※本ページ内の情報は2026年1月時点のものです。

千葉県に本社を置き、もつ焼き店「串屋横丁」、ステーキレストラン「小松屋」などを展開するドリーマーズ株式会社。同社は一般的な飲食チェーンの常識を排し、徹底的な合理化と独自の仕組みにより、コロナ禍においても躍進を続けた。IT業界での起業経験と挫折、そしてフランチャイズ加盟店としての現場経験を経てたどり着いた、高収益を生み出す「稼げる飲食」の正体とは何か。飲食業界に新たな風を吹き込む代表取締役の中村正利氏に話を聞いた。

IT業界での経験と勝てるビジネスの本質

ーーまずは、社会人としてのキャリアのスタートについてお聞かせください。

中村正利:
私のキャリアは飲食業界からのスタートでした。調理師の専門学校を卒業後、イタリアンレストランで修業をスタートしました。その後転職した株式会社ドトールコーヒーでは焙煎業務などを経験。現場に関わる中で、飲食の仕事の面白さを感じていました。

その一方で、当時はインターネットの黎明期。「これからはネットビジネスの時代が来る」という確信めいた予感があり、その可能性に強く惹かれました。そこで27歳の時に一念発起し、株式会社ヴィジョンクエストを設立。中古車検索サービスの構築などに挑みました。しかし、ITバブルの崩壊といった時代の波もあり、結果的に志半ばで事業を畳むことになりました。

ーーそこから再び飲食業界に戻ったのはどういう経緯だったのでしょうか。

中村正利:
IT業界での挫折を経て、改めて飲食ビジネスの堅実さに気づいたことが最大の理由です。流行り廃りの激しいITとは異なり、飲食業は「食欲」という人間の根源的な欲求に基づくため、需要がゼロになることはありません。

その安定性に可能性を感じ、2001年に飲食の世界へ復帰しました。再出発の第一歩は、居酒屋チェーン「養老乃瀧」のフランチャイズ(FC)加盟でした。そこで店舗運営のイロハや利益構造を学ぶ中で、「こうすればもっと効率的になる」といった改善点が見えてきました。

その気づきを形にするため、2003年に弊社を創業し、もつ焼き店「串屋横丁」1号店を立ち上げました。IT時代に肌で感じた市場の厳しさと、FC時代の現場経験。この二つが、現在の経営スタイルの土台となっています。

「個人店」と「チェーン店」のいいとこ取りが生む競争優位性

ーー店舗展開するにあたり、どのような経営戦略を立てられたのですか。

中村正利:
一言で言えば、「個人店の利益体質」と「チェーン店のスケールメリット」を兼ね備えた、いいとこ取りのハイブリッド戦略です。

飲食業界には、「家族経営の個人店は不況に強いが、一般的なチェーン店は脆い」という定説があります。個人店は固定費が低く潰れにくい一方、チェーン店はコスト構造が重く、売上の減少がすぐに赤字に直結してしまうからです。そこで私たちは、自社で養豚農家と契約し、さらに自社の加工工場も保有する垂直統合型(※)のモデルを構築しました。市場や問屋を通さずに原料を直接仕入れて加工・配送することで、中間マージンを極限まで排除し、チェーン展開しながらも高収益を生み出す仕組みをつくり上げたのです。

(※)垂直統合型:製品やサービスを作る際の原材料調達から製造、販売まで、サプライチェーンの複数の工程を自社で一貫して行うビジネスモデル。

ーーその仕組みによって、どのようなメリットが生まれるのでしょうか。

中村正利:
原価と人件費を抑えることで、他社には真似できない「安さ」と「高収益」を両立できる点です。一般的なチェーン店では、店舗での仕込みに多くの人件費がかかりますが、弊社はセントラルキッチンから加工済みの食材が届くため、店舗での仕込み時間はゼロとなり、これにより、店舗運営のコストを劇的に削減できます。

