
店内で焼き上げる「チョコクロ」をはじめ、くつろぎの空間を提供するサンマルクカフェ。2029年度に370店舗体制へのV字回復を目指す同社は今、大きな変革期にある。その改革を牽引するのが、代表取締役社長の小山典孝氏だ。前職での豊富なマーケティング経験を活かし、就任直後から矢継ぎ早に施策を打ち出している。店舗から売上高の責任を外すという独自の経営判断の真意と、これからの展望について話をうかがった。
マーケティングの知見を武器に「企てる力」が導いた現在
ーー社会人としてのキャリアはどのようにスタートされたのでしょうか。
小山典孝:
高校時代にアルバイトをしていた日本ケンタッキー・フライド・チキン株式会社(以下、KFC)に、そのまま入社しました。当初は教員志望でしたが、人を教える点ではファストフードも同じだと考えたのです。入社後は店長やエリアマネージャーなどを経験しました。当時は、アメリカ本社のマニュアルを日本流にアレンジする過程で、個々の長所を認め合いながら一つのものを作るというアメリカ型の考え方に触れ、面白さを感じていました。
その後は、会社の方針もあり、3~5年ごとに違う部署を経験しました。営業から商品開発、経営企画など、川上から川下まで一通り経験させていただいた形です。中でもマーケティングには約10年携わり、現在の私の基礎となっています。物を売る仕組みづくり全般を管轄し、企画を実行・検証するサイクルを繰り返す中で、企画を「企てる力」が身につきました。
ーー貴社の代表にはどのような経緯で就任されたのですか。
小山典孝:
KFCにおいて、会社の今後を見据える中で、自分より若い世代が会社を引っ張っていくほうがよいと考えるようになりました。そんな折にサンマルクグループからお声がけいただきました。もともとサンマルクのレストランを家族で利用しており、その世界観や、商材を大切にする姿勢に親近感を持っていました。ライセンスビジネスで「借りる側」を長く経験したので、自社ブランドを持つ「貸す側」に挑戦したいという思いもあり、お引き受けしました。
就任後100日の改革で「3つの柱」とオペレーションを構築
ーー就任後は、まず何から着手されたのでしょうか。
小山典孝:
就任から3ヶ月間の「100日プラン」として、現状認識から始めました。まずは、消費者として感じていた提供価値と、社内の認識にずれがないかを確認する必要がありました。現場の社員の協力もあって、3ヶ月を予定していたプランは実質2ヶ月で骨子ができあがったので、残りの1ヶ月は「キャンプ」と称して、幹部社員たちと内容をブラッシュアップする時間に充てることができました。
ーー具体的にはどのような方針を打ち出したのですか。
小山典孝:
大きく3つの柱を立てました。1つ目は店舗というハード面、「アセット」の改良です。デジタルサイネージの導入や、店舗ごとに異なっていた看板のデザインを統一することで、お客様がひと目でサンマルクカフェだと認識できるようにしました。
2つ目は、今ある価値を正しく伝える「マーケティング」の刷新で、それまでのコラボ依存から脱却し、本来のプロダクトで勝負する方針へ転換しました。具体的には、「チョコクロ」のボックス販売を強化して、手土産需要の喚起や学生同士でのシェアを楽しむ提案をしたり、自社商品の力で新しい利用機会を創出しています。
そして3つ目が、今ある基準の徹底を目指す「オペレーション」の標準化です。これらを推進するため、各部署のハブとなる「オペレーション開発部」を新設しました。一部の店舗だけが100点を取るのではなく、全店舗が100点のレベルを達成できる状態を目指しています。また、店舗スタッフから「厨房での上下の動きが多くて大変」という声があったため、厨房レイアウトの見直しも進めています。従業員が働きやすい環境を作ることで、お客様への提供価値向上につながると考えています。
「FFH」と商品力で勝負するベーカリーカフェの真価

ーー貴社ならではの強みは何だとお考えですか。
