧客や社員をどれほど幸せにしていくのか楽しみだ。

佐々木一富/1975年、東京都台東区生まれ。高校卒業後、華調理製菓専門学校に進学。2000年1月、シーフォース株式会社を設立。現在は、社長業のかたわらYouTubeチャンネル「とみちゃんTV」などSNSも精力的に運営する。