
首都圏を中心にスーパーマーケットを展開するサミット株式会社。事業ビジョン「サミットが日本のスーパーマーケットを楽しくする」を合言葉に、社員の創意工夫を推奨する組織風土が強みだ。同社を率いる代表取締役社長の服部哲也氏は、学生時代のアルバイトから入社し、トップに登りつめた経歴を持つ。バイヤーや総菜部マネジャーなど、想像していなかった配属先で、いかにして仕事の面白さを見出し、成果を上げてきたのか。偶然をチャンスに変え、仕事を楽しむ思考法と、個人の強みを活かす組織論について話を聞いた。
偶然の連続から社長へ 仕事の面白さを見つけた軌跡
ーー社会人としてのキャリアはどのようにスタートされたのでしょうか。
服部哲也:
大学時代にサミットでアルバイトをしていたのが始まりです。学生時代からバンド活動をしていましたが、アルバイト先の店長に声をかけていただき、入社しました。もともとこの業界で働こうと思っていたわけではありませんでしたが、職場の雰囲気が良く、体を動かして売り場をつくって商売をするスタイルが自分に合っていると感じ、「ここなら楽しく働ける」と入社を決めました。
ーー入社後は、どのようなキャリアを歩まれましたか。
服部哲也:
当初は店舗勤務でしたが、27歳の時にバイヤーへの異動がありました。その際、役員の方に「バイヤーは、産地や工場で良い商品を見つけ出し、お客様に喜びを提供するのが仕事だ。だから、どんどん外へ出なさい」と言われたのが印象的でした。実際、全国を回ると多くの発見があり、この言葉が仕事観を変えるきっかけになりました。自ら発掘した商品にお客様が喜んでくれることが、何より楽しかったのです。
以前、私が仕入れた商品をきっかけに、大阪にお住まいのお客様から手紙をいただいたこともあります。手紙には「その商品が美味しいので、大阪にも出店してほしい」とありました。自分の仕事がお客様の大きなご満足につながったときは、何物にも代えがたい喜びがありました。
ーーご自身にとってのターニングポイントはどこにありましたか。
服部哲也:
転機となったのは、39歳の時に総菜部マネジャーを任されたことです。それまではバイヤーとして、任された部門の仕入れを個人の裁量で完結する仕事をしていました。
しかし総菜部でのマネジメントは、現場のスタッフ全員と一つの目標に向かって進むチームプレーが求められます。当初は現場との距離もありましたが、対話を重ねるうちに、次第に組織が一体となっていくのを感じました。本部からの一方的な発信ではなく、現場の意見を聞くことで、味はもちろんのこと、オペレーションの改善にもつながりました。一人では成し遂げられないことを、チームで実現する。そこに、バイヤー時代とは異なる新しいやりがいを見出すことができました。
社員の自発的な共感から生まれた合言葉
ーー代表取締役社長に就任された際は、どのような心境でしたか。
服部哲也:
弊社には、役職ではなく「さん」づけで呼び合う組織風土や、権限ではなく役割を基軸にする企業文化があります。こうした風通しの良い社風を、さらに発展させていきたいと考えました。特に、決められたことだけでなく、社員全員が新たな挑戦ができるマインドを育てたかったのです。それぞれの持ち場で創意工夫を凝らすことが、変化し続けるニーズに応える力になると信じています。
ーー経営者として大切にされている考え方についてお聞かせください。
服部哲也:
永守重信氏の「一人の百歩より百人の一歩」という言葉を、常に社員に伝えています。一人で組織を牽引するのではなく、普通の人間がそれぞれの個性を活かし、皆で前に進んでいく組織でありたいと考えています。各店舗で生まれた良い事例も、すぐに全店で真似させるのではなく、共有された情報をヒントに「自分の店ではもっと良いやり方をしよう」と、互いに高め合ってほしいのです。これらの個々の創意工夫の積み重ねが、組織全体の力に変わっていきます。
