
アフリカの経済成長とともに注目を集める中古車市場。この分野において、ケニアで独自の中古車流通モデルを展開しているのが、株式会社Cordia Directionsだ。同社はケニアで「Peach Cars」というマーケットプレースを運営し、現地での商取引上の課題や信用リスクと向き合いながら、業界の透明性向上に挑んでいる。その中心にいるのが、代表取締役社長の加賀野井薫氏。多彩な国際経験を経た同氏は、なぜアフリカを選び、なぜ中古車というビジネスに取り組んだのか。現地で積み重ねた挑戦の軌跡をたどった。
グローバルキャリアが紡ぐアフリカでの挑戦
ーーこれまでのキャリアについてお聞かせいただけますでしょうか。
加賀野井薫:
2012年に早稲田大学を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーの日本オフィスに入社しました。そこで3年半の間、金融業から製造業まで、あらゆる業界を経験しました。2015年から1年間は、世界的な経営大学院である「INSEAD(インシアード)」でMBAを取得。
卒業後は国連機関に出向してパレスチナベースで中東の経済支援を担当しました。2017年3月からはナイロビオフィスで、アフリカ開発銀行やUSAID(※1)の出資案件などを統括しました。
2018年末に退社し、Gojekのアフリカ版のSafeBodaというスタートアップの海外展開責任者としてナイジェリア・ケニアで事業を立ち上げました。そして2020年11月、同じくケニアで弊社を創業するに至ります。
(※1)USAID:アメリカ合衆国政府が運営する国際開発援助機関。開発途上国における経済成長や人道支援、インフラ整備などを支援している。
ーー多岐にわたるご経験の中で、なぜ「モビリティ」という分野にたどり着いたのでしょうか?
加賀野井薫:
国際協力にも興味がありましたが、寄付金ありきでは持続性に限界があると感じ、ビジネスこそが長期的な解決策を生むと考えました。また、家族に教育者が多く、人の成長に寄与したいという思いが強かったことも理由の1つです。
そんな中で「移動の自由・効率化」が人々に与えるインパクトに気づきました。アフリカ都市部では、バスで2時間かかる通勤も自家用車なら20分に短縮できます。これは毎日1時間40分の可処分時間を生み、働き方や一日の使い方を劇的に変える可能性を秘めています。
私自身も幼少期から海外を転々とし、「移動の自由」が「機会」を作り、人生を開いてくれた経験があります。そのため、このモビリティ領域に強い熱意を持つこととなりました。
不信から信頼へ 現地密着型モデルの強み

ーー貴社の事業内容を教えてください。
加賀野井薫:
弊社は、中古車を個人間で安心して取引できるマーケットプレースを運営しています。日本のサービスでたとえるなら「メルカリの自動車版」をイメージしてもらうと分かりやすいかもしれません。
弊社では、以下の3つの付加価値を提供することで、中古車が抱える「3大課題」を解決しています。その課題とは「品質の不透明性」「価格の不透明性」「支払いリスク」です。
「品質の不透明性」に対しては、300項目超の日本式の検査で品質を見える化しています。「価格の不透明性」に対しては、数十万台のビッグデータを基に適正な価格帯を提示します。「支払いリスク」に対しては、自社で運営するエスクローを活用した安全な決済システムで対応します。購入者様から代金を一時的にお預かりし、車両の引き渡しと所有権の移転が完了した後に売り手様へお支払いします。この安全な「エスクロー取引」を採用しています。
ーー市場での手応えはいかがでしょうか。
加賀野井薫:
サービス開始当初のお客様は、似たようなサービスを利用したことのある海外経験者や現地駐在員が8割でした。しかし、口コミやマーケティングで評判が広がり、現在では、過去に似たようなサービスをご利用になられたことのなかったケニア現地の方々が顧客の約9割を占めています。
「検査済みの良質車が安心して買える」という価値が浸透し始め、市場にも徐々に透明化の波が広がっていると感じます。現地の大手新車代理店やメディアでも「従来型ディーラーにはない安心度」を評価いただきました。こうした第三者からの評価にも、信頼を築けている手応えを感じています。
アフリカ発イノベーション企業を目指して

ーー今後、5年後、10年後のビジョンや目標をお聞かせください。
加賀野井薫:
今後はケニア国内の更なる展開に加え、来年以降、タンザニアやウガンダへ進出します。将来的にはその他の途上国にも展開し、為替や政治リスクを分散したいと考えています。
また、将来的には事業を現地のリーダーに引き継ぎ、東京証券取引所での上場を検討しています。上場を前提にすることで、組織体制やガバナンスへの意識がより高まり、長期的な成長にもつながると感じています。
そのために、検査・物流・金融機能などを内製化してサプライチェーン(※2)全体を掌握し、取扱高10億ドル規模を目指します。「アフリカ拠点で東証上場」という前例のない挑戦をしてみたいと考えています。
(※2)サプライチェーン:商品やサービスが顧客に届くまでの、調達・検査・物流・販売・金融などを含む供給の一連の流れ。
ーー実現に向けて重点的に取り組むテーマは何でしょうか?
加賀野井薫:
管理部門とChief of Staffの採用強化です。多拠点・多国での展開、そして上場を視野に入れると、組織を大きく変える必要があります。日本の状況も現地の状況も理解できる管理部門、そして私の右腕になっていただける方を探しています。
日本と現地の両方を理解し、業務を遂行できるバイリンガルな管理系人材が必要です。私が担当している資金調達業務なども含めると、財務、会計、法律といった側面を管轄いただける管理部門の構築をともに引っ張っていただくことのできる人材を求めています。細部と大局の両方を見通せる方が理想です。
人柄や相性については、スタートアップで重要とされる、自ら積極的に動ける主体性がある方を重視します。明確なステップが決まっていない不確実な状況下でも、リスクを管理しながら方針を柔軟に決定できる。そのような方を求めています。
Chief of Staff (社長の右腕)については、日本語と英語のバイリンガル、そしてケニア現地に入り、私と一緒に汗を流して、事業を作っていってくれる方、そして私から様々なことを学び取り、将来の弊社幹部になっていただける方が理想です。
私の持っている時間や知識・経験を最大限活用し、会社の成長を前に進めるためには、絶対に必要な存在です。私と良い意味で相互に補い合う関係を築き、私が注力すべき領域に更に注力できるよう、私からとれる領域をどんどんとっていってもらいたいと思っています。
編集後記
加賀野井氏の言葉は、アフリカ市場が抱える根深い課題を具体的な体験と共に示し、ビジネスで立ち向かう熱意を鮮やかに伝えてくれた。単に金銭的な利益を追うのではない。「移動の自由」という機会を創出し、社会に長く残る仕組みを築きたい。その根底にある思いは、起業家の枠を超えた崇高なビジョンだと感じられた。海外展開などでますます飛躍していくCordia Directions/ Peach Cars社の展開に、今後も目が離せない。

加賀野井薫/1989年生まれ。早稲田大学法学部卒業後、2012年にマッキンゼー・アンド・カンパニーの日本オフィスに入社。「INSEAD(インシアード)」に留学しMBAを取得。2016年卒業後、パレスチナの国連機関に出向。2017年にケニアオフィスに移籍し、アフリカ5カ国で7プロジェクトを率いる。2019年にウガンダ発オンライン配車サービスを手掛ける「SafeBoda」社に海外展開のヘッドとして参画し、ケニアとナイジェリアで事業を立ち上げる。2020年にケニアで中古車マーケットプレース「Peach Cars」を展開する株式会社Cordia Directionsを創業。