小山典孝:
サンマルクグループの原点は「ベーカリーレストラン」であるため、我々は本格的なパン屋の機能を持った「ベーカリーカフェ」であることです。私自身、入社後の店舗研修で朝6時からパンを仕込む現場を見て、その本格さに驚きました。ホットサンドやパフェ、そして看板商品のチョコクロも、すべて店舗で調理しています。
しかし、この「全店手作り」という価値が、まだ十分に伝わっていない。そこで、競合との差別化戦略として「FFH(Fresh・Fast・Handmade)」というキーワードを掲げました。チェーン店でありながら手作りしていることを視覚的に理解していただけるよう、厨房の棚を低くして調理の様子を見えるようにするなど、店舗での体験を通じてその価値を伝えていきたいと考えています。
ーー直近で新たに取り組まれていることはありますか。
小山典孝:
2025年7月、イオン相模原に“お茶”にフォーカスを当てた新ブランド「サンマルクカフェ&茶」をオープンしました。背景には、昨今の若い世代のコーヒー離れに対応し、お客様の裾野を広げたいという思いがあります。コーヒー派と、お茶派が一緒に利用できるお店にすることで、同伴者数を増やす狙いです。「&茶」という店名には、サンマルクカフェの既存メニューにお茶のメニューが加わったという意味も込めています。
メニューにもこだわり、台湾の凍頂烏龍茶を使ったミルクティーやジャスミン茶ベースのフルーツティーなど、店内で茶葉から抽出した香り高いお茶を提供しています。また、チョコクロの生地を使った「エッグタルト」など、限定商品も用意しました。まずはこの店舗からスタートし、将来的には全国の店舗へ展開していきたいと考えています。
仲間と未来を作る 店舗がお客様に向き合える組織へ
ーー組織づくりで、大切にしていることは何ですか。
小山典孝:
弊社では「仲間と未来を創る」というスローガンを掲げています。これは社員たちが自ら決めた言葉で、困難な時でもこの言葉に立ち返り、仲間と共に乗り越えていこうという強い思いが込められています。
また、具体的な運営方針として、店舗社員には売上高や利益ではなく、オペレーションの責任を持ってもらうようにしています。そこさえしっかりしていれば、自ずと結果はついてくるからです。もし利益が出ないなら、それは仕組みをつくっている本社の問題です。店舗には接客や調理といった業務に集中し、お客様に最高の体験を提供することに注力してほしいのです。
ーー最後に、今後の展望をお聞かせください。
小山典孝:
お客様の生活動線の中に寄り添えるチェーンを目指しています。ビジネスパーソンにとっては、電源とWi-Fiがあって快適に仕事ができる場所。地域の方々にとっては、くつろぎの場。私たちはその両方の「真ん中」を狙っていきます。ブランドとは、企業ではなくお客様がつくっていくものです。私たちが発信するメッセージを店舗で体感していただき、「もっとこうしたらよいのでは」という意見を気軽に言っていただけるように、お客様とも対話できる場所でありたいと思います。
編集後記
「ベーカリーカフェ」という原点を見つめ直し、その価値をどう伝えるか。小山氏の改革は、マーケティングの視点から事業の本質を再定義する取り組みだ。しかし、その根幹にあるのは「店舗に売上責任は負わせない」という言葉に象徴される、働く人への深い信頼である。優れた戦略も、実行する「人」がいなければ意味をなさない。従業員が安心してオペレーションに集中できる環境を作ることこそが、最高の顧客体験を生み、企業の成長につながる。その信念が、サンマルクカフェを新たなステージへと導いていくだろう。

小山典孝/1990年日本KFC入社。店長・エリアマネージャー、オペレーション開発部、商品開発部、経営企画部、ピザハットマーケティング・購買部、KFCマーケティング部、営業戦略統括部長、開発本部CDOを経て、2025年3月末に退社。同年4月サンマルクカフェ 代表取締役社長に就任。