また、弊社では最近「サミットの仕事は楽しい」が合言葉のようになっています。きっかけは、私が「スーパーマーケットの仕事は楽しい」ということをもっと発信したいと常々話していたことです。それを聞いた社員たちが、主語を「サミット」に置き換え、頭文字をとって「S(サミットの)S(仕事は)T(楽しい)」と呼ぶようになりました。そして、あるお取引先様は、この考えに共感して「SST」のロゴ入りバッジをつくってくださいました。今では多くの社員がバッジを自主的に付けてくれています。
画一的な接客マニュアルからの脱却 再来店動機を生み出す深い信頼関係

ーー今後のスーパーマーケットの未来について、どのようにお考えですか。
服部哲也:
AIによる自動発注など、テクノロジーで代替できる仕事は今後も増えていくでしょう。そうした中で、スーパーにおいて人間にしかできない、最後に残る価値は「向き合う接客」だと考えています。お客様との会話などを通じ、元気や活力を分かち合う情緒的な価値こそ、今後における最大の武器になります。「近い、安い、新鮮」という従来から考えられていた来店動機を超える、弊社ならではの魅力を人の力で創り出したいのです。
ーー「向き合う接客」とは、具体的にどのような取り組みなのでしょうか。
服部哲也:
従来の画一的なマニュアル接客を根本から見直した取り組みです。たとえば、形式的な挨拶やお辞儀にとらわれず、お客様の目を見た対話を重視するなど、社員自らより良い接客のあり方を模索してきました。
この工夫によって、お客様に「あなたに会いに来た」と言っていただける深い信頼関係が生まれ、社員個人のモチベーションアップにもつながっています。スーパーマーケットにおいて、この情緒的な価値での再来店動機をつくり出せることこそ、他社にはない最大の強みとなると考えています。
日本のスーパーマーケットを楽しくする 未来への挑戦
ーー今後の展望を教えてください。
服部哲也:
弊社の事業ビジョンは「サミットが日本のスーパーマーケットを楽しくする」です。これは単に自社が楽しければ良いということではなく、業界全体を魅力的にし、「スーパーマーケットで働きたい」と思う人を増やしたいという願いが込められています。このビジョンの実現に向けて「SST」をさらに追求する方針です。私は「得体の知れない強さ」と表現していますが、他社には真似できない本質的な強さを磨き続けていきます。
こうした強さを生み出すために不可欠なのが、社員のエンゲージメント向上です。今年から人事制度を刷新し、正社員やパートといった垣根を取り払い、全員を等しく「社員」と位置づけました。働き方に応じた区分はありますが、ライフステージに合わせて柔軟に行き来できるのが特徴です。
また、教育面でも一方的に教えるのではなく、共に成長する伴走型の育成を導入しています。こうした環境づくりが離職率の低下などの成果につながっており、ビジョン実現の土台となると確信しています。
ーー最後に、若い世代へメッセージをお願いします。
服部哲也:
私自身、キャリアのほとんどは会社から与えられた役割を懸命にこなしてきた結果です。スタンフォード大学のクランボルツ教授が提唱した「計画された偶発性理論」というものがありますが、まさにそれを地で行くようなキャリアでした。
目の前の仕事に、まずは一生懸命取り組んでみる。すると、自分でも気づかなかった可能性が見つかり、周囲もそれを認めてくれるようになります。目標から逆算する生き方も一つですが、予期せぬ出会いや役割を楽しみながら進むことで、想像もしなかった面白い人生が開けてくる。仕事は、人を最も成長させてくれるものだと信じています。
編集後記
アルバイトからトップへと昇りつめた服部氏の言葉には、キャリア形成の本質が凝縮されている。仕事の面白さは自ら見出すものであり、与えられた役割に真摯に向き合う姿勢が、予期せぬ可能性へとつながっていく。働く楽しさを基盤とし、個の創意工夫を尊重する組織風土は、競合には真似できない同社独自の強さだ。スーパーマーケットという身近な場所から業界全体の未来を牽引しようとする取り組みは、新たな働き方を模索する読者にとって、大きな示唆を与えるだろう。

服部哲也/1964年生まれ。明治大学商学部卒業。1987年サミット株式会社に入社後、総菜部マネジャー、営業企画部マネジャー、取締役常務執行役員、取締役専務執行役員などを経て、2020年4月、同社代表取締役社長に就任。