そして、コストが浮いた分をお客様に還元できるため、3回の来店で一杯目が無料になる「ドリンクパスポート」や、制限時間内であればどれだけ食べても飲んでも上限金額が決まっている「宴会保険」といった、常識破りなサービスも提供できます。

徹底した合理化と「何もしない」経営方針

ーー組織運営において、貴社独自の取り組みがあれば教えていただけますか。

中村正利:
「徹底して『何もしない』」という経営方針を貫いています。これは決して「怠ける」という意味ではありません。お客様への価値提供に直結しない業務は一切やらないという、合理化を突き詰めた結果です。その最たる例が、人事評価制度の廃止です。人が人を評価する以上、全員が納得する制度をつくることは不可能です。そこで制度そのものをなくし、給与は店舗の売上実績に基づいて計算式通りに分配する仕組みにしました。これなら上司の顔色をうかがう必要も、面談の時間も不要です。

また、私の名刺には電話番号もメールアドレスも記載していません。社内調整や会議といった時間を極限までなくし、現場が本来の業務に集中できる環境をつくっています。間接部門のコストを削ぎ落とし、その分を社員やお客様に還元する。これが私たちの実践する「何もしない」経営です。

ーー直近で新たに取り組まれている事業はありますか。

中村正利:
千葉県の南房総で、純粋種のアグー豚を完全放牧飼育する「南房ジャングルファーム」をスタートしました。通常の養豚業は、豚舎の建設費や清掃、糞尿処理の設備投資に莫大なコストがかかり、利益が出にくい構造になっています。しかし、私たちは山林をフェンスで囲い、豚を放し飼いにしています。糞尿は自然に分解されるため清掃の必要がなく、設備投資も最小限で済みます。さらに、この農場を観光施設として開放し、お客様にエサやり体験をしていただくことで、飼育の手間すらエンターテインメントの一つに変えました。これも「やらないこと」を追求した結果生まれた事業です。

沖縄県内でも生産数が非常に少ない純粋種のアグー豚を低コストで育て、それを自社の店舗で提供する。第一次産業から第三次産業までを一貫して手がける六次産業によって、新たな価値を生み出しています。

ーー最後に、今後の展望と求める人材像についてお聞かせください。

中村正利:
私は会社を無闇に大きくしようとは考えていません。現在の規模感を維持しながら、より強固な経営基盤を持った高収益企業体を目指します。飲食業は「ブラック」「稼げない」というイメージを持たれがちですが、正しい仕組みで経営すれば、学歴や経歴に関係なく、結果を出せばダイレクトに報われます。これほど夢のある商売はありません。

弊社には、一店舗の運営で年収1200万円以上を稼ぐ店長もいます。そんな「稼げる飲食業」のモデルを確立し、夢を持って働ける環境を提供し続けることが、私の使命だと考えています。自身の力で人生を切り拓きたいという気概のある方と、ぜひ一緒に働きたいと願っています。

編集後記

「何もしない」。中村氏が繰り返すこの言葉の裏には、常識にとらわれない徹底的な合理精神と、関わる人々への深い配慮があった。無駄を省くことは、決して手抜きではない。それは、従業員が稼げる環境を守り、お客様に最高の商品を安く提供するための、経営者としての覚悟の表れだ。ITと飲食、二つの世界を知る中村氏だからこそ描ける同社の未来図は、飲食業界の新たなスタンダードになる可能性を秘めている。同社の今後の展開に、引き続き注目していきたい。

中村正利/千葉県出身。大阪辻調理師専門学校卒。イタリアンレストランで修業後、株式会社ドトールコーヒーでコーヒーの焙煎に携わる。その後27歳で株式会社ヴィジョンクエストを設立し、IT事業に参入するも2000年に廃業。翌年に居酒屋チェーンに加盟し、居酒屋業界に転身。2003年にドリーマーズ株式会社を設立。精肉工場、内臓工場、直営牧場などの一次産業の他、居酒屋、カフェ、ステーキ店、精肉店など50店舗を展開している。